第三話 海辺の梓
大きな駅のコンコース。
たくさんの人が歩き
主人公の女の子とすれ違っていく。
いますれ違っている人々と
女の子が再びすれ違うことはまずないだろう。
この駅にいる何千人という人々と
女の子は再び会うことはもうないのだ。
ましてや今すれ違った人々と女の子は
言葉を掛け合ったり
一緒に笑ったりすることはない。
だから、こんなにたくさんいる人々の中から
出会えた
声を掛け合った
友達になった
ましてや
付き合った
結婚した
なんて人は自分にとっての宝物。
大事にしなくてはならない。
だってその人と出会う確率は
天文学的数字
奇跡なのだから。
そんな奇跡的な出会いを
したかもしれない女の子は
今こんなことを考えている。
「うう、、、、おしっこもれそう、、、、
トイレどこ?」
梓は駅で友達の薫と待ち合わせて
近くの海に行くのだが
早く着いてしまった薫は
待ってる間にトイレに行きたくなり
探している途中に
迷子になってしまっていた。
携帯を取り出し
薫に電話する梓
「あ!薫ちゃん!
トイレ探してたら迷っちゃった
どうしよう」
「えー!
もうちょっとで着くからそこでまってるのよ!」
しばらくすると薫が現れた。
「はー見つけられて良かった
梓!トイレはこっちよ!」
手を引いて連れて行こうとする薫に梓は
ちょっと困った顔で言った
「でも、、ひとつ問題があるの、、」
「どうしたの梓」
「あのね、海の更衣室ってお金高いでしょ
だから私、下に水着着てきたの」
水着の肩ひもをちらりと見せる梓、、
「あんたは小学生か、、、
で、それがどうしたの、、」
「トイレ行く時うまく脱げないから
ちょっと手伝ってくれる?
困ったことにワンピースなのよねえ、、
ビキニにすれば良かった、、、」
この女の子は駅のトイレで全裸になるつもりだろうか、、
なんだかんだで無事トイレもすまし
やっと海辺にたどりついた二人
周囲の男どもの視線を
独占する彼女らは
先ほどの情けないエピソードを
微塵も感じさせずに堂々としていた。
波打ち際に座る梓
三角座りをして波を見ているようだ。
波が来る。
波が退く。
そのたびに首を動かして
波の動きを追っている。
波が来る。
波が退く。
すると女の子は、
三角座りをしたまま、横に寝てしまった。
「どうすればいいんだろう」
梓は横になったまま呟いた。
「何が?」
周囲に群がる男たちを蹴散らしながら
薫はいった。
「私、男の子に声はよくかけられるけど
自分から声をかけたことがないの、、
だからどうすればいいかわかんなくて、、、」
「与える男ね、、、
ほっとけば向こうから声をかけてくるわよ」
「そうかなあ、、、」
梓はまた波を見つめる。
寄せては返す波。
なんだか梓は眠くなってきていた。
また始めました。
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