声が出ない
テーマパークの通用門の前に梓は立っている。
夏の朝に。
彼女は何かを待っていた。
来た!
梓はあわてて隠れた。
汗を拭きながら
小走りに通用門に向かう男。
たくさんのタイムカードの中から
自分のものを探すのに苦労しているようだ。
「ストーカーはつけられるから怖いのよねえ
こうして動きを見張ってれば
こわくないよーだ」
梓は彼女なりにストーカー対策を考えたようだったが
自分がストーカーになっていることにまだ気が
ついていないようだった。
彼はまたぼさぼさ頭にヨレヨレTシャツで
昨日と同じくイケてなかった。
寝起きのぼーっとした顔が
イケてない度にさらに拍車をかけていた。
対して
梓はピンクのTシャツにGパンのそっけない姿
しかし、そんな恰好でも周囲の空気を変える
オーラが漂っている。
あたふたとタイムカードを探している彼の後ろに
梓は立った。
腕を組んで仁王立ち
無理矢理眉間にしわを寄せて
怖い顔をしているつもり。
それに気がついた彼は
あわてて「おさきにどうぞ」といった。
梓は「それにしてもあなたイケてないわねえ、ふふん」
と言おうと思って、
昨日から練習もしていたのだが
なぜか言葉が出なかった。
彼が何かを話しかけてきたが
無視して更衣室の方に
うつむき加減に歩いて行った。
後ろに立った時、、、
なぜ声が出なかったんだろう、、、、
お便りお待ちしてます