新しい一歩
6月は梅雨。
晴れ間を忘れた外の天気は今日も雨。
あれ?太陽の形ってどんなんだったっけ?
しばらく見てないので忘れちゃった、
なんて人もいるかもしれない。
仕方がないので家でギターばっかり弾いている与える男。
最近与える男は充実している。
はっきりと未来に向かう目標が見えていたからだ。
バンドを成功させる。
梓を幸せにする。
親父が死んで、町をさまよっていた頃が
うそのように、与える男の眼は生き生きとしている。
そうか、、親父が死んでからもう半年か、、、早いもんだ。
与える男はギターを置き親父の部屋に入ってみた。
親父の部屋はあの時のままの状態だ。
聞いていたCD、読みかけの本まで
あの夜のままでそこに存在している。
「だめだ、、、」
与える男はつぶやく。
「親父、、、これじゃ駄目なんだよな?」
そう言って、与える男は部屋を飛び出し
居間にいる母さんの所まで走っていく。
「母さん。親父がね、駄目だって!これじゃ駄目だって言ってるんだよ!」
「いったい何を言ってるのよ?
わけがわからない、、、お父さんがどうしたの?」
「だから、部屋をかたずけるんだよ!母さん!
梓も呼ぶから一緒にかたずけようよ!」
はっと言う顔をした後、下を向く母さん。
ほどなく梓もやって来た。
家に来るなり、梓は与える男を問い詰める。
「なんでお父さんの部屋をかたずけるの?
あの部屋はね!お父さんの思い出がいっぱい詰まっているのよ!
お母さんには大切な場所なのよ!
そんなこともわからないの!」
「だからかたずけるんだよ!」
与える男は叫ぶ。
「思い出にしがみついてちゃ駄目なんだよ!
僕は、親父からギターをもらって新しい目標を持てた。
梓もいる。
でも母さんはいまだに毎日この部屋を掃除しているだけだ。
僕は母さんにも僕みたいに新しいことを初めてほしいんだよ!
僕は今、充実している。
母さんにも、充実してほしいんだよ!
親父もそう言ってた。
部屋に入ったら聞こえたんだ。
だから、かたずけようよ!あの部屋を」
母さんは、少しさびしそうな顔をした後静かにうなずいた。
「そうね、、、あんたの言う通りだわ。
いつまでもあの部屋でめそめそしてるって
父さんにばれたら、きっと叱られる、、、
あの部屋はあんたが使いなさい。」
母さんは段ボールを持ってきて
ひとつひとつ、親父の思い出の品を入れていく。
来ていた服。
思い出の写真。
母さんの丸めた背中。
丁寧に箱に詰めていく。
「こうやって忘れていくのかねえ。つらいわ、、、」
母さんがつぶやく。
「でも、こうしろって親父が言ってるんだ。
まったく、、、
俺を忘れて新しい一歩を踏み出せなんて
勝手に死んどいてそりゃないよって感じだよな!」
「そうね、、、勝手な人ね」
母さんも少し笑って言う。
梓の眼にはうっすらと涙が浮かんでいる。
しかし顔は晴れやかな笑顔だ。
そう言えば、外の雨もやんでいる。
梅雨の晴れ間の日差しが、窓から部屋に差し込んできた。
第二話完
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