自信作!!
初めてのバンド練習から数日後、与える男は吉田君に
いつもの公園に呼び出された。
何やら大事な用事があるらしい。
吉田君の深刻そうな様子に
与える男は少し心配になって、急いで公園に向かう。
「ごめん待った?用事って何?」
いつもと違う真剣な表情の吉田君。
「与える男よ、俺たちこの前バンド練習したよな?」
「したけど、それがどうしたの?」
「それでな、これから俺たちは、いろんな曲を練習していくわけやけど
その曲ってみんな、他人が作った曲やんか?
いわば、借り物って訳や。
それじゃあ、つまらんとは思わんか?与える男よ」
吉田君は何を言いたいんだろうか?
もったいつけないで、早く言えばいいのにと与える男は思う。
「そこでや!俺たちがもっとうまくなった暁には
自分たちの曲、つまりオリジナルの曲を作ろうやないか!
そしてそのために必要なもの!
歌詞ってやつを俺が考えて来たぞ!
与える男よ!ちょっと見て感想を聞かせてくれ!」
「へえすごいね!
お前にそんな才能があったなんて知らなかったよ」
与える男は感心して、吉田君から一枚の紙切れを受け取る。
何度も文字を消したり書いたりした跡が見える。
余程時間をかけて練ったのだろう。
与える男は紙を開いて読んでみた。
俺の瞳はスネークアイ 吉田作
題名から何やら怪しげな雰囲気を感じ取る与える男。
その予感が当たらなければいいが、、、
不安に駆られながら与える男はその先を読んでみる。
おーれーの瞳は!! ウォウォウ(×26回)
ホットだぜ!すばらしいぜ!
どれくらい素晴らしいかって言うとウォウォウ(×55回)
せーつーめーいーできん!
与える男は静かにその紙を閉じため息を一つついた。
その先を平然と読めるほど
与える男の神経は図太くはなかった。
「ど、どうやった!俺の自信作!」
目を輝かせながら感想を求める吉田君。
与える男は額から脂汗がにじみ出てくるのを感じた。
「こんなイタい文章初めて見たわ!!」
と、一言で否定するのはたやすいことだ。
しかし、吉田君が一生懸命考えて作って
しかも自分では自信作だと言いきっているのに、
どうしてそんなことが言えようか。
吉田君の目線が胸に突き刺さる与える男。
「、、、よ、よく頑張って作ったんじゃない、、、
で、でも。この10行目の セクシーダイナマイト は
なんか、ありきたりな言葉だよな、、、」
嬉しそうな顔をして吉田君は叫ぶ。
「そうやな!確かにオリジナリティーに欠けてるなあ、、
アドバイスありがとう!
よーし!帰ってもう一つ作ってくるわ!
じゃあなあ!」
走り去る吉田君を見送りながら与える男は思った。
また書くの、、、吉田君、、、
勘弁してくれよ。
立ちつくす与える男の傍らを5月の物とは
思えないほどの冷たい風が吹き抜けていった。
甲子園ってほんと右打者に有利な球場だよねえ