エピローグ
その後、ブラッド・ミルトンは逮捕された。さらに共犯者と言うことでセドリック・バレットも捕まった。
容疑は、食品偽造による詐欺罪、犯罪組織と関係を持った容疑、そして土地を奪い取った行為に関する脅迫罪、傷害罪、拉致監禁などなど、実に様々な罪状で立件されている。中でも重いのが、シャロンとマイラの両親を殺した容疑、つまり殺人罪だ。おそらく、絞首刑は免れないだろう。
捕まっていた子供達だが、ヤードが八方手を尽くして肉親や親戚を探した。だが、見つかったのはほんの一部。ほとんどの親が土地と職をなくしたため、イギリス中の都市を渡り歩く羽目になってしまった。そのため、連絡がつかないのだ。
そんな状況で手を貸してくれたのが、ゲイリーだった。
ゲイリーは、僕達の行動を陰から支えてくれたロンドン・イレギュラーズに目を付けた。そして、彼らを衛生局外部情報部としてスカウトし、ベイカー街に専用オフィス兼住居を作ってくれた。
それを利用し、引き取り手がない子供達をロンドン・イレギュラーズに編入してくれたのだ。この件に関して、リーダーのウィギンスいわく、「お役所所属になって忙しくなるだろうから、増員は大歓迎ですぜ」だそう。
――事件後、二日目の朝――
僕は昨晩、オックスフォードに帰っていた。あんな事に巻き込まれたのに、一週間の休みの最終日を自宅で過ごせてラッキーだと思っている。
ベッドから降り、着替えを済ませると、僕はリビングへ向かった。
リビングには、すでに朝食が用意してあった。独り身のはずなのになぜ、いつの間にか食事があるのかというと……。
「おはよう、お兄ちゃん。よく眠れた?」
「思っていたより遅かったわね。食事が覚めないうちに食べちゃって」
そう、シャロンとマイラが同居することになったのだ。
これはシャロンの頼みだった。シャロンはそこそこ腕が立つからイースト・エンドでも暮らしていけるが、マイラはそうじゃない。イースト・エンドに住むには危険すぎる。だから、マイラだけでも引き取ってくれと泣きつかれたのだ。
でも、僕はこの仲のよさそうな姉妹を引き裂くことはできなかった。それにこの家は二人で暮らすにしても広すぎる。そういうわけで、二人とも一緒に住まわせることにしたのだ。
「はいはい、そうしますよ。ところで、この料理を作ったの、誰?」
「私だよ、お兄ちゃん」
「マイラが? 以外だな……」
今日のメニューはトーストとスクランブルエッグ、そして紅茶だが、どれを見ても幼いマイラが作ったとは思えない。
トーストは誰でも作れるからともかく、このスクランブルエッグ。見た目も食感もふわふわで、下手なオムレツよりも断然いい。調味料の塩も、卵を食わず、かといって日陰者になることもない、絶妙な量だ。言葉で語るのは簡単だが、このレベルに到達するには普通、とてつもない練習量を必要とする。
紅茶も、とてもいい淹れ方をしている。特に香りが素晴らしい。茶葉の持つ香りの魅力が最大限に引き出されている。
この魅力的な朝食を、僕はあっという間に完食してしまった。
「おいしかったよ。それにしても、いつ料理を教わったんだ?」
「昔、お母さんから教えてもらったの。ちょっとしか教わらなかったけど」
ちょっと? そんなバカな。ちょっとやっただけで到達できるレベルじゃないぞ、この料理は。
すると、シャロンがその疑問を解決できる発言をした。
「マイラはね、家事全般が得意だったお母さん似なの。あたしはものつくりが得意だったお父さん似ね」
つまり、遺伝か。
「なるほど。そういえば、なんだか昨日帰ってきた頃よりも家がきれいになっている気が……」
「お掃除なら、もう終わったよ。お洗濯も。二つ合わせて大体一時間くらいかかっちゃったかなぁ。もっとタイムを縮めなきゃね」
マジで!? この家は広いから掃除に時間がかかる。それに加えて洗濯三人分を、たった一時間でだと?
「マイラって、まるで……ハドソン夫人みたいだな」
「あたしもそう思う。シャーロック・ホームズに出てくる、ホームズのアパートの大家さんで、よく世話を焼いてくれる家事のプロフェッショナル……それが、ハドソン夫人」
「ううん、そんなすごい人と比べたら、私なんてまだまだだよ」
マイラは謙遜しているが、少なくとも家事に関しては秘めたる資質を持っていると思う。いずれはレディ・ハウスキーパーになれるんじゃないだろうか?
ちなみにレディ・ハウスキーパーとは、高い教養と礼儀が必要とされ、全てのメイドを統括・指揮し、仕えている家の財産管理や使用人の人事権を任されている、まさに女性版執事、あるいはクイーン・オブ・メイドとも言える存在だ。
「ところでフレディ、今日はどうするの?」
「そうだな、明日からの授業の準備はもう終わっているし……そうだ! 二人とも、オックスフォードは初めてだろ? 今から案内するよ。これからここで生活するのに役立つだろうし」
「本当? じゃ、とっておきの工具屋を案内してよ」
「私はね、おいしい物が買えるお店がいいなぁ」
「了解。じゃ、いそいで支度して。すぐに出かけるよ」
僕は、こんなに楽しい日常が好きだ。日常を愛していると言ってもいい。その日常に潤いを与えてくれるものの一つが、食事だ。
その食事を汚し、愚弄する者を僕は許さない。だから僕は戦い続ける。
そしてその戦いの記録を、僕はこう名付ける。
――食品偽装の黙示録――
さて、いかがでしたでしょうか?
この作品も、以前に発表した作品と同じく、評判が良い場合、シリーズ化を検討します。
では、また次回作でお会いしましょう。