えぶりでい メイド
僕はいつものように教室へ入る。
やはり、いつもと変わらない。読書をしているやつや、群がって笑い合っているやつらもいる。または、窓の外を見て、ボーっとしているやつもいる。
そして僕は、いつものように教室の一番廊下側の一番後ろの席に座る。教師からも、生徒からも一番目立たない席だ。だから僕は気に入っている。
しばらく座って、ボーっとしていると、朝の予鈴が鳴り、担任の中川先生が入ってくる。肩まであるうすい茶色の髪の毛で、ピンクの眼鏡をかけた、みんなから人気のある女の先生だ。
「はいはいみなさーん!自分の席に座ってくださーい!」
先生がみんなに指示をするがみんなは全く聞こうとしない。
「もう!早く座ってください!!」
先生がぷくーっとふくれているのを見て「先生かわいいー」などど、いかにもなめている声が聞こえる。
やっとみんなが自分の席に座る。
全く、どんだけのろまなやつらだ。上の人の指示をきけないほど脳みそが腐っているのか。もしくは脳みそでなく、ゴミが詰まっているんじゃないか?
僕はそう思いながら、今日の予定など、先生の話を聞く。すると最後に先生が
「今日はみなさんにとってもいい報告があります!」
「えー何かなー」などと周りから聞こえる。まぁ、僕は大体予想はついているがな。
「実は・・・・転校生がやってきました!しかも・・・・・女の子です!!」
「やっほー!」とか「女の子!?まじで!?かわいい子だったらどうしよう!!」など、ばかばかしい声が聞こえる。
「じゃあ、入ってきてー」
と、中川先生がドアのほうに声をかけると「はい」という返事とともにドアが開く。するとドアから一人の少女が歩いてくる。
髪は炎を纏っているようなきれいな赤色のショートカットで、少し背の低い美少女だ。しかも今日の朝から僕は既に会っている。そう、フレアだ。
フレアは黒板にチョークで「フレア・ローズ」と書いた。
「今日からお世話になる、フレア・ローズです。フレアと呼んでください」
そう言いながら、さっきから僕のことをずっと見ている。
周りの男どもは「やべっ超可愛いじゃん!」とか「惚れた!俺は惚れたぞ!」などと言っている。
「えーっと、フレアちゃんの席は・・・・・」
と、先生がフレアの席を探していると「あそこですね!」と言って、フレアがダッシュで僕の席の横に座る。やっぱり予想通りだ。
フレアを見ると横でなぜか「はぁ、ご主人様の横の席・・・・はぁ、はぁ・・・・・」などと言っている。先生も別に困ったような姿は見せていない。
一時間目の授業が終わり、休み時間に入る。
僕は基本的に、休み時間になると音楽室に行き、ピアノを弾く。それが習慣になっている。今日からはフレアにばれないように音楽室にこっそり行く。
音楽室には、ポニーテールの黒い髪に眼鏡をかけた女の人がいた。音楽の先生の森先生だ。授業はわかりやすいし、結構いい先生だ。「あら、藤崎君、いつも飽きないわね」と言ってくる。ピアノに飽きるなどの文字は無い!そう思いながらピアノの席に座り、自分の好きな曲を弾く。僕がピアノを弾き始めると森先生は音楽室を出た。まぁ、僕にはどうだっていい。
数分後、いつものように演奏し終わると、後ろから拍手が聞こえた。振り返ってみると真後ろにフレアがいた。
「いやー、すごいですね!ご主人様!私、もっとご主人様のことが好きになりましたよー」
「おい、フレア、なぜここにいる?」
「そりゃ、いつもご主人様のそばにメイドはいますよー」
「はぁ・・・・・」
もういいや、あまり深くに突っ込むのはやめよう・・・・。
「それじゃあ、私も一つ、演奏をしますか!」
「ん?フレア、お前楽器弾けるの?」
「はい!少しだけですがヴァイオリンを弾けます」
そう言うと、フレアは手を上にあげた。すると、周りから光が集まり、フレアの手の中にきれいなヴァイオリンが出現する。
「それじゃあ、ご主人様!一曲聴いてください!」
そう言うと、フレアはヴァイオリンを弾き始めた。
「!?」
なんだこの曲・・・・・とても幻想的で、でも聞いててとても気持ちがいい。なめらかなテンポかと思えば、激しいテンポになったり、軽やかなテンポになったり・・・・。そう、まるで天候の変わる大空のようなイメージ。自然と音が体に入ってくる。
気づけば、僕の手が勝手にピアノを弾いていた。別に知っている曲ではない。だが、勝手に指が動くのだ。僕の周りに光の粒子が飛んでいる気もした。ああ、なんて心地いいんだ。まるで、世界から離れた空間。まるで天国にいるようだ。絶対的な幸せ。これが天国なのか・・・・・。
あっという間に演奏が終わる。すると周りから大きな拍手が響いた。見ると、どうやら僕たちの演奏を聴いて、生徒や先生たちが音楽室に来たらしい。「俺、フレアちゃんは知っているけど、ピアノ弾いていた男、誰?てか、ちょーイケメンじゃね?知らないけどすげーうまい!プロじゃね?」とか「私もう感動しちゃった。音楽のこと全然知らないけど、涙が出てきたよ。しかも横の男子イケメンすぎる!けど全然知らない!」などと、いい印象の言葉が聞こえる。
横を見ると、フレアがピースをしてきた。
「ご主人様、すっごく上手でした!私、演奏してて気持ちが良かったです!また今度一緒に演奏しましょうね!」
「ふんっ、まぁまぁだったな。けど・・・・・・また演奏してやらんこともない」
「ご、ご主人様!キスしてもいいですか!?」
「や、やめろ!こんな公共の場で!」
「じゃあ自宅ならいいと!!ご主人様ったら、恥ずかしがり屋さんなんだからっ!」
「そうじゃなーい!」
はぁ、清々しい気分だったのに、妙に疲れてしまった。全く、フレアの性格には困る。
「まぁ、そんなところが可愛いんだけど・・・・・・」
「!?ご主人様・・・・・今のって・・・・・・・」
「今のって、何のことだ?」
「今・・・・そんなところが可愛いって・・・・・・」
「!?」
どうやら考えてたことを声に出してしまったらしい。この僕としたことが!どうする?言い訳は難しそうだ。今人気のアイドルにするか?いやいや、こんな状況でアイドルのことを考えているのはおかしいだろ!?
僕が考えていると。
「ご主人様・・・・・まさか・・・・・私・・・・・」
うっ!もう、無理か・・・・。
「私・・・・・以外に・・・・女がいるんですかー!」
「はぁ!?」
予想外の質問がきた。
「だってさっき、そういうところが可愛いって、まさか別の女のことをいつも考えていたんて・・・・・私、ショックです!」
「いやいや!別にそんなこと考えていないって!」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ・・・・」
「え?本当なんですね・・・・・?」
「ん?うん・・・」
「本当でしたか・・・・ぐへへ」
おい!最後の「ぐへへ」ってなんだ?すごく怪しい匂いがプンプンしているぞ!
「別の女のことを考えていないってことは・・・・・私のことを考えていたんですね?」
しまった!!僕としたことが!どうする?ここはやっぱりアイドルでごまかすか?いや!アイドルも女だった!どうする!いっそ、男性アイドルでいくか!?いや、逆にキモイだろやっぱ!ええっと・・・・・ええっと・・・・・ああ、もう!全然浮かばねー!
横を見ると、フレアが体を寄せつけてきているし、どうしよう。
僕が途方に暮れていると、チャイムが鳴った。まさしく神のチャイム!
「さぁフレア、チャイムが鳴ったから、教室に帰るぞ」
なんとかこの状況を打破出来た。しかし、僕の予想が正しければ・・・・・。
「やっぱり」
学校から帰っている途中、フレアが「用事があるので先に帰る」と言っていたが、予想通り玄関でフレアが正座をして待っていた。
「おかえりなさいませ、ご主人様!ご飯にします?お風呂にします?そ・れ・と・も、私にします?」
僕はフレアを無視して二階にあがる。するとフレアが猛ダッシュで追いかけてくる。
「どうして無視するんですか!?ご主人様!?お昼はあんなに私を求めていたのに!」
「いや、求めてない!」
「じゃあ誰を可愛いって言ったんですか?」
「そ、それは・・・・・」
「それは?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「あーもういい!ああ、フレアは可愛いよ!すっごく可愛いよ!見てるだけで癒されるし、笑っ時とかすっげー可愛い!これで満足か!?」
「ご主人様がそんなに積極的な人だったなんて・・・・・私も観察不足した!」
観察ってなんだ?なぜ僕を観察する?僕は何かの動物か?
こうして、僕とフレアの一日は終わった。まぁ、就寝の時にはふとんをめくるとフレアが既に入っていたが、それを部屋から無理矢理出して、僕は寝た。