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雪色エトランゼ  作者:
第1部
1/115

Act:1

 短めに定期的に書いていけたらと思います。

 温かい目でご一読下さい。

 ご指摘があれば、優しくお願いいたします(笑)

 夕方の河原を自転車を押して歩く。

 唯と夏奈が楽しそうに笑い声を上げ、優人と陸が最近流行っているRPGの話に没頭していた。

 俺、篠崎奏士は、そんな四人の最後からのんびり付いていく。

 遠く静かに悲しく、日暮の声が響いていた。

 こいつらは、家が近くて小さい頃からよく連んでいた仲間達だ。唯は隣の家で一つ年上で高2。角のタバコ屋兼雑貨屋の息子が同級生の優人。少し離れた公営団地に住む夏奈と陸は姉弟で、夏奈が中3、陸が中2だった。

 小学校の頃はよくこうして皆一緒に下校したものだが、中学、高校と分かれてからは集まる機会も少なくなっていた。

 今日は偶然にもみんなの時間が合った。駅前でばったり出くわし、久しぶりにこうして一緒に帰っているのだ。

「でも奏士が帰るの早いのって、珍しいな」

 一番年下の陸が振り返って俺を見る。ゲーム話がひと段落したらしい。

「うん、ああ。今日は剣道場が定期清掃でさ。部活はなしなんだ」

「そうそう、コイツはこんな事でもってなけりゃ、ずっと竹刀振ってるからな。たまに休みが必要なんだよ」

 優人がいたずらっぽい笑顔を浮かべて、茶化してくる。

「奏士、中学校から剣道やってるけど、強いの?」

「あら、陸君知らないの?奏士、中学の最後の大会で、県大会ベスト4になったんだよ」

 唯がスピードを落として俺に並んでくる。のんびりした緩い笑顔を浮かべて。

「へぇ」

「そうそう、美少女剣士現るって、一時期県下の中学じゃ話題になったよな、奏士」

 馴れ馴れしく優人が肩を組んで来た。

 残念ながら俺は背が低い。体格は小柄な夏奈といい勝負で、唯にすら背は抜かれてしまっている。その上色白で線が細い。髪が長かった昔は、それで良く女子に間違われた。

 そんな容姿が嫌で、自分を鍛える為により一層剣道にのめり込み、髪も短く刈ったのだ。

「優人、その話はやめろ」

 奏士は優人を腕を払いのける。髪を短くした今でも手拭いを巻いていると、女子部員に間違えられる事がある。

 まったく、不本意ながら……。

「もったいないわよねー。奏士ちゃんも演劇部に入ってくれれば、お姉ちゃんがもっと可愛くしてあげるのに」

 唯が頬に手を当て首を傾げる。見た目は穏やかなお姉さんなのに、俺をおもちゃにして遊ぶのだ、この人は。

「奏士、またあたしの服、貸してあげようか」

 元気ハツラツな夏奈がにっと笑った。

「黙れ。そして死ね」

 俺が冷たく切り捨てると、夏奈がぶーぶー頬を膨らませる。

「ヒドーイ、奏士、ヒドーイ!あと、その頭、似合ってなーい!」

 夏奈の反応に、みんながはははと笑う。

 しばらく頑張ったが、結局は俺もつられて笑ってしまった。

 久しぶりの楽しい夕方。たまにはこうしてまた集まるのも悪くないかなと思う。

 最近の学校の出来事、勉強のこと、友人のこと、ゲームのこと、おしゃれに恋愛話。こいつらと一緒にいると、本当に話題は尽きない。

 しかしその途中、最初に異変に気が付いたのは、夏奈だった。

 急にてててと走り出すと土手を器用に降りる。そして、じっと川面を見つめ出した。

「どうしたよ、夏奈」

 その後に優人と陸が続いて河原に下りた。

「うん、何かあそこ、光ってない?」

「うん、ああ本当だ。何か沈んでんのかな」

「夏奈はよくろくでもないもの見つけるよな」

 陸が茶化すように笑うと、夏奈がきりっと睨み返した。

「おーい、危ないぞ。川に落ちるなよ」

 俺は土手の上から声を掛ける。調子に乗ったあいつ等は、何をしでかすかわかったものではない。もう季節は夏だが、川に落ちたら濡れたまま家まで帰る羽目になる。流石に風を引くだろう。

 その時、河原を強い風が吹き抜けた。

 思わず、俺は目を閉じた。

「っ、きゃ!」

 そして不意に上がる夏奈の悲鳴。

 目を開けた瞬間愕然とする。

 目の前の光景が信じられない。

 川面が大きく盛り上がっていた。ごうっと、水が流れる音が響き渡る。

 その水柱の高さが、どんどん延びていく。まるで川面から蛇が鎌首をもたげているようだった。

 誰もが声を失っていた。

 高く持ち上がった水柱は、一瞬制止したかと思うと、まるで意志を持っているかのように、夏奈達の方に一気に崩れ落ちてきた。

「夏奈!優人!陸!逃げろ!」

 俺は叫ぶと自転車を放り出し、土手を駆け下りた。

 しかし水柱の動きの方が早かった。

 大量の水の向こうに、三人の影が消えて行く。

 地面に落ちた水は、まるで意識を持っているかのように再び収束し、今度は近くにいた俺に、そして唯に向かって襲い来る。

「唯姉、逃げろ!」

 思いっきり叫んだ瞬間、圧倒的水量が俺を飲み込む。

 水の冷たさよりも圧倒的質量が押し寄せる圧力に、意識が飛びそうになる。

 目の前が暗くなる前、唯までもが水柱の中に消えるのが見えた気がした。

 一瞬の異常事態。

 何が何かも分からないまま、俺の意識はそこでぷつりと途切れてしまった。



 小さい頃、真っ直ぐな強さに憧れていた。祖父の道場にあった日本刀のように、曲がりのない力強さに憧れていた。

 奏士、奏士と可愛がってくれた祖父は大好きだった。警察官だった祖父は、退職後居合いと剣道を教える道場を営んでいた。子供ながらに甘すぎるのではと思うほど祖父は自分に甘かったが、道場にいる時だけは違った。

 何者をも寄せ付けない鋭い眼光。鋼のような腕が日本刀を操る。怖いぐらいの集中と気迫が常に道場を満たしていた。

 子供心にその姿は恐ろしかったが、同時に憧れを抱くには十分に格好良かった。その頃からずっと、そんな祖父の姿に憧れていた。刃のようなその雰囲気に自分もそうありたいと思った。

 何故いまさらそんな事を思い出したのだろう。

 分からない。

 だが、何となく自分という人間は、そうあらねばならないという事を思い出した気がする。

 そして俺は、ゆっくりと目を開けた。



 最初に視界に飛び込んできたのは、深い森の風景だった。濃い草いきれが鼻をつく。頬を刺す草の感触に、朧気だった意識がだんだんと覚醒する。

 俺はゆっくりと体を起こした。

 特に痛い箇所はなかったが、なんだか気だるく手足の先に痺れているような感覚が残ってきた。

 大きく深呼吸する。

 はらりと落ちてくる長い髪を掻き上げる。

 その動作を自然とこなし、一呼吸置いてからふと違和感に気が付いた。

 今の俺はスポーツ刈りのはず。落ちてくるほどの髪なんてない。

 ぽんぽんと自分の頭を触ってみる。

 髪がある。それもかなり長い。

 後ろは肩甲骨の上あたりまで。前は眉にかからない程度。

 頭がぼやっとする。

 これはなんだ?

 優人か夏奈あたりの悪戯か?

 おもむろに一房引っ張ってみる。

 ……痛い。

 当たり前だ。髪を引っ張れば痛いに決まっている。

 恐る恐る髪を視界に入れる。

 黒髪ならまだ現実味があっただろう。日本人の髪は黒いのだから。しかし、視界に入った自分の髪は透き通る様な銀髪。

 銀……髪?

 何が何だかわけが分からない。

 頭が痛くなる。

 俺は大きく深呼吸した。

 鏡がない以上、とりあえず髪の件は保留だ。

 まずは現状を把握しなければならない。

 立ち上がり当たりを見回す。

 森だ。どこまでも鬱蒼と木々が生い茂っていた。

 確か俺は、唯や優人達と川に流されたはず。河原の周りには、森なんてなかった。

 どこまで流されたというのだろうか。優人達は、唯はどうなったのだろうか。

 当てもなく当たりを見回す。ふわりと揺れる長い髪が鬱陶しい。

 ふと視界の隅に白いものが見えた。

 まだ覚束ない足取りで駆け寄ると、優人が履いていたスニーカーが片方転がっていた。

 慌てて当たりを探す。

 あっ。

 そこから少し離れたところに、ガタイの良い体が茂みに突っ込む様に倒れていた。あれは、優人だ!

「おい、優人!」

 叫んで、ふと自分の声に違和感を覚える。

 ……妙に高い。

 喉をやられたかなと思いつつも、今はとりあえず優人を助けなければ。

「おい、優人、起きろ」

 とりあえず外傷は無いようだ。

 二三度頬を叩くと、優人はうううっと唸り声を上げながら起き上がった。

「っつ、何が起きたんだ……?」

「わからんが、とりあえず唯達も探さないと。この辺りにいるかもしれない」

「ん、ああ、そうだな…」

 まだ意識がはっきりしないのか、頭を振りながらこっちを見た優人は、そこで硬直してしまった。

「……奏士、か……?」

 狐に摘まれたような顔をする優人。

「何言ってんだ、当たり前だろ。髪が何だかおかしいが、どうなってる?寝てる間に悪戯されたようなんだが……。お前じゃないだろうな」

「馬鹿言うなよ。どうなってるってお前……超美人だぜ」

 ぽかんとしたまま優人が馬鹿な事を口走る。

 俺はすかさずその頭を叩いた。

「馬鹿、今はそのネタはいいよ。呆けてないで、さっさと皆を探すぞ」

「いや、だってその声も……。前々から女みたいだとは思ってたが、お前、本当はやっぱり……。その格好はどう見たって美少女……」

 俺は問答無用で、もう一度優人の頭を叩く。

「奏士、その胸、何か詰めてあるのか?」

 頭を叩かれたリアクションもなく、優人は俺の胸を指差した。

 見下ろすと、確かに制服の胸が膨らんでいる。誰だか知らんが、こんな時に手の込んだ悪戯を……。

 俺は憤りと共に自分の胸元を覗き込んで、そして、硬直した。

 ……有り得ない。

 ……有り得ないんだ。

 頭の中が真っ白になる。恥ずかしくなって、俺は慌てて襟元をもとに戻した。

 俺は、女になっていた。

 本当に……。

 夢か?

 いや、多分そうだろうな?

 しかし、これは俺たちを襲った異変のほんの始まりでしかなかったて事は、まだ誰も知る由は無かったんだ。

 ご一読いただいた方、ありがとうございました。

 また見かけたら、よろしくお願いいたします!

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