7話 対人戦
うーん、名前が明かされた時に名前を変えればいいのかなあ?
そのへんがよくわからない系男子、どうも僕です。
遅くなりましたが、その代わり次の分までかけました!
「伏せて」
一気に自分の中の何かが引き締められるのを感じながら、トーマはリンの頭をつかみ、無理やり押しつぶす。
「キャッ、ちょ、何が」
「いいから、そのまま」
いつになく真剣味を帯びたトーマの双眸を見たリンは、何も言わずにトーマに従って、伏せやすい体勢に体を動かした。
それを気配で確認したトーマは、リンに視線を向けることなく、周りの警戒を続ける。
するとまもなく、また視界に動体を発見。迎撃。手持ちのナイフはまた残っている。次は魔法をもって迎え撃つ。トーマは風魔法の魔法陣を展開した。見たところナイフを投げている主のレベルはそれほど高くない、パワーが少し弱まるが最速の無言展開でもパワーが十分足りると判断したのだ。
間隔を置いて襲い来るナイフを、ただ淡々と風魔法で迎撃する。おそらく狙いを付けるのがかなり遅いのだろう。スキルレベルが上がるごとに遠くまで届き、かつ照準を合わせるのが早くなる。どうやらスキルレベルも高くないようだ。
作業を行いつつ、しばらく経った頃。しびれを切らしたのか、遠くから近づく影を3つ発見する。近づいてくるにつれ、それが体が縦にも横にも大きいナイト風の男、線の細いメイジ風の男、背の小さい、すばしっこそうなシーフ風の男であるとわかった。おそらくナイフを扱っていたのはシーフ風の男なのではないだろうか、とトーマは推測する。
確実に、意思を持ってこちらに近づいてきている。視力を一定時間強化するスキル『鷹目』を使用すると、その目には確かな敵意が宿っていた。
フリーターの仕事は多々ある。NPCの依頼だけではなく、プレイヤーからの依頼もこなし信頼を得ることで、安定した収入を得る必要があるのだ。その過程で、後ろめたい依頼もこなした。恨みを買うことには慣れている。
視線が来るなら、自分に来るはずなのだ。
「貴様、『英雄殺し』のリンだなぁッ!?」
細い魔術師風の男が叫んだ。キンキンと耳をつく甲高い声に、トーマは不快感に眉をひそめる。
男が叫ぶ。
「カナちゃんの、仇ィィィィィィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィイイ!」
「……なんだな」
最後にぼそっと言ったのは大きな男だ。落ち着いた雰囲気ながら、その双眸には色濃い殺意が渦巻いていた。
しかしそれぞれの血走った目は自分ではなく、すべてリンに向いていた。
「ふんっ」
ナイトがスキルエフェクトを纏った盾を持って突撃してくる。あれは『シールドバッシュ』、単純に盾で敵をぶん殴るだけの攻撃だが、筋力パラメータによって上乗せされたそれは、まさに動く壁。まともに打ち付けられればノックバックは必至だ。
「チェイヤァアアアアアアアアッッ!」
それに隠れて、無言でいたシーフが刃を引き絞りながら駆けてくる。
「世界をあまねく覆う風よ! 悪しき者を罰する炎よ! 吹き荒れ、敵を飲み込め!」
メイジがその場から少し離れ、範囲の大きい強力な魔法を発動する。魔法陣がメイジの足元で展開され、それがゆっくりと広がりながら、こちらを包み込もうとしていた。
それらはすべて、こちらではなく、確かにリンへ向かって放たれていた。
「ッ!?」
意表を突かれた。
トーマはすべてこちらに向いているものだと考えていたのだ。
(でも、まだやれること、ある)
混乱しかけた思考を整理し、優先順位を選択する。戦況を左右するのは何よりもプレイヤーの思考、意思。戦おうという熱い思いと、冷たく澄んだ頭脳。そのバランスさえ整っていれば、不利な状況でも生き残ることができるのだ。たとえ勝利できずとも、負けはしない。
まずナイフを取り出し、メイジの方へ投擲した。
「風よ、風よ、炎よ……おわっ!?」
まずは、詠唱を潰す。まず他に対処したとしても、風魔法によって強化された炎魔法をリンが浴びれば、即死はなくとも、その後の余った二人のどちらかによって殺されるだろう。メイジを潰すことが、リンが生き残る最低の条件だった。
次に、担いでいたリンを後方にぶん投げる。キャァァァ、という悲鳴が尾を引いて遠ざかっていったが、気にすることではない。ここは街道、モンスターとエンカウントすることはない。それこそバッファローのように攻撃しなければ穏便なモンスターが大半である。よっぽどのことがないかぎり、見ていないところで死亡することはないだろう。
武器を展開するには時間がなかった。トーマは『ハンドフォース』を展開した。それに加えてその部位の耐久値がが高ければ高いほど攻撃力を増すスキル『ブロークン・ロック』をさらに重ねがけにする。手の形を手刀に変え、後方に放り投げた体勢のまま、大きく体を捻って振りかぶった。
「……!!」
近づく盾に対して、青と緑、そして赤の光を纏った手刀が接近する。
スキルは多重に掛かると、色によって差別化される。
魔法やスキルの他に、相手の魔法による弱体化によってもエフェクトは増える。掲示板に掲載された動画の一つに、限界まで付加魔法を掛けるとどうなるのかというものがあり、そのあまりに現実離れした光景は人々の注目を集めた。
盾と手刀がぶつかりあう。
ギャリィィィィン!!と金属の擦れるひどい音が空気を劈き、火花が散った。
「……ンギャッ! おいデカトン、いきなり止まりやがって何を……」
ナイトが盾で敵を殴り飛ばし、そのままシーフが追撃を加える。仕留めきれなかった場合は麻痺などの状態異常を残して距離を取り、メイジが追撃を加える。このようなパターンでリンを殺害しようとしていたのだろう。しかし、まず初めのナイトが攻撃を加える時点で動きを停めてしまい、その後すべてが滞ってしまったのだ。シーフが動かないナイトに激突し、文句を吐きかけた。
しかしその後、シーフは気がついた。
「お、う、うぐぐ……ごご……」
ナイトが歯を食いしばりながら、うめき声を上げながら、細かく震えていることに。
「お、おい、どうしたっ!? 何があったんだデカトン!?」
「チ、チルビア……ッ、に、逃げ、るんだ、なっ……!」
「いきなりなんだ!?」
「こ、こいつ、やべえ……んだな! こっちは鉄製の盾で、バッシュで攻撃力上乗せして……それで、動かない。全く、ピクリともしない」
「は……?」
久しぶりに見た、いつも無愛想な仲間の必死すぎる形相に。そして金属の盾と素手がぶつかり合い、拮抗するという異様な現象に、チルビアは戦慄する。
「……」
デカビアの必死に抗う様子を見たトーマ。しかし此方と彼方は敵同士。容赦なく、さらに大きな力を込める。
「……ん?」
デカトンの耳が異音を捉えた。
それはピシ、ピシ、と何かがひび割れていくような音であり、だんだんとそれは大きさを増していく。
デカトンは直感した。
「チルビア! さっさと逃げ……」
しかしその言葉は最後まで続かなかった。
瞬間、音を立てていた盾は粉砕され、無数のポリゴン片と化した。その手の勢いは衰えることなく、盾を破壊した次に向かう先は、デカトンのその顔。手を開いたトーマはその大きな顔を掴んだのだ。だから、デカトンの言葉は中途半端に途切れたのである。
ただ掴んだだけで終わるはずもない、そのままトーマは次の行動へと移る。
掴んだその頭を振り回すように、トーマは荒々しく動かした。その先には当然ながら……
「んごがっ!?」
後ろに控えていたチルビアがいる。スキルの発動体勢にあったため、カウンターヒットとなり強制的にのけぞり状態へ移行し、攻撃を中断させられた。
僅か数瞬の出来事。三人からの、それも不意を突かれた状態での同時攻撃を、トーマはたった一人で退けた。
おまけと言わんばかりに、示威行為としてちょうど三本残っていたナイフを足元に投げる。カイン、という小気味よい音と共に、三人それぞれ悲鳴を上げて飛び上がった。
ハンドフォースとブロークン・ロックの効果が残った、輝く手を向けながら、トーマはいつものように冷静に、起伏なく問いかける。
「……何か、用? お前たち、誰」
瞬☆殺
強すぎ、と思うかもしれませんが、理由ものちのち明かされます。
スキル名とキャラ名が思いつかないww
チルビア→チビ
デカトン→デカ(い)、トン
こんだけだよっ!ww
※300ユニーク突破! PVは確か700くらい! ほんと、ありがとうございます!