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3話 ホーン・バッファロー

前回のあらすじ THE・説明回

(今日もいる……)

 そのプレイヤーの一人、トーマは降って湧いた災難に思い切り顔をしかめていた。

「おはよーございます! トーマさん♪」

「……あのさあ」

「はい、なんでしょう!?」

そう言って笑ってくる、この少女がトーマにとっての災厄の種であった。

「……何故、つきまとう?」

「なんでって……あ、えっと、それは恩返しのためで……」

「なら気にしなくていい。助けたお礼を求めるほど、厚かましくない。それでは、さようなら」

「はい? あ、さようなら……って、あれ!? どこにいくんですかあトーマさぁぁぁぁん!?」

トーマは何度かやってきた切り離し作業(人)をもう一度行うが、効果は現れず。涙を浮かべながらも、しっかりこちらを見て走ってきた。

(……見捨てて、正解だった?)

あの絶体絶命の少女を救った黒ローブの男、それがこのトーマだった。

 夜にしかならない特殊な木の実『ブラック・アップル』納品クエストのためにアイテム採集をしていたトーマだったが、その途中あまりに緊張感のない悲鳴を聞いた。危機感のない人間は早死をする。ここで助けても対した意味にはならないだろう。そう思い一度は見捨てようとしたが、遂行しているのはただのアイテム採集クエスト。何かと戦っているわけでもなかったので、結局助けることにしたのだ。

 以下は、その結果である。

『お手伝いします!』

『別に、いい』

『恩返しがしたいんです!』

『別に』

『お願いします』

『べ』

『トーマさん!』

『……』

『(ウルウルとした瞳)』

結局断りきれず、トーマはほぼ相手にしないことをはじめとした条件を提示して、リンがついてくることを許した。特に用もないはずだし、自分の無口さなどから、すぐに離れてくれるだろうと、そのときは楽観的に考えていたのだ。

 しかし何故か、このリンという少女はどこまでもニコニコとついてくる。何も喋らなくてもニコニコとしていて、声をかけるとさらに笑を深めてこちらを見てくるのだ。それが、今のトーマにはわからなかった。

 そしてそのまま二日の間、なんだかんだで一緒に歩いているのである。

 草原を二つに裂く白土の道を二人で歩く。

 二人の足の先は、『ブラッド・オペラ』に残るキャンプの一つ、『グングニル』の方へと向いていた。

『グングニル』。

それは大きな壁、さらにそこに備え付けられた機械槍、バリスタ。そしてその他多くの物資を備えた、現存する中で最も安全とされているキャンプのことである。NPCの数も最も多く、従って発生しているクエストの数も多い。金や経験値を多く必要とする初級プレイヤーはまずここを拠点とするのが一番―――というのがプレイヤーの中での常識である。そこから中堅、上位プレイヤーとなって最前線に赴くようになるのだ。

自分は最前線になど行きたくないが、そう考えていると、トーマの視界に影が映った。それは草を食む巨大な牛、『ホーン・バッファロー』である。大きな角が特徴的なそれは、基本的に敵意を向けてこない穏便なモンスターである。しかし敵意を向けられた場合のみ、こちらに攻撃を仕掛けてくるようになる。

 トーマは無視しようと、そのまま通り過ぎようとするが……

「あっ、敵! トーマさん、ここは私が!」

「っ……待って、ここは」

「大丈夫です! これくらいなら、私だって!」

リンがバッファローに向かって走っていく。呼び止めようとしたが、リンはまったく耳を貸さずにそのまま走って行ってしまった。

そう、トーマはこれが嫌なのだ。つきまとってくるだけなら、まだ我慢が効く。ただ放っておけばいいのだから。しかし、この少女はなにより……

「え、えーっと、これを展開して、っと」

リンがたどたどしくコンバットナイフを展開し、バッファローに接近する。

リンが持っていた武器は、あの見るからに重たそうな短剣だけであった。見るからに身の丈に合っていなかったそれは、予想通りというか、レベルも筋力パラメータも敏捷パラメータも技量パラメータも足りていなかった。何故持っているんだ、と言ってやりたかったが、そんなものを好き好んで買うわけもないので、何か事情があるのだろうと伺えた。しかし使えない物を持たせているわけにもいかない。ひとまず、リンのステータスにあった短剣を持たせた。その結果、持っていたナイフより遥かに弱い超初心者ナイフとなったが。

「お、おりゃー!」

スキルが発動した時に纏う浅葱色の独特な光と、武器特性『炎』の赤光がナイフに灯る。腰だめに構えられたそれは、真っ直ぐな軌跡を残して閃いた。『ノーマルバイト』と呼ばれるその一撃は、短剣使いにとって最も基本となるスキルだ。

 システムアシストによって加速したリンが猛スピードで敵に肉薄する。

「ぶもっ」

リンからの攻撃を察知したバッファローは、その大きな角を武器にしてリンに対抗した。

 攻撃が交差する。表現エンジンが摩擦によって生まれる火花さえも再現し、一瞬そこは電子の太陽よりも明るく輝いた。

 突然だが、『ホーン・バッファロー』の角はつるつるであり、加工すると綺麗な飾りになったりする。それを利用したアクセサリーは、高度な技術が必要が必要なため、そんじょそこらの宝石よりも高い値段がついたりするのだ。

むしろ最前線に行くような女性の間では宝石や指輪より、モンスターの素材を使ったアクセサリーの方が嬉しい、という意見も出ているほどで、意中の女性を狙う男性諸君の間では大人気なのである。

閑話休題。何故突然このような話をしたのかというと、そんなつるつるな角とナイフがぶつかりあうとどうなるのか、ということである。

「あっ……うごっ!?」

ナイフは角の上を滑り、そのまま空を切った。そしてそのまま、角に自分から当たりに行ってしまう。リンの体に振動と異物感、自分の存在が削られる寒気に似た感覚が走った。

 そしてそのままバッファローに押し倒され、蹄の応酬にあう。満タンだったはずの体力ゲージがガリガリ削られ、見るといつの間にか半分を割っていた。めちゃくちゃに振り回す短剣がたまにバッファローを掠めて体力ゲージを僅かに削るが、明らかに削られるペースの方が早い。

「あっ、痛っ、ちょっ、と、トーマさぁん助けてええええ」

情けない声がバッファローの鳴き声に混ざって聞こえてくる。

 トーマは額に手を当て大きなため息をついた。

 そう。この少女は何より、弱いのだ。ステータスとか、そういうものではない。戦闘経験がなさすぎて、駆け引き云々の前にとりあえず突っ込み、そしてタコ殴りにされてしまう。センスや才能はわからないが、今の時点では見てきたプレイヤーの中で一番弱い。そんな嫌な確信がトーマの中にはあった。

 これが早くリンから離れたい理由であり、また目を離せない理由なのである。

「……ヴォオァアアアアアアアッッ!」

スキル名『ウォークライ』。叫びを挙げることで対象のモンスターのヘイトを上昇させ、注意を自分の方向に向けるというものだ。

 常人を超えた爆音がトーマの口から放たれる。それはバッファローの鳴き声をも押しつぶし、空気をビリビリと震わせた。

「ぶもっ、ぶるるる」

リンにしつこく攻撃を加えていたバッファローが、トーマの方に視線を向ける。問題なくスキルは成功したようだ。

 バッファローが確かめるように、蹄で地面を掻く。そして、トーマに突撃を開始した。

 加速し、風を裂いて疾駆するバッファローは放たれた矢の如く。その巨大な角がまさしく矢先となり、トーマに襲いかかっていく。

 対峙するトーマは構えをとらず、ただ無造作に手のひらをバッファローに向けた。その手にはスキルが宿ったという証の光が灯る。『ハンドフォース』といい、一定時間の間自分の気を腕に纏わせて、拳の攻撃力のほかに単純に腕自体を強化するなどの効果を持ったスキルである。

 バッファローが接近する。角が今にもトーマに届く、その瞬間トーマは見る間に腕を振った。

「ッ」

リンが息を呑む。

 バッファローの角を、正面から受け止めていた。圧倒的なレベル差と筋力、敏捷パラメータがないとまず不可能な芸当だ。それをトーマは片手でやってのけた。

 フィールド上に生息するモンスターに搭載されている思考アルゴリズムでは、角を掴まれるという状況を打開するパターンを割り出せない。馬鹿の一つ覚えのように、突進を繰り返そうとする。しかしトーマの膂力がそれを許さない。

 生物系モンスターやプレイヤーには隠しパラメータで疲労度が存在する。度重なる無意味な加速にバッファローは疲労し、動きを鈍らせ始めた。

「……」

それを目ざとく発見したトーマは腕に、さらに大きな力を加える。

「……えぇぇ?」

バッファローの体がゆっくりと持ち上がっていく。片手で、トーマより遥かに重たいはずのバッファローが、まるで赤子のように弄ばれる様にリンは言葉を失った。むしろ、じたばたともがくバッファローに哀れみに似た感情を抱くほどであった。

「……ほっ」

そして、軽く放り投げた。少しの気負いもなく、対した力も入れずにだ。

 しかし投げられたバッファローは違った。鳴き声を残し、一瞬でリンの視界から消えたのだ。急いで視線を動かし、飛んでいったと思われる方向を見ると、そこには少しずつ小さくなっていくバッファローが確かにいた。攻撃ではなく、ただ投げとばしただけなので体力は全く減っていなかったが、あれだけ高く放り投げられたのだ。おそらく、落下ダメージで撃破となるだろう。

「やっぱり、トーマさんはすごいなあ」

ぼんやりとつぶやいた言葉に、だらんと腕をおろしたトーマが答える。

「……俺じゃない。すごいのは、パラメータ。それだけ」

それだけ言い、トーマはさっさと歩き出す。

 リンが慌ててそれを追いだす頃に、バッファローの経験値が入ってきた。

「あ、レベルアップ」

リンの耳元でぱんぱかぱーんとファンファーレが鳴る。


どうです、チートでしょう?(ゲス顔)

でも、ただのチートではありません。それじゃあ面白くありませんしね。

その秘密を明かすまで、皆さんに飽きられないように頑張ります(^-^)


どうでもいいですけど、今テスト期間です。

どうでもいいですね。毎日更新頑張りマスヨー

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