ライバル宣言
「引き、分け……?」
真也とブラックの翔が肩で息をしながら、メットを外していた。
二人の攻撃は同時に放たれ――同時に撃たれた。
真也には凄く申し訳ないけど、レッドの中でも底辺に位置する生徒が引き分けれる相手ではなかった筈だ。
では、何で?
真也は翔に問う。
「そう言えば、引き分けの場合、どうするんだ?」
「レッドの屑に、この俺が……?」
翔は真也の言葉で、正気を取り戻し、言葉を連ねる。
「ま、気にするなよ。俺なんて毎回負けてばっかりだぜ?」
真也は『負けなかった』それだけで、天にも昇る気持ちなのか、にっこり笑顔で言う。
翔は視線を真也に向け、問う。
「お前、名前は何て言う?」
「……和地真也。お前は?」
「鰐塚翔。今日からお前のライバルだ。覚えとけ」
それだけ言うと、翔は背を翻し、歩き去っていった。
「はあ!?」
後に残った翔の取り巻き二人はそんな叫び声を発し、真也を殺す勢いで睨む。
「お前みたいな屑がいきがんじゃねえぞ!!」
「そうよ! あの人はまだ、パートナーが居ないんだからね!!」
凄まじい殺気に真也はただただ、狼狽するだけである。
「アンタなんてライバルじゃないから!! 私が認めないわ!」
「わかったって。ライバルとは思わないから、速くどっか行ってくれーー!!」
「はあ!? ライバルとは思わないから……何て傲慢な!!」
「……どうすりゃいいんだよう!?」
真也は悲痛な叫び声を発する。
取り巻きの二人は息巻きながらも、翔を追うためか、小走りでどこかへ去っていった。
「何で、こんな目に……」
「ブラックに目を付けられるなんて……」
二人は同じような、そして本質的には異なる意味を持つため息を吐いた。
真也は取り巻き二人のクレームに。
香里奈は翔に目の敵にされたことにである。
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「よっ! 昨日はありがとな!」
真也は登校中にいきなり背を叩かれ、咳き込んだ。
何やらとても元気な声だったが……。
振り返り、強襲者の顔を見た。
凄く、イケメンな方だった。
スラッとした長身に、適度に筋肉の付いた体型。
髪色は自然色であろう、茶髪に近い黒髪。
瞳は切れ長で、意志の強さを感じさせる。
横に居た香里奈に視線で問いかけるが、香里奈も首を傾げた。
「「誰?」」
「……あれ? 俺って影薄い? いや、ホラ昨日、アリゲーターの野郎から助けてくれただろ?」
焦ったように身振り手振りで話す様子を見て、真也は思い出した。
「あーあの倒れてた人?」
そう言えば、こんな人だったかもしれない。
「で、俺の名前なんだけど……戸口蓮二。気軽に蓮二って呼んでくれよ」
「そんなことより、身体大丈夫だったか?」
「ああ、すっかり大丈夫だ」
そのセリフを言い終えた直後、真也の後ろから声が聞こえた。
「ちょっとー待って!!」
真也たちの元まで走って来たにも関わらず、息を吐かずに喋り出した。
「昨日はありがと。私の名前は九条椎名。気軽に椎名って呼んでね?」
嵐のような勢いだ。
香里奈も真也も若干引いてしまう。
二人とも、初対面でガンガン押していけるタイプではないのだ。
初対面で名前呼びってどうなの? とか思うタイプである。
「お前たちの名前も教えてくれよ」
蓮二は椎名の勢いなど意にも介さず、話に混ざってくる。
「俺は、和地真也でコッチが……」
「新堂香里奈。宜しくね」
「「宜しく。真也に香里奈」」
((い、いきなり名前!?))