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決意の夜に


お久しぶりです。こんな突然の手紙でさぞ驚かれていることと思います。もう私も先生の元を離れ三年が経ちました。だけど私はあの頃と全く変わってなんていません。だから、私を見れば遠くからでもしっかりと分かると思います。今までの間に先生に話したいことが多く溜まってしまいました。なので、こうして手紙にして、今私が伝えたい事を全て伝えたいと思います。それに、直接私の口からお話もしたいので、この手紙は私が自分の足で先生の元へ届けようと思います。

こんな事を書くときっと先生の事ですから、「いつまでも私を頼るな」などと説教されそうですね。でも、やっぱり私は先生にしか心の内を打ち明けられないのかもしれませんね。それは高校時代から変わらないことです。でも、あの頃に比べれば、今は大分大人になりましたよ。ただあの頃が異常に子供だっただけかもしれませんが、今思えば私は先生に出会えて本当によかったと思っています。(これはお世辞ではなくです)

本題と言っては、荷が重いのですが、先生に一つ話さなければいけない事があります。実は先日、通っていた大学を中退しました。せっかく先生に推薦して頂いた大学でしたが、どうも最近になり自分のやりたいことが分からなくなり、それで•••


でも勘違いなさらないで下さい。大学に入り、多くの友人に恵まれ、本当に楽しい毎日を過ごせました。私は本当に影響されやすい人間だと思います。今回の自分への疑問から中退まではその周りの影響が原因の一つです。それには私が大学に入学してから一番最初に親友と呼べるようになったSの話をしなければなりません。

Sについては少々長くなってしまうので、大まかな出会いからということにさせて頂きます。もともとSとはたまたまクラスが同じで、隣に座っていたということなので、何処にであるような出会いと変わりありません。趣味も性格も似たような人間同士でしたので、親友と呼べるようになるまでに時間はかかりませんでした。ただ、一つだけ違っていたことは、Sの家族がもう崩壊寸前まで追い込まれ、S自身もそれを抱えながら生活をしていたと言うことでした。Sの家庭事情については、私もつい最近になって知らされたので、本当に驚きました。なんで自分に何も相談してくれなかったんだろうと思い悩み、最近も眠れぬ夜が続く時があります。Sには二つ上に兄がいたらしいですが、もうこの時期には家には居らず、連絡も一切なかったと聞きました。

家族崩壊の原因を作ったのはSの父親の借金だったと聞きました。元々は真面目で厳格な父親だったらしいですが、二年前くらいに起きた社内紛争に参加し、敗戦した結果、職を失い日雇いで働くようになり、いつしかストレス発散のためにギャンブルに溺れ果て、多額の借金を作ってしまったようです。ちょうどその時期にSの様子も段々と変わっていきました。借金によってSは父親から乱暴され、家にはもう居場所など存在せずに、上京して一人で暮らす友人宅を転々としつつ、何とか生活していたようです。私は実家暮らしですので、SからのSOS信号は全く届くことはありませんでした。でも、もしあの時に私に相談してくれさえしていたなら、確実に私の家に招いていたと思い、本当に悔しい思いです。

Sの家族に更なる追い撃ちをかけたのは、今度はSの母親でした。母親は父親の借金を何とか返済しようとし、親戚一同に頭を下げて廻ったらしいですが、誰一人として工面してくれる者はおらず、また、連帯保証人の突然の失踪も重なり、Sはもう授業料も払えなくなり、そのまま私の前から姿を消しました。

それから私がSの事を知ったのは、Sが姿を消して一週間後のこと。朝刊に取り上げられた一家心中という記事に出ていたSの家族の名前と、その経緯でした。新聞には父の社内紛争から借金までの理由が綴られていましたが、Sについては、ただ続柄、名前と無職と小さく書かれていただけでした。

でも、それから二週間して私の元にKという人物から一通の手紙が届きました。そこには、KはSの親しい友人で私にSから伝えたい事があると書かれていました。でも、本文はそれだけで、Kの事もSに関することも何もなく、それから何も連絡がありませんでした。これは誰かの悪戯なのかと思い、ついこの前まですっかり忘れていましたら、突然あのKと名乗る人物から「家に火を放ったのはSだ」という内容の手紙が送られて来ました。あの日の新聞からも借金に溺れた父親の犯行が有力だと思っていましたし、経緯を見ればそれとなくそう思ってしまいますが、あの日の夜にSは家中に灯油を巻き、自ら火を着けて心中を図ったと書かれていました。正直、私は納得が出来ませんでした。今もそうです。でも、あの時のSの精神状態から見て、そう考えられなくもないとも言える気がします。一番の犠牲者はSであり、全てを道ずれに思い立った行動だと推測すれば、しっかりと筋も通ります。それよりも、Sの友人だというこのKという人物が私は気になってなりません。


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