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勇者様と相葉さん ~You & I~

帰ってきちゃったの!? 勇者様と相葉さん ~You & I~

作者: 維川 千四号

--------------------挿絵(By みてみん)--------------------

 ※使用上の注意※


 この作品は前作の続編となります。

 なので前作で吐き気・めまい等を感じた方や、医師に注意を受けた方はご遠慮ください。

 もし今作が目に入ってしまった場合は、ただちに前作をお読みください。

 また、ご覧になる際は部屋を明るくしてください。暗い部屋で変なモノを読んでいる人物と誤解を受けるおそれがあります。


 ある日、相葉朝子さんはヘロヘロになりながらも何とか自宅のドアの前まで辿り着きました。

 その顔は生ける屍(リビングデッド)さながら。『たいりょく』がもう1しか残っていない状態です。さすがの相葉さんも『講義・講義・バイト・バイト・XXYBA』のコマンドは辛かったようです。しかし、これ以上単位を落とすことのできない上に、今月のバイト代頼みの金欠な相葉さんにはこの裏技しかなかったのです。

 震える手で「とりあえず睡眠を」と相葉さんはドアノブを握ります。その心境は命からがら宿屋に戻った冒険者のよう。連日深夜までのゲームが今の瀕死的状況を作っているのは明白でした。

 そして、


「やぁ、おかえりなさい。朝子さん」


 ドアを開けると、室内には勇者様がいました。

 玄関開けたらすぐさま勇者でした。『ゆうしゃAがまちかまえていた!』でした。それはそれは爽やかスマイル0円の勇者様でした。

 そして勇者様は、相葉さんのタンスを下から順に開け放っている最中でした。既に開けた引き出しが邪魔にならないようにするその手際は、明らかにプロのもの。勇者様は民家でアイテムを探すという犯行の真っ最中でした。その姿は盗賊(シーフ)というよりは空き巣でした。勇者様はまさかの職業変更(ジョブチェンジ)を果たしていました。

 一方の相葉さんが取った行動は、グーでした。

 とりあえず、生ビールと枝豆とグーでした。

 海外では挨拶にチューする文化もあるそうですが、この国、この部屋、この二人の挨拶はグーです。ただし、それは一方通行のもの。どうやら相葉さんは、とある超能力者(レベル5)と同じ力をもっているようです。

 そして、その威力と速度は絶大でした。『たいりょく』が残り少ないときにしか発動しない起死回生の会心の一撃(クリティカルヒット)。鮮やか過ぎるくらいのグーが、勇者様の顔面にプレゼントされていました。



「で、また魔王の城で道に迷ってるんですか?」

 前回同様、紅茶を用意するとテーブルを挟む形で二人は座りました。なんと相葉さんの二度目の相手も勇者様でした。無論、この言葉に他意は前回同様ありません。一万年と二千年前から、そして八千年過ぎた頃でも、決して『合体』などありません。

「いや、魔王の城はこの間クリアしたんです」

 と、白い歯を輝かせる勇者様。しかし、その前歯の一本は先程の挨拶で抜け落ちてしまっていました。そのことに「ちょっとやりすぎた」と思い、先ほど謝罪と心配の言葉を口にした相葉さんでしたが、勇者様は「安心して下さい。サブストーリーは本編には影響しません」と笑ってみせました。そして続けて「こういう『お約束』も勇者の務めです」と胸を張りました。

「え? それじゃあ魔王は……」

「もちろん倒しましたよ。何故かステータスが半減していて、案外楽だったんです」

「へぇー、それは良かったですね」

 と、完全に他人事で紅茶を啜る相葉さん。まさかこの間の自分の副音声が、魔王討伐に貢献していたなど露ほども思ってはいません。以前、勇者様は『魔法使い』として勧誘していましたが、どうやら相葉さんは上級職(ハイクラス)の『黒魔術師』の素質があるようです。

「――って、じゃあ何でまたウチにいるんですか? 魔王倒してハッピーエンドじゃないんですか?」

 エンドロールでスタッフの名前が流れる中これまでのイベントシーンを振り返り、今頃は各キャラのその後の生活を垣間見ているところじゃないの、と相葉さんは長年のゲーム経験から疑問に思いました。そして、勇者様はメインヒロインと結婚して――と想像した瞬間、相葉さんの脳裏に『ハーレム』という単語が浮かびました。そうです。ご存知の方もいらっしゃると思いますが、この勇者様は残念なチャラ男なのです。

 そして、そのチャラ男が相葉さんの質問に答えます。

「いや、それが、その魔王を倒したことをきっかけに『伝説の魔王』が復活してしまって――」

 まさかの第二章でした。

 これが映画なら、最近の傾向からいって第三章もありえる展開です。

 勇者様も「いやぁ、僕もまだレベルが五十くらいだったから、ここでエンディングはおかしいなぁとは思っていたんですがね」と笑っていました。何故だかは分かりませんが、勇者様にも案外ゲーム経験が備わっていました。

「それで、この機会だからと今、みんなでレベル上げの最中なんです」

 これがまた丁度良いダンジョンがあるんですよ、と勇者様。あー、ありますよね、そういう便利な所、と相葉さん。正直、『丁度良い』とか『便利』とかコンビニ感覚で倒される魔物(モンスター)側は堪ったものではありません。むしろ何時間も居座る勇者様ご一行の方が、よっぽど侵略者(インベーダー)です。RPGからシューティングへのジャンル変更と言っても過言ではありません。

「……って、何でここにいるんですか? レベル上げ行かなくていいんですか?」

 その質問に、勇者様はとびきり嬉しそうな笑顔で、

「いやぁ、実は『いつも先頭で頑張って戦っているから、暫く休んでいてくれ』と仲間たちが口を揃えて言うものでして」

 と、答えました。

 そしてそれに対し、

「へぇー、それは良かったですね」

 まるで『村人A』のように先程と同じ言葉を口にする相葉さん。その心では「あぁ、いつも戦闘メンバーにいて一人だけレベル上がってるから、レベル調整のためにメンバーから外したんだな、仲間たちは」と冷静に勇者様の現状を解析していました。一方その頃、レベル上げに励む勇者様以外ご一行の全員が、風邪でもないのに同時にクシャミをしたことは言うまでもありません。何故なら彼らも勇者様同様『お約束』を大事にするからです。

「そうなんですよ。本当に僕は良い仲間に恵まれているんですよ」

 無論、そんな副音声に気付くはずもない勇者様は、相葉さんの言葉を素直に受け取ります。

 そしてその笑顔のまま、

「特に最近新しく入った女遊び人の腰のくびれなんか――」

 とりあえずのグーをもう一発喰らっておきました。

 とても残念ですが、勇者様は相変わらずダメ人間でした。



「うわぁー……寝過ぎた」

 勇者様が帰った後、相葉さんはベッドに倒れ込みました。そして一瞬にして眠りにつきました。そのピクリとも動かない姿は、勇者様に『ただのしかばね』と勘違いされるほどのものでした。

 そして、ふと目覚めた時刻はまもなく午前五時。相葉さんにとっておやすみの時間ではありますが、決しておはようの時間ではありません。

 しかしたっぷりと眠ったせいで、二度寝しようという気にもなりません。さらに幸運なことに今日の相葉さんには講義もバイトもありません。

「……うん。よし」

 という訳で、魚が水を求めるように、雛鳥が空を目指すように、相葉さんはゲームを開始しました。自然の摂理に逆らうことなど、人間には無理な話なのです。

 しかし、いざテレビの前に座り込んだ相葉さんは、寝起きということもあり急激な尿意に襲われました。

「もー、タイミング悪いなぁ……」

 そう呟きながらも相葉さんはコントローラーを手放し、立ち上がりました。そして渋々、トイレに向かいました。

「……あれ? この展開、前にも見たような――」

 そんな既視感(デジャヴュ)を覚えた瞬間には、時すでに遅し。さすがの相葉さんも生理現象と『お約束』には勝てないのです。

 そして案の定、

「朝子さん。今カジノで遊んでいるのですが、一緒にいかがですか?」

 トイレから勇者様が出てきました。

「実はもう少しでカジノ限定装備『バニーの服』が手に入りそうなんです」

 だから出来れば協力して頂けませんか、と頼む勇者様。

 なので相葉さんはゆっくりと勇者様をトイレの中へ押し戻すと、満面の笑みでドアノブを握りました。

 そして今が早朝だということを考える余裕もなく、自分が『お約束』通り動いていることに気付くこともなく、


「さっさと世界救ってこいやぁぁぁっ!!!」


 ニワトリもびっくりな声量で、勢いよくドアを閉めました。

 ちなみに後日談ですが、あまりにも勇者様ご一行が来ないので暇を持て余した『伝説の魔王』は、こちらの世界にやってきてツイッターに夢中になったそうです。

『新魔王城なう。今日も勇者来ない(涙)』



 以上、『勇相』まさかまさかの第二弾でした。

 今回もバカバカしい話にお付き合い頂き、ありがとうございました。

 感想・批評、「伝説の魔王頑張れ」的なメッセージ、お待ちしております♪


 ではでは、ここまで読んで下さった貴方に最大級の感謝を!

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― 新着の感想 ―
[良い点] シリーズ通して楽しませていただきました。自分の欲望に忠実な勇者兄貴、流石っす! ──だめだこのおとこはやくなんとかしないと 正にそんな心境ですねw 続きも読みたい!
2012/10/26 19:17 退会済み
管理
[一言] 前作と今作両方読ませていただきました。感想書くのが遅れてしまって申し訳ありません。 私自身RPGが大好きで一人暮らしをしたら相葉さんの様になりかねない人なので(笑)ほとんどのネタがわかってし…
[一言] 前作と合わせて読ませていただきました。 適当に目を通すだけのつもりだったのに、どちらも非常に読みやすく、気づけば読み終えてしまっていました。 明日テストなのにやってしまいました(泣 RPG…
感想一覧
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