蛇に憑かれた話
昔、蛇の死体を見つけたことがあった。
子どもながらに可哀想だと思った俺はその蛇のために穴を掘り、簡易な墓を建ててやった。
異常が起きたのはその晩からだった。
俺は寝る時、完全に部屋を真っ暗にするのではなく黄色い電球を点けておくタイプなのだが目が覚めると何故か暗闇にいる。目を凝らしても、何も見えない。ただ何か大きなものを引きずるような音が聞こえてくる。
ずり……ずり……
一定のリズムで進むそれは、徐々にだが確実に俺の方へと近づいてくる。
パニックになり、体を動かそうとするが指先一本だって動かすことができない。この手の怪異ではお馴染みの、ベタな金縛り――大人になった今だからそう考えることができるが当時の俺には怖くて怖くて堪らなかった。
ずり……ずり……
ずり……ずり……
そんなことが数日続けば、あっという間に寝不足になり――夏休みという、子どもが一年で最も元気であるべき時期にフラフラしている俺を見て事情を聞いたのは母方のばあちゃんだった。
思い当たる節のあることを、あれこれと話していたら自ずと蛇の亡骸を埋めた話も出てきた。その途端、ばあちゃんの表情が一変する。
「蛇は、その死骸を踏んだり指さしたりするだけで障りがあるというくらい恐ろしいものだ」
そう言ってばあちゃんは何か呪文のようなものを唱えた。アビラウンケンソワカ、とか繰り返していたはずだが途中で唾を吐くような音を出されて驚いた覚えがある。
「人間の唾には狐のような憑きもの除けの効果があるから、音を出すだけでも効果がある」
そう言われたが、ぎょっとしたのが正直な感想だった。
その後、お祓いを受けて無事にあの這いずる音と金縛りはなくなったのだが――ばあちゃんは俺に、蛇の死体を見つけてしまった時のためのおまじないを教えてくれた。
「その指を噛んだり踏んだりしてもらう」
「歳の数だけ唾をかける」
「指切りをしてもらう」
どれも他愛のない話ばかりだったが、やはり「唾を出すような音を出すだけでも魔除けの効果がある」と言ってやってみせたのが衝撃的だった。
音の怪異を、音で祓う――
おかげで、今でも何か怖い思いをした時はこっそり唾の音をしてしまうことがある。




