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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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不法入国 ー南北の亀裂は常にー

掲載日:2026/03/25

本当に、今年の夏は暑いな…。栃木なんてこの国じゃ最高緯度なのに暑い暑いとわめかないといけない…。

…おっと、名乗り忘れてた。オレは佐藤雄一(さとうゆういち)。高校生だ。暑さと戦いながら勉強に勤しんでいる。

ま、それも今のうちだ。明日からは夏休み。つまり遊び放題。…宿題?知らんなそんなの。部活?入ってねえ。めんどいんでな。

「えー、というわけだ。どこに行くのも自由だが、"南北国境"だけは越えるな。あそこを超えたら、命はないと思え。」

そう。日本は第二次世界大戦の後、北は社会主義国家として、南、すなわちオレたちの暮らすここのような場所は資本主義および民主主義の国家として分断されている。

欧州では平和になりそうなのに、ここ、東アジアじゃ今だにピリついた空気が流れてる。

冷戦も早いとこ終わってほしいもんだね。

そんなこんなで、長かった先生の話も終わった。

チャイムも鳴ったし、帰るとするか。

「よー!雄一。忘れてないよな。明日のキャンプのこと。」

「忘れるわけねえだろ。」

「そうだよね。雄一くんが遊ぶことを忘れるわけないよ。」

「どういう意味だよ…。」

コイツらはオレの友達。男の方は長田勇(ながたいさむ)。女の方は能勢駒吉(のぜこまき)。中学時代からの仲だ。

話にあった通り、オレたち三人は明日キャンプに行く。メンバー全員が外遊び派だからちょうどよかったのだ。最近流行り始めているらしいしな。

「ちゃんと器具用意したか?」

「したけどよ、意外と高いよな〜。」

「そこまで負担してないでしょ。三人共用のやつは分担して買ったんだし。」

「そうだけどよ。」

「それはいいとして、ボクたちが行くキャンプ場、けっこう南北国境と近いらしいな。」

「みたいだね。ちょっと怖いかも…。」

「大丈夫だろ。さすがに国境に何も敷かないわけ無いし、そもそもキャンプ場から入れないようになってる。南北国境付近にロープが張ってあるそうだ。」

「それもそうだけどさぁ、あんまり安心して寝れなさそうだよね…。」

「そう言う怖さを味わうことも目的らしい。ほら、今日は早く帰ろう。明日寝坊したら大変なことになるからな!」


さて、昨日言っていた明日が今日になった。つまり日付が進んだのだ。

午前七時に那須塩原駅集合なのだが、駒吉が遅刻気味だ。

「駒吉のやつ、何してんだ…?もう五分すぎてる。バスが出ちまうよ。」

「あ、来た。」

「ごめーん!寝坊したー!」

「何してんだ…。まあ、コレで全員そろったな。バス停の方に行こう。早くしないと乗り遅れる。」

そういえば、バスの発車時間っていつだっけ…。

…七時十分…?まずい!乗り遅れる!

オレたちは全力で走った。集合場所からバス停までは少し距離があるからだ!

「…ゼェ…ゼェ…。なんとか間に合ったな…。」

「ああ……。もう疲れたよ…。」

「二人とも…ほんとにごめん…。」

オレたちが乗り込んだ途端、バスは発車した。

「ふう…。荷物が多いから余計に疲れた…。」

「うわー、もう楽しみ!サイコー!!」

のんきだな駒吉は……。


バフに揺られて一時間半、ようやく目的のキャンプ場に着いた。

「栃木にこんなところがあったとは…。南北国境付近なんてどこもかしこも非武装地帯かと思ったぜ。」

「この辺は森ばかりだからね。特に警戒する理由がないのさ。でも、怪しい人がいたら即刻通報するよう言われてる。ほら、そこの看板にも書いてある。」

「うわー、やっぱり怖い。」

「とりあえずよ、早くテント張ろうぜ。このあと山登りするんだろ?」

テントを張ったら、オレたちは那須岳へ登山に行く。

その後で昼飯だ。

カンッカンッっと、杭を打つ音が響く。

かなりてこずったが、無理やりテントを立てた。

「ふう、なんとか立ったな…。」

「よし、登山に行こうぜ。早く行かないと昼になるぞ。」

「えー?少しは休憩させてよ。」

「お前ずっと座ってたじゃねえか!!」

「あ、そっか。なら行く。」

「まったく…。」

オレたちは荷物をまとめ、必要最低限のものだけ持って山のある北の方へ向かった。

「にしても、今思えば夏休み初日にキャンプなんて、無謀すぎたな。」

「早めに行かないと予約が埋まるだろうが。」

「登山は、秋に行きたかったねぇ。」

「じゃあなんでついてきたんだよ…。」

「ええー?面白そうだったから。」

はぁ、コイツは何時もコレだから困る…。


「なあ、雄一。もう一時間は歩いてないか?いくらなんでも遠すぎないか?」

「うーん、道を間違えたか…?」

「でも分岐なんてなかったよね?」

オレたちはが来たキャンプ場は、那須岳のふもとにあることを売りにしている。それだけ山の近くなのだ。最低限三十分かければ行けるような近さだったはずだ…。

「…ん?なあ、あの遠くの。あれ煙じゃないか?」

「煙?ああ、あれか。」

確かに遠くに煙が見える。のろしか?仮にのろしなら、

遭難でもしている人がいるってことになるが…。

「まずはあそこに行こうぜ。もしかしたら有益な話が聞けるかもしれん。」

「うん。行こうか。」

もしかしたらオレたちも遭難したかもしれない。

もしそうなら、仲間は多いほうがいい。

オレたちはそこへ歩を進める。

「怖い人だったらどうしよう…。」

「その時はボクがどうにかするよ。」

「おお、さすがボクシング部。」

…にしても遠いな…。もうけっこう歩いたぞ…?

コレだけ歩くと、逆に戻りたくなってきたが、それはそれで体力を奪われるに決まってる…。

数分歩くと、少しだけ森が開けてきた。

「…ん?」

「どうした雄一。」

「おい、勇、あそこに、旗が見えるよな…。」

「んん?確かに掲揚されてるな…。真っ赤で、どぎつい色をしてるやつが見える。」

「あの旗って…、北日本の国旗じゃないか…?」

「……は?」

「……え?」

そう、そこにはためいていたのは、赤字に黄色い丸が描かれた、日本人民共和国、通称北日本の国旗そのものたったのだ。

オレは、驚きと絶望で身体が動かなかった。

いつ国境を越えた…?南北国境付近にロープを張ってあるって話は何だったんだよ…!

「じゃあさ、オレたちがここにいるのも、まずいんじゃないか…?」

「……。二人とも、逃げッ」

その時、駒吉が倒れた。首元に何かが当たった跡がある。う、撃たれた…!

「雄一!姿勢を低く取れ!」

「何なんだ!?北の警備隊か!?」

「たぶんな。背を低くしながら逃げるぞ!早ッ」

勇も倒れた。まずい!このままだと、全員死……。

首に衝撃が走った。だんだん意識が遠くなる…。

クソ…。なんで…、こんな目に…。


土が掘り返される音で目が覚めた。故郷、那須塩原で散々聞いたあの音…。

…って、あれ?オレたち、撃たれたよな…?何で生きてるんだ…?

…そうか、あれはゴム弾だった訳だ。となると、ここは収容所か。北日本は迷ってきた南日本国民を捕まえて、そのまま働かせると聞いたことがある。

正直、目を開けたくはない。目を開ければ、醜悪な世界が待っている。

…死んだ後の地獄も、生き地獄も、けっきょく同じか…。

観念して、目を開けよう。

天井が見える。電球が取り外された照明部分、薄暗く汚い部屋…。…でも、なぜか生活感がある。

どういうことだ…?ここは収容所じゃないのか?

体を起こし、周りを見てみると、勇と駒吉も隣で寝ている。

…起こすべきか…。いや、ここがどこか分からないうちはやめたほうがいいな。

二人の安否を確認したところで、もう一度周りを見渡すと、窓を見つけた。そこから外の様子を覗けそうだ。

幸い、オレの身長がそこそこ高かったので難なく窓からのぞけた。

「………。」

そこには、あまりにも信じられない光景が広がっていた。周りはゴミだらけ、農作業をしている人々の顔はやつれ、体も痩せ細っている。おまけに、曇ってるから無駄に雰囲気がでている…。

「…遠くに看板があるな…。読めるか…?」

カバンの中に双眼鏡を入れていたのだが、既に誰かの手によって盗まれていた。さらに北日本は未だに旧字体を使ってるから、読めない字もあるのだ。

でも、コレくらいならなんとか目視で確認できそうだ。

「…白河…。江戸時代には関所が置かれたあの白河か…。ホントに超えちまったんだな…。国境…。」

「あれ…、ここどこ…?あ、雄一!」

「シッ!静かにッ!誰かに聞かれてたらどうすんだ!ここがどこかもわからないんだ、今は静かにしろ。」

「う、うん。ゴメン。…勇くんは全然起きないね…。」

「当たりどころが悪いんだろうな。大丈夫だ。死んではねぇ。」

「…ねえ、ホントにここは、北日本なの…?」

「ああ。ここは福島県の白河だ。北日本の国境部分ではけっこう大きな町だな…。」

「これで大きいんだ…。やっぱり衛生環境悪そう…。」

「う、うう、頭痛い…。」

「勇、大丈夫か?」

「あ、ああ、雄一か。平気だ。幸いケガもないし…。」

「あー、やっと起きたか。」

「!?」

振り返ると、出入り口と思われていたドアから人が入ってきた。第一印象、不潔なオッサン…。

「いやー、軍がおもしれえもん運んでるからよお、つい襲っちまってなぁ、お前らを拉致ってきたってわけ。…で、」

こ、声のトーンが変わった。今まで怪しいキモいオッサンな声だったのが、一気にドスの効いた低い声色になった。

「知ってるか?ここじゃな、南日本のヤツに人権はないんだよ。国からのお達しでな。もし捕まえたら好きなように使っていいらしい。だから、オレにはお前らガキを好きなだけ労働させる権利を持つ。さあ、早く外へ出て農作業しろおおお!!!」

その言葉の圧に、一瞬ひるんだ。駒吉は今にも泣きそうだ。

「おい、オッサン!いくらなんでもおかしいだろ!こんなのやりすぎだ!」

「おいバカ勇!そんな事言うなよ!」

「ああ?物が喋んなよ。働くのが嫌ならここに閉じ込める。三日三晩飯も水もなしで、どこまで生きられるかなぁ…?」

き、きめえ…。コイツの顔やしゃべり方もそうだが、一番気色が悪いのはその手段だ…。

「…わかった。ボクは働く…。」

「…私も…。」

「オレは…。ここに残らせてもらう。」

「!!」

「ほう、いい度胸だなあ。まあいいぜ。じゃあ、ここで死にな。」

「ちょ、ちょっと雄一!」

「うるせえ!!」

「ヒッ!!」

そして、オッサンは二人を連れて出ていった。この部屋に残されたのは、オレ一人だ。


さて、オレがここに残ったのは自殺するためではない。まずはここを脱出する。幸いにも、北の建築技術は(こっち)より良くない。それも、首都(せんだい)から離れた田舎じゃ。恐らく、粗悪で脆い材料で作られているはずだ。

しかも、窓は網。簡単に切れそうだ。

そうと決まれば、切断…。と言いたいところだが、切るための刃物がない。この部屋にあるわけがないので、オレは床に爪をこすり当てた。

こうして研ぎ、なんとか網を切れるまでにはする。

無謀だが、今はこれしかやれることがないのだ…。

っと、そのとき、

「グアアアアアア!!!」

勇の叫び声がこの辺りで響いた。ドアは鍵がかかっているので見れない。窓から見ようとしても、そもそも画角に入らない。身を乗り出して見れるなら、そこから脱出してる。

…これは、あまりにも恐ろしいことになりそうだ…。

「っと、やっと研ぎ終わった。で…、この爪でアレを切れるか、だよな…。問題は。」

いくら研いだとはいえ爪は爪。そう簡単に切れはしないだろうが、とりあえずオレはひたすら網に爪をこすり続けた。その間も、何度か二人の悲痛な叫びが聞こえた。


いつの間にかすっかり日も落ちた。案外何とかなったな…。一辺だけは切り出すことができた。

とはいえ、一日かけてこの程度。まだまだ時間は掛かりそうだ。

自動車の走行音も、人の話し声も聞こえない。

そのおかげで、こちらに近づいてくる足音に気づくことができた。

ドアが開き、勇と駒吉が放り込まれた。

「ふ、二人とも!!」

「今日の仕事は終わりだ。二人には飯をやる。のっぽ野郎、お前はなしだ。」

そういってキショいオッサンはどっか行った。

「…二人とも、何があった。」

勇も駒吉も、服はボロボロになっており、いたるところに傷ができていた。

「…あれは、労働というより、オッサンのストレス発散だ…。疲れと痛みで、ロクに寝れそうにねえや…。」

「もうヤダ…。帰りたい…。」

ニ人とも、かなり消費したはずだ…。

「安心しろ。この窓を切り終わったら、すぐに脱出させてやる。」

「そのことなんだがな、いいものを拾ってきた。」

「コレは…、プラスチック片!」

「先端が尖ってるやつを見つけてきた…。コレなら魂胆に編みを切れるだろ?」

「さすがだ勇!じゃあ、今日中にでも脱出するぞ。」


夜もだいぶ更けた。防音を徹底して切り出し、ようやく窓を開けることができた。

「雄一、外をのぞいてみてくれ。」

「わかった。」

オレは窓から身を乗り出して外を見た。隣にはここより一回り大きい建物があり、電気はついていない。

…あのオッサンの家だろうな。寝たか…?

「今なら出られそうだ。駒吉、昼間に太陽の位置は確認したか?」

「うん。畑のほうが南。」

「よし、なら、オレたちは西に行くぞ。」

「ええ?なんで?南に進んでそのまま脱北しようよ。」

「安全策をねって方がいい。本来、南北国境付近は厳重な警備が施されてる。監視の目を縫って侵入できたボクたちのほうがレアケースだ。」

「そこで、俺は思い出した。佐渡島経由で逃げようと思う。」

「佐渡島…?」

「そう。あそこは度重なる武力衝突で国連統治領になってる。でも、南北両政府とも自国の島だと主張してるから、南北両方から船が出てる。北からは新潟市から、南からは上越市の直江津から。それに乗れれば、合法的に脱北できるって算段だ。」

「へーえ!いいねそれ!」

「よし、そうと決まればここを出るぞ。まずは会津若松を経由して新潟に行くぞ。」

オレたちは音をできるだけ殺し、窓から外に出た。

オレは安全を確認し、二人に外へ出るよう指示した。

全員出たことを確認して、オレたちは走り出した。まずは町の中心部に行かなければ。そう、ここ北日本における南日本円は、一円=三百北日本円だ。白河の中心部なら両替商もいるだろうし、鉄道も通ってるから色んなところに行ける。

…まあ、この国における南日本国民は差別対象らしいから、なんとかバレないといけないな…。

少し振り返ってみるも、あのオッサンが追いかけてくる様子はない。なんとか逃げ出せた。

「このまま白河駅まで行くぞ!」

「でも、始発が動くまで何時間もある。その間、何をする気だ?」

「うーん、売れそうなものでも集めるか。」

「にしても、あのオッサン私たちが逃げたことに気づいてないのかな…。」

「さあな。そもそもあんなザル装備で幽閉しようとした事自体がおかしい。やっぱり、この国の教育基準は悪いらしいな…。」

オレはポケットに財布を入れていた。オレたちを捕らえた警備隊は、カバンを奪ってきたがポケットの中は探らなかった。カバンの中には双眼鏡やお守り、マッチなどの金銭価値のないものしか入っていない。

常識的に考えれば、カバンの中に金品が入っていなかったらポケットを怪しむ。

プロ兵隊がそれすらもしないのは、あまりにもおかしな話だ。本当に、この国は謎が多い…。


白河駅に着いた。今だに戦前の駅舎を使っており、古さが目立つ。駅前の時計を確認したら、午前の四時だった。

「雄一、あそこに両替商がいるぞ。南日本円は両替しとけ。」

「そうする。」

オレは、両替商の元へ向かった。

近づいた途端、両替商はオレを畏怖の目で見てきた。

どうやらオレをエリート階級の子供だと思っているらしい。

この国にも金持ちやら政治を牛耳る輩はいる。そいつらは決まってシャツだの背広だの着ているので、ワイシャツを着ているオレもエリートに見えるようだ。

もちろん本当のことを言ったら即通報モノなので、コレはありがたい勘違いだ。

「…珍しいですな。南の貨幣をお持ちになられていらっしゃるとは…。」

「まあね。中国に行く用事があったんでな。現地で中国人が釣り銭として渡してきたものだ。」

「そうですか。では、全額一六四四万円でございます。」

おおー、元が五万円だったのが千万円超えたぜ…。

オレは渡された札束を仕舞い、2人のところへ戻った。

「うわ、すごい金額だな…。これくらいあれば何とかなりそうだな。」

「ああ。北日本が低物価の国でよかったよ…。」

始発の福島行電車が来るまで時間があるので、二十四時間営業の店で朝食を買ってきた。

ここでもやはりオレはエリート層だと思われた。

変な国だ。つくづく。

「すごい…、乾燥してるね。このおにぎり…。」

「梅干の色が…、すごく、不思議な色をしてるね…。」

二人とも遠回しにまずいと言ってる…。

「二人とも、駅が開いた。切符を買いに行くぞ。」


「は?パスポート?」

「はい。日本国民であることを証明する義務が、乗客にはございます。」

まずいぞ…。仕方なく窓口で買うことしかできなかったのだが、、パスポートを要求された。あるわけねえだろ南日本国民なんだからよ…。

とはいえ、渡さないときっぷは売ってくれないだろう。忘れたと言って取りに帰るのも怪しまれる。

…苦肉の策だな…。

「…盗用されても困る。かわりに、あなたの望む額のお金を渡しましょう。五万円程など、いかがかな?」

…盗聴器も監視カメラもなさそうだ…。

「…それで手を打ちましょう…。購入される切符は、会津若松経由の新潟行きで間違いありませんか…?」

「ええ。」

な、なんとかなった…。やはり北日本国民にとって、五万円は超大金なのだろう…。賄賂を渡したようなものなので、正直すごく良心が痛んたが、そんな事を言っていたら死ぬので、オレは渡されたきっぷを受け取った。


「うわ、賄賂渡したよこいつ…。」

「そうでもしないと生き残れないだろうが。」

駅のホームに降りたが、本当にボロボロ。ロクに修繕はされていない。

ここから数駅南へいけば故郷の南日本だ。

近いようで遠い故郷…。

「あ、来たよ。」

「うわー、蒸気機関車じゃん…。なんてまだいんの…?」

南日本では昭和は終わって平成に入ったと言うのに、北日本はまだ時代遅れの蒸気機関車を使っているらしい…。しかもコレで急行列車なんだから…。

磐越西線を通って新潟まで行くようだ。

「よし、乗るか。気乗りはしないが…。」

「煙ヤバそうだよな…。」


車内は、本当に戦前製の古ボケた客車そのものだった。車内で新聞が売っていたので買ってみた。

…本当に旧字体が入り混じってやがる…。

文体も戦前を引きずってるし、もはやここだけ時代が巻き戻ってるのではないかとさえ思う。

内容といえば、南日本の侮辱と農業品水産高、あとはプロパガンダ文章が大部分を占めていた。

つまらん…。とはいえ、帰国したら重要な資料になりそうだったので、大切に持って帰ろう。

列車は出発したが、ガタンと大きく揺れたので転んだ。

「痛ってえ…。ロクに修理もしてねえのか?この汽車…。このオンボロ…。」

悪態をつきながらも、オレは何とか元の席に戻った。

車窓を眺めてみたが、本当にひどい有様だ。人々が食ってるのは何だ…?到底食べ物とは思えない代物を、家畜のように貪り、そのまま、また働き出す人間が、線路沿いにたくさんいる…。…見ているだけで吐き気がしそうだ…。なかには、無理やり平民から何かを奪おうとする富豪じみた男の姿も見えた。…見れば見るほど、気持ちが悪くなってくる…。

俺は、カーテンを閉めた。


歩き疲れていたのか、いつの間にか眠っていた…列車は福島駅に停車していたが…。…あれ、この列車って、福島まで行くやつだっけ…。

「…。なあ、二人とも、…列車を降りるぞ。」

「え、なんで?」

「なんでもいいだろ!早く降りろ!」

「急にどうしたんだよ!」

急に冷や汗が流れてきた。本来この列車は郡山まで行ったら西に進路を変えてそのまま新潟に行く便だ。福島は行かない。そして、俺が切符を買った方法は、賄賂…。そして、 北日本は監視がひどい国だと聞く。もしかしたら、あの悪態も聞かれていて、”国への忠誠心がない”と捉えられたのかもしれない。

俺は勇と駒吉を連れ出して、列車から出た。…までは良かったのだが…。改札口には、南北国境付近でも見た、あの警備隊が数人いた。もしかしたら、もう俺たちは危険分子として判断されているのだろう。

「向こうだ!向こうの貨物列車に乗るぞ!ほら走れ!」

「乗っていいのか!?」

「生きて帰るんだよ!!早く!!」

俺と勇は最後尾のコンテナ車の先端に乗ることができたが、駒吉はまだ走っている。そんななか、ガチャンッという音が鳴り響いた。まずい。列車が動き出した。いまだに駒吉は追いつきそうもない。

その間にも貨物列車は加速を続けており、もうすでにそれなりの速度を出している。

「駒吉!手を取れ!」

「うん!!」

俺はなんとか追いついてきた駒吉の手を取った。しかし、ここから引き上げないと、駒吉が先につぶれてしまう。

「勇!お前も手を取れよ!」

「やってるよ!ども…無理だ!腕が…!折れる!」

列車はまだ加速しており、駒吉の負担も増すばかりだ。そのとき、

駒吉の足が線路を支える枕木に巻き込まれた。

「駒吉!」

「うわッ!!」

駒吉は転んだ。そしてどんどん引き離されていく。異変に気付いた警備隊によって駒吉が捕まるのを、遠目で視認した。

「…。…駒吉…。」

友人を見捨てたようなものだ…。俺は…。最低な人間だ。

「…僕らは逃げないといけない…。この国には前例が必要なんだ。人間が脱出したっていう前例が…。」

皮肉なことに、この貨物は新潟行きらしい。俺たちは停車している間にうまく隠れながら、貨物乗車を続けた。


「ついたぞ…。新潟…。」

道中、まだ情報が伝達されていない土地、会津若松にて服を新調した。そのおかげで怪しまれずにすんでいる。そして、会津の地で手に入れた戦利品は、これだけではない。警備隊の派出所にいた警備員を気絶させ、警備手帳を拝借したのだ。その派出所にカメラもあったので、自分たちの顔写真をその場で印刷して本来の顔写真の上から貼り付けたのだ。

そのおかげで、切符購入が簡単になり、佐渡行きの汽船に乗ることができたのだ。

「…やっぱり警備員に成りすますのは有効だったな…。」

「ああ。出港してしまえばこっちのものだ。」

「ごめん、俺トイレ行って来る。」

「ええ?今?」

「いや、なんか少し緊張がほどけてな。いいだろ?別に生理現象くらい。」

「はいはい、一人だと不安だから早く戻って来いよ。」

俺は汽船の席から離れ、トイレにこもった。全部和式便所で、ちょっとめんどい。

しかし、俺はこの時後悔した。

この船のトイレは、窓から陸が見えるのだが、そとに警備隊の車が見えたのだ。

俺は焦って、しばらく個室から出られなかったのだ。またもや冷や汗が止まらなかった。

時間を空けて、船が出港した後に個室から出たが、やはりというべきか、勇の姿はどこにもなかった。

…本当は助けたい。二人とも、まだ生きてるはずなんだ。しかし、あの時の勇の言葉を思い出した。

俺は、一生見捨てた罪を負い、生きていかなければならない。

そして、このことを語り続けなければならないのだろう…。

佐渡島についたあと、俺は国連職員に保護され、南日本に帰国した。

そして、俺は北日本から南日本に脱出した、最初で最後の人間になった。

なぜ最初で最後であるかというと、一九九一年のソ連崩壊の後、北日本の生産能力が著しく低下して、

独立状態を保てずに南日本軍に侵攻されて、南北統一が思わぬ形で達成されてしまったからだ。

それが一九九二年のことである。

俺は唯一の脱北者として、統一式典に参列することになった。

旧北日本の要人が連れてきたのは、過去、南日本から北に拉致されたり、南北国境を間違えて超えてしまった南日本国民たちであった。

「…あれ、勇と駒吉じゃないか…?」

俺の目から涙があふれてきた。二人も俺に気が付いたらしく、涙を流していた。

式典が終わったら、まずは謝罪をしなければならない。そして、また友人になってほしいと、頼んでみることにする。

物事は、思わぬ形で、成功するものなのだ。諦めずに対談を続けよう。

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