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恋愛小説

花籠大学の劣等生が琴櫻短大の女と結婚する話

掲載日:2026/02/21

1.

斉田春夫は青雲の志を抱いて花籠大学付属男子高校に入学した。


花籠大学は私学で最難関の大学である。


看板の理工学部、政経学部に半数以上行けるのが特徴である。


当時は木造校舎が残っていた。


入口から校舎までは並木道になっており、左右にテニスコートがある。


食堂は一応あるがパン屋が菓子パンを売りにくるくらいで、ほとんどの生徒が弁当持参である。


壁際のスチーム暖房で、弁当を温める生徒が多く、それを休み時間に少しずつ食う。


全員が無試験で花籠大学に進学でき、他大学への受験指導などしていない。


2年連続落第すると退学となり、学歴は高校中退となる。


2.

斉田が2年になったときのことである。


講堂で行われる始業式では出席を取らず、座席も自由であり、校長の話を聞くと、教室に戻り担任が来るまで、クラスはざわついていた。


彼は隣の席の西川と駄弁っていた。


そのときのことである。


「僕の席ある?」と言いながら、後ろから見慣れない男が入ってきた。


それを冷やかす連中も何人かついてきていた。


落第生であった。


1年上のクラスにいた男が落ちてきたのである。


その男の名は久保清という。


久保には友だちができず、最初の頃は欠席・遅刻を繰り返した。


遅刻してきて、少女漫画雑誌を持っていたこともあった。


クラスの誰も気味悪がって近づこうとするものはいなかった。


斉田が3年生になったとき、久保が退学になったかどうか少し興味があった。


意外なことに、久保は3年生になっていた。


3年最初の数学の授業のときのことである。


その教師は、授業を始める前にこう言った。


「久保、駄目だよ。金田先生、大変だったんだ!」


その教師は1年上のクラスを担任する藤田といい、久保の元担任にあたる。


金田先生はクラスの担任であり、担任は3年間同じクラスを受け持つ。


金田先生は30代前半の温和で内気な性格である。


落第の基準に当てはまっても、判定会議というものがある。


金田先生は久保を退学させないために、判定会議で退学論者を説得したのである。


それを見ていた元担任藤田は、気弱な金田先生の奮闘に同情し久保に対し怒りを募らせたのである。


花籠大学付属は全員無試験進学なので、当然のことながら、真面目で優秀な生徒と、できない生徒のグループに別れていく。


斉田はアメフト部に入り、練習に明け暮れていた。


アメフトはやってる高校が少ないので、斉田のチームは全国優勝した。


アメフトを引退してからは、一応勉強をやってみたが、平均70点台止まりで、理工学部、政経学部には届きそうもない。


斉田の周りにできない生徒が集まった。


彼は黒江馬場の雀荘に通い出した。


「おい。久保も来いよ」


彼は久保に声をかけた。


雀荘に通いだしてから、久保は出席するようになった。


久保が麻雀だけのために登校したので、彼らは全員無試験で花籠大学に進学することが出来た。


2.

斉田は法学部に、久保は文学部に、それぞれ進学した。


この大学は伝統的に大日女子大と仲が良く、斉田は大日女子大の女子学生に勧誘され、合気道会に入会して大日女子大との共同作業を楽しんでいた。


4年になり、6月に黒江馬場で花籠大付属のクラス会が開かれた。


古い木造住宅を改造したような建物で、2階が開け放たれていて襖で仕切りなどされてない。


金田先生も出席していた。


かつて久保を救った恩師である。


久保も出席していた。


久保が立ち上がると、斉田は「4年で2年になった男」と声をかけた。


3.

安藤詩織は高校で勉強をサボり、一流の四年制大学には行けなかった。


2流の四年制大学に入ると、女子は極めて就職が難しい時代であった。


彼女は有名短大もすべて落ちてしまい、滑り止めの琴櫻短大に入学した。


そこで彼女はクラスメートの酒井和歌子と飲んでいた。


「花籠大学は女子学生が多いと思ったのに、大日女子大との合同サークルが多いじゃない」


「それ以外の女子学生は青島短大に合コンを申し込んでいるみたいよ」


「頭にくるわねえ」


すると隣の空いたスペースに、男子学生が入ってきた。


「あれ?女子学生がいない」


「あの人が先生かしら」


「男子校のクラス会じゃないかしら」


「だったら、私達にもチャンスじゃない」


詩織はクラス会が終わるのを見定めると、声をかけてみた。


「あのー。わたし、琴桜短大の安藤と申します。これから2次

会に行くなら、私達を入れてくれませんか?」


男たちは顔を見合わせた。


「いいですよ」


「でも予約してないからマクドくらいしか場所がないんですけ

ど、そこでもいいですか?」


「一緒に行きましょう」


こうして臨時の合コンが始まった。


一人は斉田春夫と名乗り、もう一人は久保清と名乗った。


「わたしたち、一応英文科なんですけど、やっぱり花籠大学の人はすごいでしょう」


「それが、付属の劣等生だったものであまり・・・」


「さっき、4年で2年になったって言ってましたけど、それってどういう意味ですか?」


「花籠大学の文学部は教養科目の単位を全部取らないと、専門課程に進めないからです。つまり、こいつは1年の単位を3年かかって取得したという意味です」


「そんなに大変なんですか?」


「普通はそうでもないんですけど、僕らは付属で遊んでいたもので」


「付属で遊んでいても、入学できるんですか?」


「全員無試験ですから」


斉田春夫と名乗る男はそんな話はつまらないと思ったのか、自慢話を始めた。


「僕はアメフト部で全国優勝したんですよ」


「全国ですか?」


「そうです」


「すごーい」


安藤詩織は斉田の胸板の厚さを見て感心した。


斉田は夢みたいなことを話し始めた。


「僕は政治家になりたいんです。それで松山政経塾を志望しているんです」


「そうなんですか。すごいですね」


だが詩織は目つきの悪い斉田より、むしろ寡黙な久保に惹かれた。


「久保さんは卒業したら、どうなさるんですか?」


「出版社に就職するつもりです」


「あら?もう10時だわ。どうする和歌子は?」


「わたしたち、今日はこれで帰ります。連絡先を交換しましょう」


彼らは互いの手帳に住所と電話番号を記し、駅に向かって歩き出した。


安藤さんは久保にもたれかかった。


「大丈夫ですか?」


「気分が悪くなって」


久保は安藤さんの手を握り、連れ込み旅館に入っていった。


4.

斉田春夫は松山政経塾の試験を受けたものの、下手な大学院よりずっと難しくてあっさり落ちた。


ひとまず建設会社で経験を積むことにした。


いずれは政治家の秘書になり、市会議員になろうと思っている。


久保清はやはり留年した。


だが7年で卒業したと電話があった。


「それで就職は決まったのか?」


「かえで書房にな」


斉田が聞いたことがない出版社だった。


「安藤さんとはまだ付き合ってるのか?」


「ああ、彼女はもう小さな会社に就職してるけどな」


「それで結婚する気はあるのか?」


「あるけど、この会社じゃ、相手の家族が賛成するかどうか。まあ、生活のめどが立ってからだな」


それから1年後、久保から電話があり、結婚式の司会を頼まれたとき、斉田は本当に嬉しかった。












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