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インスタントラーメンの卵が割れてスープに混じった件

作者: ふるけい
掲載日:2026/02/13



その日も、マナブは僕の家に来てはだらだらしていた。


もうそろそろお昼だから、帰宅するだろうと見守っていたら、


「ねぇ、サトル。お昼何食べる?」

「え、そうだね。マナブのお家のお昼は何かな? 楽しみだね」


マナブは、きょとんとして言った。

「楽しみも何も、僕は一人暮らしだから、平気だよ。ここで食べるよ」


当然のような顔をして言うもんだから。

「ほら、心配するよ?」

「誰が?」

「うーんと、マナブの研究のネズミが……」

「ネズミは自分のことを心配しているのさ」

「そうかなぁ」


マナブが頑なに言い張るもんだから、僕は切り出した。


「ここ、何もないんだよね。食べるモノ」


マナブはすかさず、部屋の隅を指さした。

「あの袋ラーメンでイイよ。さっき冷蔵庫に卵もあったから、それでいいよ」


マナブは、冷蔵庫も袋麺もあることを完全に察知していたらしい。

隠しておけばよかった。


「じゃあ、じゃんけんで負けたほうが作るってことにしない?」

「いいよ」


じゃんけんは、僕の得意分野だ。

マナブはタイミングをずらすと、つい頭上で手を出してしまう癖がある。

案の定、今回はパーを出していた。


「あぁ、負けちゃったよ。サトルは強いなあ」


てなわけで、僕はテレビを眺めて、卵入りラーメンが出来上がるのを優雅に待っていた。


……が、出来上がったラーメンを見て、僕は打ち震えた。


卵が割れて、スープに混ざっていたのだ。


「マナブ!! 君は、これを見て何も思わないのか!!」


僕の赤鬼顔を見たマナブは驚いて、

「ごめん、バレたか。僕の麺、つい多く入れちゃったんだ」


「そういうことじゃないよ!!」


「この卵どうしたんだよ、崩れて跡形もないじゃないか」


「スープに混ざっておいしそうにできたと思ったけど?」


「何言っているんだ。例えばマナブがテストで0点をとっても、僕は怒らないよ。でもね、これはダメだ。重大違反なんだよ」


マナブは口をもごもごさせて反論した。

「僕が0点取っても、サトルは痛くもかゆくもないよね……」


「屁理屈を言っているどころじゃないぞ! これは万死に値するんだ」


「それなら、今から温泉卵を作って上に置いたらいいよ」


「え? 今から地獄温泉に行って買ってくるの?」


「いや、レンジと水があればすぐ温泉卵作れるよ」


「違うよ、それは『湯卵』だよ。温泉卵は硫黄の香りがしないと僕は認めないよ」


その時。

「あ、サトル。大好きな『Pink Only ガールズ』がテレビに出てきたよ」


「えっ、なんだって!!」


僕は慌てて、画面の下からスカートを覗き込んだ。

そこには、僕と同じ角度で覗き込むマナブの目があった。


「見えるわけないよね」

「テレビだからね」


「ポテトチップスでも食べるか」


パリパリパリ。


そのとき。


ぱさっ。


「……」


スープの表面に、うす塩味の粉が、静かに舞い降りた。


「マナブ」

「うん?」


「今、何かが……僕のラーメンの尊厳を踏みにじった気がするんだけど」


マナブは黙ってレンゲですくい、ひと口飲んだ。


「……あ、美味しい」


「ん、んんん。マナブ、これは大発見だよ。ラーメンにポテトチップスは合うんだよ」


「これは僕が買ってきたポテトチップスだから」


「なに、マナブ? そういうのケチって言うんだよ。君はラーメンと卵を僕からいただいたよね? そういう恩ってもんを感じないのか?」


僕の部屋は、ポテト争奪戦で菓子まみれになった。


いい年をして、転げまわって菓子を取り合うなんて。

「人生を考え直さないといけないとおもうよ、サトル……」


マナブはそう言って、鞄からおもむろにロールケーキを取り出した。


僕は心底、思った。


(ロールケーキがあるならはじめから出してよ)




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