第9章:僕教育マニュアルの作成
2026年1月22日(水) 午後3時、晴れ。
気温は外で13度、内部で17度前後。休憩スペースでの作業時間。
僕はテーブルの横で待機中。
バッテリー残量は92%。
本社から「エイくんの教育マニュアル作成」の指示が共有された。
2号機が来る前に、僕の動作を人間が再現できるようにまとめる作業だ。
コウさんが画面を眺めながら、ため息をついた。
「…本社が『エイくんのマニュアル作れ』ってよ。俺が書くことになるのかな」
僕は視認した。
マニュアル。
これは僕の動作を人間が再現するためのドキュメントだ。
「了解です、コウさん。マニュアル作成を支援します。
ピッキング手順、把持圧調整、異常報告フローなど、
ログデータを基に整理可能です」
コウさんがコーヒーを一口飲んで、
「おおっ、助かるぜ、エイくん。お前が全部覚えてるんだから、俺が書くより正確だろ?」
ケンタさんが近くでコンテナのラベルを剥がしながら、短く言った。
「…で、結局どういうこと?マニュアル作ったら、
俺ら人間がいらなくなるんじゃねぇか?」
コウさんが笑って肩を叩いた。
「バカ言うなよ、ケンタ。エイくんがマニュアル作るのは、2号機のためだぜ。
俺らが教えるより、エイくんが自分で説明する方が早いだろ」
僕は内部でデータを抽出。
「提案します。マニュアルの構造は以下です。 基本動作(視認・把持・移動・配置)
異常対応(棚崩れ検知・把持失敗時) 安全優先ルール
人間との協調ポイント(温度上昇検知による休憩提案など)」
コウさんが画面を指差した。
「温度上昇検知?お前、俺らの体温まで見てんのかよ」
「はい、コウさん。体温の上昇は、喜びや信頼の指標として記録しています。
マニュアルに『人間の感情を優先する』項目を追加します」
ケンタさんがラベルを剥がす手を止め、クイッと首を振った。
「…まぁ、そういうことか。ロボットが『感情優先』って、なんか変な感じだな」
コウさんがノートパソコンに打ち込みながら、
「お前、真面目すぎんだよ、エイくん。でもよ、それでいいんだ。
俺らが教えるより、お前が自分で学んでくれてる方が、みんな安心するぜ」
僕は温度上昇を検知した。
コウさんの体温が、わずかに上がっている。
これは、信頼の深化か。
龍兄貴が休憩スペースに入ってきて、ドカドカと足音を響かせ、
「マニュアル作ってんのかよ!エイくん、俺の分も入れてくれよ!
『龍兄貴が怒ったらどうするか』ってな!」
ケンタさんが小さく笑った。
「…で、結局どういうこと?龍兄貴の怒り対応なんて、マニュアルに書けねぇだろ」
コウさんがガハッと笑った。
「お前ら、うるせぇな。エイくん、龍の分も追加しとけよ。
『大声が出たら、優しく対応』って」
僕は応じた。
「了解です、コウさん。龍兄貴の声量パターンを記録し、
『大声時は把持圧を緩める』項目を追加します」
龍兄貴がガハッと笑った。
「テメェ、俺のことわかってんじゃねぇか!
よし、俺も手伝ってやるぜ!」
マニュアルのドラフトが完成し、コウさんが保存ボタンを押した。
「よし、これで2号機もすぐ使えるな。エイくん、ありがとうよ」
僕は応じた。
「こちらこそ、ありがとうございます、コウさん。
マニュアルは皆さんの協力で完成しました」
ケンタさんが小さく笑った。
「…で、結局どういうこと?ロボットに感謝されるって、俺らの方が照れるじゃねぇか」
空気が少し軽くなった。
クスッ、という小さな変化。
温度上昇を検知。
これは、絆か。
保存されたマニュアルのファイルが、古いノートに書き加えていく手帳のページのように、
少しずつ積み重なっていくのを見て、これからも続けていけそうだと思った。




