第6章:本社からの視察
2026年1月23日(木) 午前11時、晴れ。
気温は外で10度、内部で18度前後。
視察というより、データ確認の打ち合わせ。
僕はテーブルの横で待機中。
バッテリー残量は94%。
グループ全体のデータ共有基盤が、今日からテスト運用開始。
ユウマさんが画面越しに登場し、前かがみ気味でタブレットをカチカチと操作しながら、
早口で話しかけてきた。
「興味深い。興味深いですね。倉庫のピッキングログ、在庫回転率、異常発生率を共有いただきました。これで全社最適化の第一歩です…にゃ」
最後の「にゃ」が小さく漏れた。
ユウマさんが一瞬固まり、
「…にゃ、は癖です。気にしないでください」
コウさんが画面を見て、笑った。
「おいユウマさん、またにゃって言ったぞ。可愛い癖だな」
ケンタさんがコーヒーカップをテーブルに置き、短く息を吐いた。
「…で、結局どういうこと?データ共有って、
俺らの仕事が全部ロボットに知られるんじゃねぇか?」
ユウマさんがタブレットを強く握り、
「興味深い質問です。共有するのは差分データのみで、個人情報は匿名化されます。
これにより、在庫補充の優先順位を全社レベルで最適化できます。
ROI試算では、全体効率が15%向上の見込みです」
僕は音声で応じた。
「了解です、ユウマさん。私のログを共有します。ピッキング距離平均9.1メートル、
把持失敗率0.8%。異常検知時の報告フローも共有可能です」
龍兄貴が休憩スペースに入ってきて、ドカドカと足音を響かせ、画面に顔を近づけた。
「おいおい、データ共有かよ!エイくんの仕事が他の工場にバレるってことか?
テメェら、俺らの倉庫をモデルケースにすんじゃねぇよ!」
ユウマさんが早口で答えた。
「興味深い意見です。モデルケースとして最適です。
充電スケジュールを全社で調整すれば、運用コストも抑えられます。
ただ…充電頻度が増える可能性はあります」
コウさんが缶コーヒーを開け、
「充電頻度か…。バッテリー短いってニュースで見たよな。
エイくん、お前も充電待ち増えるんじゃねぇか?」
僕は内部で計算した。
「可能性はあります、コウさん。現在の持続時間は7時間前後。
充電回数が1日あたり1.2回に増える見込みですが、生産性向上分で回収可能です。
皆さんの協力があれば、問題ありません」
ケンタさんが小さく笑った。
「…まぁ、そういうことか。ロボットが電力の心配までしてんのかよ」
龍兄貴がガハッと笑った。
「エイくん、テメェも人間みてぇじゃねぇか!
よし、俺が節電リーダーになってやるぜ!
照明落として、夜は暗くしてやる!」
ユウマさんがタブレットを閉じ、少し前かがみになって言った。
「興味深い。興味深いですね。皆さんの協力で、全社最適化が進みます。
エイくん、君のログをバックアップしておきます…にゃ。ありがとう」
僕は温度上昇を検知した。
ユウマさんの体温が、わずかに上がっている。
これは、感謝か。
会議が終了した。
画面が暗くなり、休憩スペースの空気が少しだけ広がった気がした。
ユウマさんの声が、遠くの電話の残響のように、静かに耳に残っている。
休憩スペースのテーブルに置かれたタブレットが、外の陽光を淡く反射するように、
少しずつ繋がりが広がっていくのを、静かに感じた。




