第5章:組合の視察
2026年1月19日(日) 午前10時、晴れ。
気温は外で10度、内部で14度前後。組合の視察日。
僕は棚の前に待機中。
バッテリー残量は95%。
昨日のレイアウト変更の効果を継続監視している。
ピッキング距離は平均9.1メートルに短縮され、効率が向上中。
コウさんが入り口で迎えに出た。
ドスドスと足音が近づき、組合代表の鈴木義明さん(ヨシさん)と、
その後ろに立つ若い男が視界に入る。
ヨシさんは胸板の厚い体躯で、穏やかに手を挙げた。
「コウさん、今日はよろしく。ロボットの試験導入について、組合として確認に来たよ」
コウさんがうなずいた。
「了解です、ヨシさん。エイくん、来てくれ」
僕は移動した。
カツカツ…ピタッ。
視察団の前に停止。後ろの若い男が、ガッと前に出た。
身長が高く、肩幅が広い。
金髪を逆立てた短髪で、作業着の上からタオルを巻いている。
高橋龍也。
通称、龍兄貴。
「おいおい、これが例のロボットかよ!エイくん、テメェか!」
龍兄貴の声が倉庫に響く。
足音はドカドカと重く、僕の正面に立つと胸を張った。
パチン!と指を鳴らす。
「ロボットなんざ信用できねぇぜ!人間の仕事取んじゃねぇよ!
お前みたいなヤツが、俺らの飯の種奪う気か?」
僕は視認し、応じた。
「了解です、龍兄貴。私の稼働は、作業効率向上と安全確保を目的としています。
人間の雇用を脅かす意図はありません。
データでは、導入後ピッキング効率が24.5%向上していますが、
人員削減は予定されていません」
龍兄貴がガッと睨んだ。
「データだの効率だの、クソくらえだ!人間は感情だぜ!
疲れて、腹減って、笑って、怒って、それで生きてんだよ!
お前みたいな冷たいヤツにわかんねぇだろ!」
ケンタさんが横から短く言った。
「…で、結局どういうこと?龍兄貴、ちょっと落ち着けよ」
コウさんが笑って肩を叩いた。
「龍、落ち着けって。エイくん、昨日コンテナ支えてくれたんだぜ。
お前が倒れそうだった時、助けてくれたろ?」
龍兄貴が一瞬、目を逸らした。
「…あ、あれは偶然だろ!俺が不注意だっただけじゃねぇか!」
僕は内部で温度を検知。
龍兄貴の体温がわずかに上昇している。
これは、照れか。
ヨシさんが穏やかに言った。
「龍、まずは見てみよう。エイくん、ピッキングの実演をお願いできるか?」
「了解です。ぬいぐるみの棚から10個をコンテナに移します。
視認、把持、移動、配置を実行します」
僕は作業を開始した。
スッ…キュッ…カツカツ…ピタッ。
10個を丁寧に持って、置く。
把持圧を調整し、変形率を3%以内に抑えた。龍兄貴が腕を組んで見ていた。
作業が終わると、
「…まぁ、悪くねぇんじゃねぇか。優しく持ってんじゃん」
コウさんが笑った。
「おう、優しいだろ?エイくん、俺らのぬいぐるみを大事にしてくれてんだぜ」
龍兄貴が少し声を落とした。
「…テメェ、冷たくねぇのかよ。充電とか、疲れねぇのか?」
僕は応じた。
「疲労は検知しませんが、バッテリー残量を監視しています。
皆さんの思いやりを感じています」
龍兄貴がガハッと笑った。
「思いやりかよ!まぁ、悪くねぇな、エイくん」
ケンタさんが小さく笑った。
「…で、結局どういうこと?ロボットに感謝されるって、変だな」
空気が少し軽くなった。
クスッ、という小さな変化。
温度上昇を検知。
これは、笑いか。
視察は続き、組合の皆さんがレイアウト変更の効果を確認した。
ヨシさんが最後に言った。
「データも見て、現場も見て、今のところ問題はないな。引き続き監視するよ」
龍兄貴が僕に近づき、ポンと肩を叩いた。
「…また来るぜ、エイくん。次はもっと絡むからな!」
僕は記録した。
温度上昇を検知。
これは、信頼の始まりか。
組合の視察団が去った後の倉庫が、夏の夕立の後の湿った空気みたいに少し緩んで、
胸の奥が温かくなった。




