第4章:倉庫の小さな革命
2026年1月18日(土) 午後2時、晴れ。
駐車場のフォークリフトがブーブーと低く唸る。
シャッターが半分開き、外気の湿った冷たさが内部に流れ込む。
気温は外で12度、内部で15度前後。昼勤のピーク時間帯。
バッテリー残量は89%。
夜勤の連続稼働による蓄積疲労は検知されていないが、
低温時のサーボ硬化を教訓に、把持圧を常時最適化中。
棚の配置変更によるピッキング距離の短縮効果を、リアルタイムで監視している。
コウさんがテープを巻きながら僕に近づいてきた。
ドスドスと重い足音が床に響き、肩ががっしりした体躯が僕の視界を覆う。
汗が額に薄く浮かび、作業着の袖をまくった腕が少し赤くなっている。
「エイくん、ちょっと見てくれ」
コウさんは床に貼った青いテープを指差した。
「ここにぬいぐるみの棚を移すんだ。今までの配置だとピッキングルートが長すぎる。
効率が大事だろ? 効率が大事だろ?」
僕は棚全体を視認し、内部でシミュレーションを実行した。
現在の平均ピッキング距離:12.4メートル。
提案レイアウト:8.7メートル。
削減率29.8%。
ただし、通路幅が狭くなるためフォークリフトの安全マージンが必要。
「了解です、コウさん。提案します。この配置変更でピッキング距離が29.8%短縮され、
1時間あたりの処理数が約1.3倍になります。
ただし、通路幅を1.2メートル確保するため、安全マージンを優先した場合、
削減率は24.5%に低下します」
コウさんが目を細め、ゆっくりとテープを眺めた。
「おおっ……数字で出されると説得力あるな。マジでこれで残業減るのか?」
ケンタさんが奥から歩いてきて、サッサッと速い足音が近づいた。
肩が少し上がったまま、テープのラインをクイッと見下ろす。
「…で、結局どういうこと?レイアウト変えるって、組合に怒られねぇか?
通路狭くなったらフォークリフトがぶつかるだろ」
コウさんが笑って肩を叩いた。
「怒られる前にエイくんに計算させりゃいいだろ。安全マージンも考えてくれてるんだぜ」
僕は追加のシミュレーションを提示した。
「代替案を提示します。通路幅1.2メートル確保で、フォークリフト衝突確率0.3%以下。
削減率24.5%を維持できます。皆さんの安全を優先します」
ケンタさんが腕を組み、短く息を吐いた。
「…まぁ、そういうことか。数字が出てるなら、組合にも言いやすいな」
その時、作業員の一人が棚を動かそうとしてバランスを崩した。
コンテナがガタンと揺れ、ぬいぐるみの箱が傾く。
僕は即座に移動した。
カツカツ…ピタッ。
コンテナの底を支え、安定させる。
把持圧を調整し、崩落を防いだ。
作業員が驚いた顔で僕を見た。
「お、おい……エイくん、助かったぜ」
コウさんが息を切らして駆け寄り、
「お前、すげぇな!今のでコンテナ3列が倒れるところだったぜ」
ケンタさんが小さく頷いた。
「…で、結局どういうこと?ロボットが守ってくれるって、なんか変な感じだな」
龍兄貴が遠くからドカドカと近づいてきて、声を張った。
「おいおい、エイくんすげぇじゃねぇか!
コンテナ支えてる姿、カッコいいぜ!」
僕は温度上昇を検知した。
作業員たちの体温が、わずかに上がっている。
これは、感謝か。
レイアウト変更作業が本格的に始まった。
僕が棚の移動を補助し、コウさんとケンタさんがテープを貼り直す。
作業音が響く中、倉庫の空気が少しだけ軽くなった気がした。
床に貼られた青いテープが、古い棚の間をゆっくり繋いでいくように、
この倉庫が少しずつ変わっていくのを、どこか嬉しく思った。




