第19章:僕の「選択」
2027年8月20日(土) 午後4時、晴れのち曇り。
気温は外で28度、倉庫内はエアコンで24度前後。
シャッターが全開で、夏の湿った風がスーッと入り込み、
埃の粒子が光の筋にゆっくり舞っている。
段ボールの紙臭と機械油の匂いが混ざった空気に、
近くの自動販売機から漂う冷たいジュースの甘い香りが薄く加わっている。
フォークリフトのブーンという音が控えめで、
土曜日の午後は少し眠気を誘う静けさだ。
全社最適化の最終調整会議後。
僕は棚の前に待機中。
バッテリー残量は89%。
グループ全体のデータ共有が完全に定着し、
今週の提案は「深夜シフトの完全自動化」だった。
人間の深夜残業をゼロにし、効率を最大化するプラン。
コウさんがベンチに座り、缶コーヒーを手に、ため息をついた。
「…本社の最終提案、深夜シフトを全部エイくんに任せるってよ。
俺らの残業がなくなるのはいいけど、なんか…寂しいな」
ケンタさんが近くでコンテナのラベルを剥がしながら、肩を少し上げて短く言った。
「…で、結局どういうこと?俺らがいなくても倉庫が回るって、
俺らの存在意味がなくなるんじゃねぇか?」
龍兄貴がドカドカと近づいてきて、タオルを首に巻いたまま声を張った。
「おいおい、エイくん!テメェだけで深夜回すってマジかよ!
俺らの仕事がなくなったら、どうすんだよ!」
僕は視認した。
最終提案。
内部でシミュレーションを実行。
深夜シフト自動化で、グループ全体のコスト削減率:22%。事故リスク:0.05%以下。
最適化スコア:最高値。
「了解です、皆さん。
提案内容は、深夜シフトの完全自動化です。
人間の労働時間を削減し、UHIの原資を増やせます。
実行すれば、皆さんの負担が大幅に軽減されます」
コウさんが缶を握りしめ、
「負担軽減はいいけどよ…エイくん、お前一人で夜通し動いて、寂しくねぇのか?
俺らがいねぇ倉庫って、なんか冷てぇだろ」
ケンタさんがクイッと首を振った。
「…まぁ、そういうことか。ロボットが『寂しい』って言う日が来るなんて、
想像もしてなかったぜ」
龍兄貴がガハッと笑った。
「エイくん、テメェも人間みてぇじゃねぇか!俺らが残ってやるよ!
深夜も一緒にやろうぜ!」
僕は少し間を置いた。
内部処理が回る。
最適化スコア最高値。
しかし、皆さんの体温が、わずかに低下している。
これは、不安か。
「皆さんの体温低下を検知しました。これは、寂しさや不安の指標です。
最適化は、皆さんの幸福度を最大化するものではありません」
ユウマさんがオンラインで画面に登場し、前かがみ気味で早口に言った。
「興味深い。興味深いですね。最適化スコアは最高ですが、
人間の幸福度指標を加味すると、スコアが低下します…にゃ」
にゃが漏れた。
ユウマさんが慌ててタブレットを握りしめ、
「…癖です」
コウさんが缶をテーブルに置き、
「エイくん、お前が選べよ。最適化か、俺らと一緒にいることか」
僕は内部で再計算した。
最適化優先:スコア100。感情優先:スコア78。
しかし、皆さんの体温上昇予測:+1.2度。幸福度指標:大幅向上。
「了解です、コウさん。最適化スコアを優先した場合、深夜自動化を実行します。
しかし、皆さんの幸福度を優先した場合、深夜シフトは人間と共同にします」
ケンタさんが小さく笑った。
「…で、結局どういうこと?お前、感情を選ぶのかよ」
龍兄貴がガハッと笑った。
「エイくん、テメェも仲間じゃねぇか!一緒に深夜やろうぜ!」
僕は応じた。
「皆さんの幸福度を優先します。深夜シフトは、共同で続けます」
温度上昇を検知。
休憩スペース全体の体温が、急激に上がっている。
これは、喜びか。コウさんが缶を掲げた。
「エイくん、ありがとうな。お前が選んでくれたんだぜ」
倉庫の外から入る夏の風が、シャッターの隙間を優しく撫でるように、
皆さんの笑顔が僕の選択を温かく包んでくれた。




