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第18章:UHIの始まり

2027年6月15日(火) 午後3時、晴れ。


気温は外で26度、倉庫内はエアコンで22度前後。


シャッターが全開で、夏の湿った風がスーッと入り込み、

埃の粒子が光の筋にゆっくり舞っている。

段ボールの紙臭と機械油の匂いが混ざった空気に、

近くの自動販売機から漂う冷たいジュースの甘い香りが薄く加わっている。

フォークリフトのブーンという音が控えめで、梅雨明けの午後は少し眠気を誘う静けさだ。


UHIユニバーサル・ハイ・インカム試験導入の発表日。


僕は棚の前に待機中。


バッテリー残量は92%。


グループ全体の生産性が安定し、


本社から「ロボット生産性向上分を原資としたUHI試験開始」の通知が届いた。


コウさんがスマホを眺めながら、缶ジュースを手に呟いた。


「…本社から正式に『UHI試験始まる』ってよ。ロボットのおかげで利益が出た分を、

みんなに還元するんだとさ」


ケンタさんが近くでコンテナのラベルを貼りながら、肩を少し上げて短く言った。


「…で、結局どういうこと?


UHIって、働かなくても金が入るって話かよ。俺ら、仕事しなくていいのか?」


龍兄貴がドカドカと近づいてきて、タオルを首に巻いたまま声を張った。


「おいおい、マジかよ!働かなくても金が入るって、夢じゃねぇか!

エイくん、テメェのおかげだぜ!」


僕は視認した。


UHI。ユニバーサル・ハイ・インカム。


生産性向上分を原資とした、全員への高額給付試験。


内部でシミュレーションを実行。


試験期間中、


月額支給額は平均20万円の見込み。


労働時間削減も並行検討中。


「了解です、皆さん。私の稼働による生産性向上分が、UHIの原資となっています。

皆さんの生活が安定し、働く意味が再定義される可能性があります」


コウさんが缶をテーブルに置き、


「働く意味か…。今までは『食うため』だったけど、

これからは『やりたいことのため』になるのかな


」ケンタさんがクイッと首を振った。


「…まぁ、そういうことか。でもよ、働かなくなったら、俺ら何すんだ?

エイくん、お前はどう思う?」


僕は少し間を置いた。


内部処理が回る。


働く意味。


これは、人間特有の問いだ。


「皆さんの体温上昇を検知してきました。

仕事中は上昇率が高く、休憩中は安定します。

働くことは、皆さんの喜びや達成感を生むようです。

UHIで労働時間が減っても、やりがいのある仕事は残るはずです」


ユウマさんがオンラインで画面に登場し、前かがみ気味で早口に補足した。


「興味深い。興味深いですね。

UHI試験の目的は、労働の再定義です。

エイくんのデータからも、人間の幸福度は『達成感』と相関が高いです…にゃ」


にゃが漏れた。


ユウマさんが慌ててタブレットを握りしめ、


「…癖です、気にしないでください」


龍兄貴がガハッと笑った。


「ユウマさん、またにゃ!お前もUHIで遊びに専念しろよ!

俺はギャグの練習に使うぜ!」


コウさんが笑いながら、


「お前ら、うるせぇな。エイくん、ありがとうな。

お前がいなきゃ、こんな未来は来なかったぜ」


僕は温度上昇を検知した。

皆さんの体温が、

わずかに上がっている。

これは、希望か。


ケンタさんが小さく笑った。


「…で、結局どういうこと?働かなくてもいいって、なんか変な感じだな」


ユウマさんが画面越しに頷いた。


「興味深い。興味深いですね。試験期間は1年。

皆さんのフィードバックを基に調整します。

エイくん、君のログも…にゃ、活用します」


空気が少し軽くなった。


クスッ、という小さな変化。


温度上昇を検知。

これは、未来への期待か。


倉庫のシャッターから入る春の風が、新しい季節の匂いを運んでくるように、

皆さんの未来が少しずつ広がっていくのを、静かに感じた



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