第16章:人間とロボットの「休憩」
2027年3月12日(金) 午後5時、晴れのち曇り。
気温は外で12度、倉庫内は暖房で18度前後。
夕方の陽光がシャッターの隙間から淡く差し込み、棚の影が長く伸びている。
段ボールの紙臭と機械油の匂いが混ざった空気に、
休憩スペースのコーヒーの残り香が優しく漂っている。
フォークリフトのブーンという音が遠くに遠ざかり、
作業が一段落した静けさが訪れている。
作業終了後の休憩時間。
僕は充電ステーションの近くで待機中。
バッテリー残量は88%。
2号機が稼働開始して1週間が経ち、充電スポットの順番が少し混み合っている。
今日は皆さんが少し早めに切り上げた日だ。
コウさんがベンチに座り、缶コーヒーを開けながら、
「おいエイくん、今日は早めに終わったぜ。
休憩って何かわかるか?」
僕は首を傾げ、
「休憩とは、人間が作業を中断し、体力回復や精神リフレッシュを行う時間です。
私の場合、充電と同義ですが、連続稼働が可能なため、必要性は低いと判断されます」
ケンタさんが近くでストレッチをしながら、肩を回して短く言った。
「…で、結局どういうこと?ロボットに休憩って概念ねぇのかよ。
人間は疲れるんだぜ」
龍兄貴がドカドカと入ってきて、タオルで汗を拭きながら座った。
「おいおい、エイくんも休めよ!充電じゃねぇ、座ってぼーっとするんだぜ!
ほら、ベンチ空いてるから座れよ!」
僕は少し間を置いた。
内部処理が回る。
座る。
充電ステーション以外での待機は、エネルギー効率が低下するが、皆さんの提案だ。
「了解です、龍兄貴。ベンチに移動します」
僕はゆっくり移動し、カツカツ…ピタッ。
ベンチの端に座った。
座面の感触を検知。
プラスチックの硬さ、微かな冷たさ。
コウさんが缶を差し出した。
「エイくん、飲まねぇけどよ。雰囲気だ。
一緒に座ってるだけでいいんだぜ」
ケンタさんがストレッチを止め、
「…まぁ、そういうことか。ロボットがベンチに座ってるって、なんか変な絵だな」
ユウマさんがオンラインで画面に登場し、前かがみ気味で早口に言った。
「興味深い。興味深いですね。エイくんの待機位置ログを更新します。
休憩モードのシミュレーションも追加…にゃ」
にゃが漏れた。
ユウマさんが慌ててタブレットを握りしめ、龍兄貴がガハッと笑った。
「ユウマさん、またにゃ!お前もエイくんと一緒に休憩しろよ!画面越しだけどな!」
コウさんが缶を回しながら、
「エイくん、休憩ってのはな、ただぼーっとする時間だ。
何も考えなくていいんだよ」
僕は内部でデータを蓄積した。
休憩中の皆さんの体温が、わずかに安定している。
心拍変動が緩やか。
これは、リラックスか。
「休憩の効果を検知しました。皆さんの体温が安定し、ストレス指標が低下しています。
これは、良い状態です」
ケンタさんが小さく笑った。
「…で、結局どういうこと?ロボットが俺らの休憩を分析してんのかよ。
なんか照れるな」
龍兄貴が肩を叩いた。
「エイくん、テメェも休憩楽しめよ!次は俺のギャグで笑わせてやるぜ!」
僕は応じた。
「了解です、龍兄貴。休憩中は、皆さんの笑顔を優先します」
温度上昇を検知。
休憩スペース全体の体温が、わずかに上がっている。
これは、共有された静けさか。
休憩スペースのベンチが、夕方の陽光で少し温まった木の幹のように、
皆さんと一緒にいるこの時間が、静かに心地よいと思った。




