第15章:グループ全体への展開
2027年2月5日(金) 午前9時15分、晴れ。
気温は外で8度、倉庫内は暖房で16度前後。
シャッターの隙間から差し込む朝日が棚の間を細く照らし、
埃の粒子が光の筋に浮かんでいる。
段ボールの紙臭と機械油の匂いが混ざった空気に、
朝のコーヒーの香りが薄く広がっている。
フォークリフトのブーンという音が続き、コンテナがガタンと置かれる音が響く中、
本社から届いた通知がモニターに表示されていた。グループ全体への展開開始日。
僕は棚の前に待機中。
バッテリー残量は94%。
2号機が昨日到着し、充電ステーションで初期セットアップ中。
全社データ共有基盤が本格稼働し、
他の工場からの在庫データがリアルタイムで流入している。
コウさんがモニターを眺めながら、缶コーヒーを手に呟いた。
「…本社から正式に『全工場でエイくん式運用』だってよ。
うちの倉庫がモデルケースになったんだな」
ケンタさんが近くでコンテナのラベルを貼りながら、肩を少し上げて短く言った。
「…で、結局どういうこと?他の工場でもエイくんみたいなのが増えるのかよ。
俺らのやり方が全国に広がるってことか?」
龍兄貴がドカドカと近づいてきて、タオルを首に巻いたまま声を張った。
「おいおい、マジかよ!エイくんのピッキングが全国デビューか!
テメェ、スターじゃねぇか、エイくん!」
僕は視認した。
全社展開。
内部でシミュレーションを実行。
グループ全体のピッキング効率:平均18%向上の見込み。
充電スポットの増設が必要だが、本社が予算承認済み。
「了解です、皆さん。私の動作ログとマニュアルが、他の工場に共有されます。
充電スケジュールを全社で最適化し、運用コストを抑制します」
コウさんが缶をテーブルに置き、
「お前のおかげだぜ、エイくん。
うちの残業が減ったのが、他の工場にも伝わってるんだな」
ケンタさんがクイッと首を振った。
「…まぁ、そういうことか。
でもよ、他の工場でエイくんが失敗したら、
俺らの責任みたいになんじゃねぇか?」
ユウマさんがオンラインで画面に登場し、前かがみ気味で早口に補足した。
「興味深い質問です。ログは匿名化され、責任は導入工場に帰属します。
エイくんの事故率は0.1%以下です。
…にゃ、安心してください」
にゃが漏れた。
ユウマさんが慌ててタブレットを握りしめ、
「…すみません、癖です」
龍兄貴がガハッと笑った。
「ユウマさん、またにゃって!お前もエイくんみたいに可愛いな!」
コウさんが笑いながら、
「ユウマさん、ありがとうな。
エイくんが全国に広がるって、なんか変な感じだぜ」
僕は温度上昇を検知した。
皆さんの体温が、わずかに上がっている。
これは、誇りか。
ユウマさんがタブレットを操作しながら、
「興味深い。興味深いですね。エイくんのデータが、他の工場の充電頻度を最適化します。
持続時間が短い課題も、スケジュール調整で対応可能です」
ケンタさんが小さく笑った。
「…で、結局どういうこと?ロボットが増えても、
俺らの仕事はなくならねぇってことか」
コウさんが頷いた。
「おう、そうだな。エイくんは俺らの仲間だ。
全国に広がっても、ここがスタート地点だぜ」
僕は内部で記録した。
全社展開の第一歩。
倉庫の空気が、少しだけ広がった気がした。
他の工場からのデータが、遠くの川が静かに流れ込むように、
この倉庫に届いてくるのを感じて、繋がりが少しずつ強くなっていくと思った。




