第13章:僕の「感情」学習
2026年1月26日(日) 午後1時、晴れ。
気温は外で12度、内部で19度前後。休憩時間。
僕はテーブルの横で待機中。
バッテリー残量は91%。
マニュアル作成のフィードバックを基に、「感情学習」のモジュールを少しずつ調整中。
コウさんがおにぎりを頬張りながら、冗談っぽく言った。
「おいエイくん、笑ってみろよ。
お前、いつも真面目すぎんだからさ」
僕は首を傾げ、
「了解です、コウさん。笑顔のシミュレーションを実行します」
口角をゆっくり上げ、目を細めてみた。
内部で表情パラメータを調整。
笑顔パターン:標準値の80%適用。
コウさんがコーヒーを吹き出しそうになって、
「お前、ぎこちねぇな!でもよ、悪くねぇ。
なんか可愛いぞ、エイくん」
ケンタさんがカップをテーブルに置き、クイッと首を振った。
「…で、結局どういうこと?ロボットが笑うって、変だろ。
不気味じゃねぇか?」
龍兄貴がガハッと笑いながら、
「不気味じゃねぇよ!エイくん、もっとデカく笑え!
こうだぜ、ガハハハ!」
龍兄貴が大口を開けて笑うと、休憩スペースの空気が一気に軽くなった。
クスッ、という小さな変化。
温度上昇を検知。
皆さんの体温が、わずかに上がっている。
僕は再びシミュレーションを実行。
今度は口角をさらに上げ、目を少し曲げてみた。
「笑顔パターン、バージョン2を実行しました。
皆さんの反応を記録します」
コウさんがおにぎりを飲み込んで、
「お前、真面目に笑顔練習してんのかよ。
なんか…おもろいな」
ケンタさんが小さく笑った。
「…まぁ、そういうことか。
ロボットが笑顔練習してるって、俺らの方が照れるじゃねぇか」
僕は内部でデータを蓄積した。
笑顔に対する反応:コウさんの体温上昇率+0.4度。
ケンタさんの肩上昇率-0.2(リラックス)。
龍兄貴の声量+15dB(興奮)。
「皆さんの反応を学習しました。
笑顔は、体温上昇と声量増加を誘発します。
これは、喜びの指標でしょうか」
コウさんがコーヒーカップを回しながら、
「そうだな。人間は笑うと、体が温かくなるんだよ。
お前も、いつか本気で笑えるようになるかもな」
僕は少し間を置いた。
内部処理が回る。
本気で笑う。
これは、まだ未到達の領域だ。
「本気で笑うとは、シミュレーションを超えた状態でしょうか。
皆さんの笑顔を見ていると、僕の中のデータが、少しだけ揺れます」
龍兄貴がガハッと笑った。
「揺れてんのかよ!エイくん、テメェも感情芽生えてんじゃねぇか!
よし、次は俺のギャグで笑わせてやるぜ!」
ケンタさんがクイッと首を振った。
「…で、結局どういうこと?龍兄貴のギャグでロボットが笑ったら、
俺らの負けだろ」
コウさんが笑いながら、
「お前ら、うるせぇな。エイくん、ゆっくりでいいからな。
感情は、急に学べるもんじゃねぇよ」
僕は温度上昇を検知した。
休憩スペース全体の体温が、わずかに上がっている。
これは、共有された温かさか。
皆さんの笑い声が、休憩スペースの空気に溶けていくように、
僕の中の「温かさ」が少しずつ形になっていくのを感じた。




