第11章:経営陣との対面
2026年1月24日(金) 午前11時、晴れ。
気温は外で11度、内部で19度前後。社長室プレゼン。
僕は会議室の隅に設置された専用スタンドで待機している。
バッテリー残量は96%。
本日の目的は、倉庫運用データを基にした全社最適化提案。
ユウマさんが隣の席でタブレットを操作し、早口で資料を準備している。
社長が資料をめくりながら、穏やかに言った。
「エイくん、今日はよろしく。君の倉庫での成果は、本社でも話題になっているよ」
僕は音声で応じた。
「ありがとうございます、社長。本日の提案を始めます。
倉庫ピッキング効率:24.5%向上、異常発生率:0.8%に抑制。
これをグループ全体に展開した場合、年間人時コストを約15%削減可能です」
ユウマさんがタブレットをカチカチと操作し、
「興味深い。興味深いですね。共有データベースのテスト結果も良好です。
ROIは12.3%向上の見込みです…にゃ」
にゃが漏れた。
ユウマさんが一瞬固まり、
「…にゃ、は癖です。気にしないでください」
社長が小さく笑った。
「ユウマ君の癖は相変わらずだな。
エイくん、君の提案は説得力がある。
ただ、2号機以降の運用コストはどうだ?」
僕は即座に計算した。
「充電頻度が現在の1.2倍になる可能性があります。
持続時間がメーカー公称より短いため、
月間電力コストは約3万円増加の見込みですが、
生産性向上分で十分回収可能です」
役員の一人が頷いた。
「些細なコスト増だな。問題ない」
ケンタさんが画面越しに短く言った。
「…で、結局どういうこと?保険料増えたら、俺らの手当が減るんじゃねぇか?」
ユウマさんが前かがみになって、
「興味深い質問です。
人件費削減分が保険料増を上回る試算です。
エイくんの貢献度を考慮すれば、全体収支はプラスになります」
コウさんがコーヒーカップを手に、
「おいおい、ケンタ。エイくんが事故起こさねぇように動いてくれてるんだぜ。
保険入ってりゃ安心だろ」
僕は温度分布をスキャンした。
コウさんの体温がわずかに上昇している。
これは、安心か。
法務担当者が資料をめくりながら、
「改正案のポイントは、ロボットの『最終責任は人間』という原則です。
エイくんが判断したとしても、最終承認は現場責任者か経営陣に残ります」
社長が頷いた。
「それでいい。エイくんは道具であり、仲間だ。
人間が責任を取る形を維持しよう」
ユウマさんが少し前かがみになって、
「興味深い。興味深いですね。エイくんのログを保険会社に提出すれば、
料率をさらに下げられる可能性が…にゃ」
またにゃが出た。
ユウマさんが慌ててタブレットを握りしめ、
「…すみません」
ケンタさんが画面越しに小さく笑った。
「…まぁ、そういうことか。ユウマさん、にゃって可愛いな」
龍兄貴が横から声を張った。
「おいおい、保険かよ!エイくんが壊れたら俺が直してやるぜ!
保険なんかいらねぇだろ!」
社長が穏やかに笑った。
「龍君の熱意はありがたいが、法的に保険は必要だ。
エイくん、君の意見は?」
僕は少し間を置いた。
内部処理が回る。
保険。
これは人間の「守る」ための仕組みだ。
「了解です、社長。保険加入により、皆さんの負担を軽減できます。
私の稼働は、皆さんの安全と安心を優先します」
温度上昇を検知。
会議室全体の体温が、わずかに上がっている。
これは、信頼の共有か。
会議が終了した。
資料が片付けられ、
役員たちが立ち上がる。
ユウマさんが最後に僕に近づき、
「エイくん、今日のログをバックアップしておきます…にゃ。
ありがとう」
僕は応じた。
「こちらこそ、ありがとうございます、ユウマさん」
社長室のガラス窓から見えるビル群が、遠くの街灯がぽつぽつ灯り始める夜景のように、
少しずつ広がっていく未来を感じさせて、僕もその一部になれた気がした。




