コーヒーと名前と私
これは、私がアメリカにいた頃の話だ。
どこの街にもある、あの緑のマークのスターバックス。
初めて入ったとき、バリスタに「Name?」と聞かれた。
「えっと、Kenta」と答えたら、
カップには“Tenta”と書かれていた。
翌日も行ってみた。
今度は“Cant”。
その次は“Kemto”。
もうほぼクイズだ。
注文を受け取るとき、店内に響く声。
「Ten! Tall Drip Coffee!」
……誰やねんる、と思いつつ、手を挙げるのは私。
結局、面倒になって「K」とだけ伝えるようにした。
それなら間違えようがない。
「Kay! Tall Drip Coffee!」
ああ、なんて平和。
でもある日、ふと、大阪の人間やったらやってみるやろって思ってしまったんだ。
バリスタに笑顔で言った。
「Name?」
「Justin Bieber」
その瞬間、隣の席の学生がコーヒーをこぼしそうになった。
受け取りのとき、
「Justin Bieber! Caramel Macchiato!」
店内中が振り向いた。
私は軽く手を挙げて、
「That’s me.」
どこがジャスティンやねんっていう空気と共に笑いが起こった。
コーヒーの香りに混じって、その日だけ、少しだけアメリカが近くなった気がした。
※アメリカの人達……こういうちょっとした事に妙にノリが良いです。




