99.紹介できる二つ名は色々
「カリーアいい子だったよ……」
「リウマ様……」
竜真は男を褒め、男は肩で息をしたまま潤んだ目で竜真を見上げている。新たに結ばれた淫猥な主従の近くにリベラルラウは拍手しながら近寄った。
「すんげぇの見ましたわ。ここまでの官能ショーを俺は見たことありませんよ。しかも男同士でお互いに服すら脱いでないくせにいやらしいいやらしい」
貶してはいないが誉めてもいない言葉に竜真はムッとしながら、覆面を自分の顔に巻き付けた。
カリーアと呼ばれた男は徐々に隠れていく竜真の顔を待てを強いられた動物のように焦がれている。
リベラルラウは竜真の手腕に賞賛していた。
カリーアのように忍び込み情報を盗むものは、勿論捕まっても相手に情報を渡さないように訓練されているし、敵になびかないよう徹底的に教育されている者が多い。それにも関わらず強力な教育を鞭一本で心を開かせ従順にさせるまでする手腕は自分の部下にはない。
「リウマさん、あんたんとこの団員みんな調教されてんですか?」
「……いや、まさか。基本的に僕に焦がれている腕がある変人揃い。なぜか僕に忠誠を誓っていて懐いてくるんだ。諜報部員はアホな上に特に面白がりが多くてね。変なネタばかり集めてくる。まぁ腕があるだけ質が悪いと言っておくよ。とりあえずコレの怪我の治療を」
コレと呼ばれたカリーアはその瞬間に体から力を抜かし意識を失った。
リベラルラウはガイナックを呼びつけ医者を呼ぶように言い付け、治療道具を持ってこさせた。
ガイナックは部屋に引き入れられ、倒れている男に眉をしかめた。
「幹部会の皆々様、大変焦れていらっしゃいますが……」
「焦らしておけ。かまわん。で、医者は?」
「ゼフラー先生がもうすぐいらっしゃいます」
「おう」
「で、なんですか! コレ」
ガイナックがリベラルラウに吠える。
「いや、気にすんな」
「気になります」
「……僕の下僕だよ。ちょっと手荒に扱ったから怪我しちゃってね。手を煩わすよ。ごめんね?」
「いえ、リウマ様。お気になさらずに」
リベラルラウを責めていたガイナックも竜真が一言言えば何も言えないらしく引き下がった。
しばらくして酒瓶片手にした無精髭のまさにやぶ医者の典型そうな見目のいかつい男がガイナックに通されてやってきた。
「ラウ、怪我人だって?」
その風体に見合ったダミ声で入ってきた男はゼフラーと言ってリベラルラウの盗賊団専門医だ。
「あぁ。こいつを頼む」
「どこ怪我してるって?」
服は普通に着ていて、顔も綺麗なまま。倒れているカリーアはただ床に寝ているように見える。
「服の下は酷いと思うよ。きっと解熱剤は必要かな」
カリーアを攻め疲れたのか竜真はゼフラーが着いた時にはソファーの上に寝転んで仮眠をとっていた。
「ガイナック、リウマさんにお茶を」
「はい」
「いや、いい」
ゼフラーは起きた竜真をちらりと確認する程度に見てガイナックに言った。
「ガイナック、服脱がすの手伝えや」
「はい」
気だるげなリウマが二人を見ながらリベラルラウに言った。
「ラウ、女誰か一人見繕ってくんない?」
「お……うぇ?」
背後からの気配にカリーアの服をはぎ取るのを見ていたリベラルラウは混乱した。
「高ぶってんの。一人でするのは嫌だからね」
「はい。え……っと行ってきます」
――リベラルラウは混乱しているようだ。
「ガイナック、来い」
それでもガイナックを呼ことは忘れない。
リベラルラウとゼフラーに遠慮がちなガイナックが部屋から慌てて出ていったのを見ながら竜真は悠然と歩きだす。
ゼフラーを手伝い、カリーアの衣服を剥ぎとる。
「こりゃあ……」
ゼフラーは絶句した。
肌が露出した部分には一切の傷はなく、服は傷んでいないくせに、服の下は一面蚓腫れである。
「あんたかい?」
「そうだよ」
「器用なこって」
「知ってる」
「…………」
竜真とゼフラーの視線が交差する。
「あんた新入りかい?いや、違うか……」
「ラウの友人さ」
「ラウの友人か。おれぁゼフラー、ラウの専属医だが普段は街で医者やってんだ。あんた名前は?」
「リウマ……二つ名は色々と」
「紅砂の頭かい。ラウがんなこと言ってたな」
「そうそう」
「いい腕してんなぁー」
「ありがとう」
ゼフラーは関心を込めて言っているが竜真の声は冷たくほぼ棒読みだ。
そこへどたばたとリベラルラウが帰ってきた。
「リウマさん、遅くなってわりぃね準備ができた。俺んとこの一番の花だから手荒にしないでくれよ?」
竜真の流し目にガタンと音を立てリベラルラウは壁にぶつかった。
竜真は何してるんだかと肩をすくめた。
「男はともかく女は愛でるもんだよ?ラウ」
「……色気過多だな。ガイナックに付いていってくれ」
「ありがとう」
竜真は猫のような足取りで部屋から出ていった。
リベラルラウはふうと息を吐き、ゼフラーに近寄る。
「うわ。ひでぇな」
「服が一ヶ所も破れていない。どうしたらこうなるのかちっともわからん」
眠るように気絶しているカリーアを二人の四つの目が困惑と感心で見つめていた。
ラウ。ぱしられる……お頭なのに