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1stのリウマ  作者: 真咲静
大掃除は大変なんです。
98/113

98.調教はテクニックで

「ありがとうねぇ。本当に助かりました」


 枯れた老女の声は慈愛と感謝に満ちていた。


「礼を言われるようなことではな」


「気にしないで俺らみたいなヒヨッコは仕事があるだけで幸せなんだからさ」


 イナザの背中を左手でつまみ、シンは右手で老女に向かって手を振る。

 

「じゃ、アリンさんまた明日来るからね」とイナザの背中をつまんだまま後ろに下がるシンに引きずられるようにイナザは後ろに下がる。


「な」


「それじゃねー」と文句を言おうしたイナザを蹴飛ばして家から出るシン。

「あらあらまぁまぁ」と微笑ましげに老女は寝台の上に座り、掛け布団を膝に乗せながら二人が去るのを見ていた。



「まったく子は親に似ると言うがアイツと同じ角度で蹴りを入れるとは……」


「イナザさんに言われなくないよ」


 シンは宿の方向へと歩きだす。イナザもシンのごもっともな一言に黙り付いていく。


「お」


「黙って無視」


 そこで目の前に竜真が通りかかった。イナザを素早く牽制してシンは竜真から距離を取りながら歩を進める。竜真がすっかり見えなくなってからシンは路地裏に入りイナザの方を向いた。


「あんたの頭ん中は空っぽか!あんな往来でリウマさんに話しかけようだなんて」


「そんなに怒」


「るようなことだよイナザさん。リウマさんは見かけても話しかけるなと言ったんだから、それを守るのは当たり前でしょ?」


 自分よりも背は低いが普段は一行の誰よりも温厚なシンの怒りは迫力がある。イナザは気圧されて一歩下がった。


「それにさっきのことも! あちらは雇用主、こちらは雇われ。こっちが卑屈になる必要もないけど尊大になる理由は更にないんです」


「わ……わかった」


「これほど何にもできない大人を始めて見ましたよ」


「まぁ何もするなと言われて育ってきたからな」


「それに甘んじていたから今に至ると」


「今日は辛辣じゃないか」


 なんとなくシンだけは味方だと思っていたイナザはシュンとして肩を下げた。


「何もできないなら今からすればいい。覚えればいい。覚えなければ死ぬこともある。それが市井で民達の生き様だと知るんです。まずは生きること。生きるためには食べること。食べるためには作るか買うかです。買うにはお金が必要です。だから稼ぐんです。俺達冒険者はハイリスクハイリターンで稼ごうと思えば高金額を稼げますが、次の依頼で生きるか死ぬか、次の依頼まで生きれるかどうか、その為には良い防具や武器、技術が必要です。これを得るためにもまた高額が必要になります。ですが、アリンさんからのあの感謝の言葉はお金では買えません。お金も大事ですが、アリンさんから感謝されて、少しでも良い気分になったら、その気持ちを忘れないでください。それが人間が根幹に持つ大事なものなんです」


 シンらしい説教にイナザは皮肉に笑う。


「……礼を言ったことも言われたこともなかったな」


 イナザは暗い雰囲気を纏いポツリと呟いた。



***



 竜真は捕まった捕虜の縄を解き、アカイにこの国を暴くように命令をした。

 リベラルラウは敵にまわしたら最後だなーとお茶を啜る。


「ラウ、邪魔しないよね?」


「しませんよ。なんせリウマさんは俺の政敵を破滅に追い込んでくれるんですよね?なら後押しするだけです」


 突き刺さる竜真の視線にリベラルラウはやけくそ気味に言うと竜真はお茶を縄から解放されたスパイにかけた。


「起きなよ。ディアージャロウの部下さん」


 力強く踏みつける。変態ことディアージャロウの手下は苦しそうに喘いだ。


「名前と任務を言え」


 簡単に言えない二つを直球に聞く竜真は放ってリベラルラウは手紙をしたためる。

 封をした手紙を持って廊下に向かい鈴を鳴らしガイナックを呼び付けた。


「ガイナック、幹部会呼び付けろ。んで、これを奴らに披露。じゃ」


 用件だけ言い、ガイナックに手紙を渡し、そそくさとリベラルラウは部屋に引っ込んでしまった。

 渡された手紙に押された最重要、緊急の印にギョっとしてガイナックは廊下を駆け出した。


「ラウ、動く時は盛大にね」


「わかってますよ……で、何か喋りましたか?」


「お口が堅くてねー……ラウ、部屋に誰も入れるなよ?」


「かしこまりました」


 リベラルラウの返事に竜真は覆面を取ると腰から鞭を取り出した。


「さぁ変態と僕、どちらがより君を落とせるか……忠義があるなら耐えてごらん。耐えられたら逃がしてあげよう」


 竜真の鞭が振り上げられた。


 リベラルラウは新妻の顔を必死に思い出しつつ竜真と忍んできた者を見ている。そうもしなければ自分も倒錯の世界に渡ってしまいそうだった。竜真の色気は前に見たときよりもより艶やかに強化されていると腰を引きながら思う。(リーン、助けて)と一国の都の勢力の片方を担うリベラルラウは嫁の名前を心の中で叫んでいた。


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