97.ネタですから
「ラウラウやっほー」
覆面の男が入ってきた瞬間、部屋の奥に居た男、リベラルラウは茶を吹き出した。
リベラルラウは大首領と畏まられる身になって、元々のがっしりした体型に更に整った顎髭で威厳ある男に見せかけているのだが無駄になりそうな竜真の軽さだ。
「リウマさん。ラウラウは止めてください」
けほけほと咳き込んだ男にひらひらと手を振る竜真。男は非難した。
「ラウがここまで成長してるとは思わなかったよ」
竜真は咳き込んだ男に促されるまま、その上座へと座る。ギルドの大首領である彼が上座を譲ったことに竜真を案内してきた男は驚いていた。
「ガイナック。この方は私の恩人。リウマさんだ。覚えておきなさい。それからとっておきを……」
「……かしこまりました」
案内してきた男、ガイナックは(酒場で文句言わなくて良かった)と静かに胸をおろしてボスのとっておきの酒を取りに部屋から出た。
「ラウ。僕が来た理由は分かるかな?」
ガイナックを一瞥してリベラルラウに意識を戻した竜真の一言にリベラルラウがゆっくり頷く。
「三人のお嬢さんの話ですね。いかにもあなたが嫌いそうな話だ」
「そうだよ。万屋が情報はなかったと言うから直接聞きに来たんだ」
「……私のところには情報があると?」
「まぁね」
「万屋からお聞きになったでしょう?」
表の者に言える情報ではない。
「うーん。例えば盗賊ギルド内で大首領同士の諍いがあるとしよう」
竜真が何を言い始めたのかすぐに分かったリベラルラウは竜真の顔を凝視した。
「片やこの国を裏から支配し続けてきた老獪。片や若手から支持を集めている新人。老獪の方は目下、人身売買を基盤にしている。これはギルドの幹部にもなれば知らないでもない情報だ。売り先は多分高貴なる貴族階級。その気になれば一昼夜で人間を変えるほどの手技を持つ変態野郎に騎士団は目を付けていても排除まではできない。騎士団内部にも腐敗部があり、これを捕らえることはできない」
「そこまで分かっていらっしゃるなら!」
「だから君を巻き込もうと思った。そしてもう一人二人」
竜真が人差し指を立てた。
「この事件に巻き込みたい方々がいる」
リベラルラウは(うわー)と目を泳がせた。現在、王都には二大勢力があり、一方を担っていると自分としてはこのぐらいで満足していたいなーと言いたい。
このままでは脱力のあまり立てなくなりそうだとリベラルラウは立ち上がり、脇部屋からティーセットを持ち出した。
「まぁあの変態をそろそろ失脚させたかったし、王国内の第二王子派を排除もしたかったんだ。第一王子の治世なら悪くはならなさそうだし、君と彼の相性も悪くない」
あぁ、この人、巣作りしてんのかとリベラルラウは竜真がシュミカに家を持っていたことを思い出した。 リベラルラウ手ずから入れたお茶を竜真の前に出す。
「本格的に落ち着くつもりで?」
「いや。落ち着くまでは至らないよ。ただ僕の手元に来た情報に不穏なのがあって、僕の家がある国を荒らすのが嫌だから先手を打ちたい。そんな感じ」
竜真はお茶を啜ると「不味い」と呟いた。
「君にはこの国を裏から守ってもらいたい。それが出来るだろうからねラウなら……だって僕が目をつけたんだもの……ね? ラウ」
「不味いって酷いですよ。そんな流し目されたら、わかりましたって言うしかないじゃないですか!」
覆面の下を想像するだにリベラルラウは口元を引きつらせる。近くにいると覆面では隠せない目元の色気を食らうのだ。
竜真としては百も承知ので繰り出しているのでリベラルラウが一人焦る分に可笑しい。
「で、どこまでお知りですか?」
「そうだね。第二王子の母である側妃の浮気。変態の部下の出入りが側妃様の近くで多い。万屋は何かを知っているが話せない。変態は結構国の中枢に根を広げている。第一は悪くないかんじ。第二は現在僕預かりで教育中。王様はあまちゃん……箇条にして言えばこんなかんじかな」
「…………はぁ……あなたを忘れていました。1stにして首領、そしてマスターだ。第一王子が先日、単騎同然に都を離れたのはあなたが原因でしたか。で、第二王子はあなたが原因で王族をそして貴族すら辞めることになった」
「失礼な! あれはあの馬鹿が悪い。僕を原因にしないでほしいな」
「まぁまぁ。とりあえず国から王子を一人消したとあって、あなたの動向はかなりマークされてたんですがね……まぁ、情報に上がらない。上がらない」
リベラルラウが苦笑いして言えば、竜真はさも当然と答える。
「僕は紅砂の頭だし、君が言ったように1stでマスターだ。僕の情報は金になる。紅砂に報酬払えば1stのリウマ大好き人間の会、会報を売ってもらえるよ……多分ね?アカイ」
「……」
竜真が天井の角に視線を向けたのにリベラルラウも釣られてそちらを向く。
「リウマ様ぁバラさないでくださいよぉー」
リベラルラウは頭を抱えた。竜真が見ていた天井の角がズレて人が一人降りてきたのだ。
「ラウ。僕の部下は優秀なんだ」
大首領が取り仕切る盗賊団の本部にいとも簡単に忍び込んでいる。それは優秀だろう。竜真がアカイと呼んでいたのを聞いていたリベラルラウは「紅砂の三幹部の一人じゃないかー」と脱力していた。
「リベラルラウ様、警備が手薄過ぎですよぉ。リウマ様曰く変態の部下が居たので拉致っときましたー」
間延び口調に脱力していたリベラルラウが二言目の「拉致っときましたー」で復活した。不穏なことをさらっと言うのはこの頭にしてこの部下と言うのだろう。
アカイが竜真に一瞬お伺いをたてる視線を送ると竜真の口角が皮肉そうに上がる。
アカイが指をパチンと鳴らすとアカイが出てきた天井の角から女が一人顔を出し、縛られた男が一人落された。
「まだ上に誰か潜んでるのか!」
「なんで亀甲縛りなの」
アカイの他にも入り込んでいる竜真の部下に驚くリベラルラウと落ちてきた男の様に頭を抱える竜真。大首領と首領。二つの組織の頭を同時に脱力させることにアカイは成功した。