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1stのリウマ  作者: 真咲静
大掃除は大変なんです。
95/113

95.依頼を受けました。

「しつこい! 離れろ!」


 竜真は腕に掴まり離れない少女に手荒に扱えない存在に苛立っていた。それも竜真をよく知る存在なら傍に近寄りたくない程度に苛立っていた。

 普段通りなら「離してくれませんか?」や「離してね?」と言う口調から見ても苛立ちがよくよく見て取れる。

 巻き髪をツインテールにしたその少女は私のものは私のもの。あなただって私のものと言わんばかりで傍に居る従者はオロオロと戸惑っていた。


「申し訳ございません」と何度も繰り返し謝る従者に「謝るぐらいなら、さっさとこのご令嬢を連れて帰って下さい。迷惑です」


 きっぱりと言い切る竜真に従者は更に申し訳なさそうに頭を下げた。


***



「ここがヘルムート万屋の本店か」


 近隣王国三国にまたがる商家ヘルムート万屋の本店がここロベル王国にあった。そして竜真が受けた今回の依頼はヘルムート万屋から出ていた。


「すみません。冒険者ギルドから依頼を受けてきました」


 竜真は入り口で店員に指示を出している人間を素早く目に留め近寄るといつものように挨拶をする。


「へ? あ! 少々お待ちください」そう言って奥に消えた人がしばらくすると壮年の男性を伴い戻ってきた。

 竜真は積まれている商品を見ていたが声を掛けられ振り向く。


「君が訪ねてきた冒険者か。名は?」


「……初めましてリウマと申します」


 上からの高圧的な態度、覆面をしている竜真への不信な眼差し、竜真は久しぶりにこれこれとテンションをあげる。低い身長に怪しい覆面。依頼人がこういった態度を取ることは多々ある。だが、大概は名乗ることでそれは解消される。


「リウマさんですか?」


 壮年の男性の威圧感は見事に消えた。かと言ってへり下る訳でもない。竜真に対しての敬意も伺える。

 さっすが商売人と竜真が心の中で揶揄し、ゆっくりと頷いた。


「……本物か確かめても?」


「いいですよ。最近、偽者が増えていて困ってます。はいギルド証です」

 男性は気軽渡されたギルド証を検分し竜真に戻す。


「どうぞ奥へ。ご主人様がお待ちしてます」


 男性は手を奥へ向け、竜真を誘導する。

 竜真はなんだこの人が主人じゃないのかと少々驚いていた。



「初めまして」と壮年の男性が案内してくれた先に居た青年が握手を求めていた。なんと言うか薄幸のと言うか、儚いと言うか、たおやかと言うか、線が細く優しげと男性にしておくにはもったいない形容詞が付きそうな人だと自分を棚に上げて判断した竜真は「初めまして」と返した。

 先程の使用人の方がよほど主面している。だが、雰囲気は女々しくともどこかそこはかとなく腹黒の匂いがするあたり竜真はなるほどと心で呟く。


「昨日の今日で数字持ちの方にいらしていただけるとは思ってもいませんでした。ヘルムート万屋の主人、ディオルと申します。お名前をお聞きしても?」


「1stのリウマです」


「あぁ。あなた様が」


 ディオルはにっこりと擬音がつく笑みを浮かべている。竜真を椅子へ座るように促し、ディオルも座る。そして竜真を案内した後に居なくなった先程の壮年の男性がお茶を持ってきて出し、壁に控えたところで竜真は切り出した。

 男性に話を聞かれても構わないのだろう。


「依頼は人探しとありますが……数字持ちへの依頼ですよね?」


「えぇ。人探しです。騎士団にも動いていただいてはいますが」


 人探しと言う依頼は本来数字持ちへの依頼にはならない。しかし、依頼者がヘルムート万屋の主人であり、なおかつ裏ルートでギルドへの依頼がされたことから数字持ち、更に緊急指定がされた依頼とされていた理由だろう。竜真はギルドで緊急指定を見てこちらの依頼を受けたのだが、依頼書には人探し、緊急指定としか書いていない。その場合はギルドが受けようとする冒険者を査定して依頼内容を話すと言う形になる。竜真がロベル王国の王都ギルドにこのタイミングで現われたことを感謝されたのは当然の話だ。


「ギルドでも聞いてきましたが、お話をお伺いしても?」


「えぇ。ギルドにも伝えていないこともありますので」


 竜真もそれは分かっていたことだ。頷いてディオルの話を促す。


「娘が居なくなりました。マリーナと言って歳は十二になります。居なくなった時に近所の菓子屋の娘ヤルナと鍛冶屋の娘ベツイヤも一緒でしたが、同じく居なくなりました。ヤルナは十、ベツイヤは十三になります」


「お嬢さんはどちらで居なくなられたのでしょうか」


「マリーナ達はハイルマン伯の私塾で習い事をしており、その帰り道です」


「護衛は居なかったのでしょうか」


「いつも三軒で交代に出しておりまして、件の時には鍛冶屋の当番でした。しかし鍛冶屋の人間が三人を迎えに行った時には既に姿はなかったそうです」


「ハイルマン伯は何と?」


「ハイルマン様の所では迎えが来たので送ってもらったと……それはうち、ヘルムート万屋の者だと……」


 竜真は淡々と事情を聞き出していく。



「ハイルマン伯の側でなせヘルムートの人間だと判断したのでしょうか?迎えが当番制ならば来る順番等も伯の側で分かっていても可笑しくはない。順番が入れ替わって来る人間がいつもと違えば警戒してもいいはずです」


「それは当日、ハイルマン伯の門番が新人でまだ私どもの人間を見ていないことが原因かと」


「私塾は毎日開催されていないのですか?」


「三日に一度です」


「では万屋からの護衛が本物か分からない上、順番についてもうやむやでも可笑しくはないですね……目撃者は門番が最後ですか?」


「今のところ」


「……あなたなら裏社会にも伝手があると思いますが、裏とは今回のことでやりとりをしましたか?」


「大首領の一人と懇意にしていますがまだ情報はきていません」


「……市場用ではないと……後は魔術用か変態か……」


 考え込む竜真の一言にディオルも頷く。竜真のしている想像はディオルも考えたことだ。


「騎士団はなんと?」


「未だ捜索中と」


「駒が少ないねー……わかりました。依頼を受けましょう」


「よろしくお願いします」


 ディオルが立ち上がり握手を求めると竜真もそれに応えて立ち上がり、ディオルと握手をする。


「さっそく捜索に入りたいと思います。では手始めにお嬢さんの部屋を拝見しても?後、菓子屋と鍛冶屋へも向かいたいので僕がここに雇われだと言う説明ができる文をお願いします」


 ディオルは竜真を娘の部屋へ案内するように傍に控えていた男に命じた。


「かしこまりました。ではこちらに」


 竜真は娘の部屋へ向かうべく男に促され部屋を出た。

 ディオルはふぅと肺から息を押し出すと椅子に沈み込んだ。


「流石1stです……」


 竜真から確認の合間に飛んできた眼光はディオルの心の内を曝け出そうとするかのようだった。温くなってしまったお茶を喉に流し込んだ。


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