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1stのリウマ  作者: 真咲静
住処は確保してあります。
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89.指導

 竜真は三人が寝たのを確認してから夜更けのアリアへとやってきた。

 何やら悄然した様子の店主に常連客はどう声をかけていいか分からない様子だ。魂というか生気を吸い取られてしまったかのようなヨルを竜真は少しやり過ぎただろうかと思いやるが、やり過ぎたのはシェナビアである。


「ありゃー男を辞めたくなるわ」とぽつり呟くヨルを竜真はどうやって立ち上がらせるかと思案する。――シェナビアったら何したらこんなんなるのさ。

 シェナビアを何故ヨルが断固拒否するのかを知りたかった竜真のいたずらはヨルに大ダメージ与えたらしい。

 仕方なく竜真は店を手伝いながら閉店までヨルを観察した。

 やがて客が居なくなったのを見計らって竜真が声をかけた。


「師匠、少しお願いしたいことがあるのですが……」


「おー」


 あまりに気の抜けた返事に竜真はナイフを取り出すとおむもろにヨルに投げつけた。


「うわっ!」


 派手な音を立てて壁に刺さるそれに反応してヨルは覚醒したようだ。


「まだ寝ぼけているのかと思いまして」


「……親切な起こし方だな」


「で、お願いしたいことがあるのです」


「話聞けや」


「僕が相手をしてるだけでは経験的に物足りないと思いまして、あなたにバレイラの剣の相手をしてほしいんです」


 不貞腐れるヨルを無視して話を続ける竜真にヨルはため息一つで気持ちをかえた。


「今までミグやアカイにも相手をさせたのですが、まだまだ経験不足なもので」


「待て待て、あの三人が冒険者になってまだ半年経つかどうかだろ! すでにランクAならお前並みに成長してる」


「でもバレイラだけ足りないんだ……他の子達には別ルートが既にあるんだけど、バレイラはなんて言うか器用過ぎて突出しない。簡単な鍵開けが出来たり、初歩的な魔術は使えるがシンやロイには至らない」


「……なんじゃそりゃ、いやいや、あのかつあげ連中の退治の仕方とか凄かったよ? 投げの初動早すぎでしょ! しかもあの金潰し! 俺見てて自分のに手を当てたよ。まじあれ潰れてなかったか」


 ヨルはその時の光景を思い出したのか顔色を悪くすると竜真は爽やかにこう答えた。


「女の子に悪さする奴のは潰しちゃえと教えていますから……それよりも師匠、見ていたのに助けなかったんですか?」


「ちょっと待て剣を抜くな!」


 竜真の手が柄を握る。ヨルは慌てて両手を前に出して振った。


「ヤバそうなら止めに入るつもりに決まってるだろ? それにお前と一緒に旅して、ランクがAだとは言えバレイラはまだ小さい女の子だ。実力がどの程度か見たかったんだよ。あれが最低限の強さだとするとお前等凄いわ」


 竜真の手が柄から離れたのを見てヨルはホッと胸を撫で下ろした。


「体術ではロイとシンはバレイラに勝てません。器用さや人当たりはシンが、魔術と賢さではロイが一番です」


 実に才能ある子ども達が集まったものだとヨルは感心する。


「ランクAまでなら比較的楽ですが、僕の目標は彼らに数字持ちになってもらうことですから」


「全員1stのパーティー目指すって? んなこと誰も成し遂げれてないぞ!」


 もやもやんと頭に想像図を描き、頭を振ってそれを払うヨルは竜真の大それた目標に驚いている。 実際に数多居る冒険者の中で今現在二名しか1stが存在しないと言うことがパーティー全員1stとか言う異常な目標だと指し示す。


「まさかそれだけで満足するもんですか。あの子達に僕が出会った。これはある種の運命かと……僕自体の役割は粗方分かりましたが、あの子達にはそれぞれにこの世界ですべきことがあるのではないかと最近思うんですよ。つまり才能がありすぎるんです。ならばその時に彼らが行き詰まらないように僕は持てる力と知識を彼らに与えようと思いまして」


「親ばかめ」


「ありがとうございます」


 ふふっと笑って竜真が言えば、しょーがねーなーとヨルが苦笑する。


「師匠がシェナビアを忘れたようで良かったですよ」


 途端にヨルが激しく落ち込んだ。シェナビアは禁句のようだ。海溝の奥まで沈み込んだヨルに竜真は首を竦める。

 「仕方ないなー」と竜真はヨルを放置して帰ることにした。扉を開けて半歩出たところで何かを思い出したらしく振り返った。


「あっ、言い忘れてました。僕達三日後から旅に出ますから、それ前にバレイラをお願いしますね」


「………………何だって!」


 ヨルが意識の海溝から戻ってきた時には既に竜真は居なくなっていた。



***



「バレイラ、踏み込みが甘い。リウマ、かなり我流で教えたろ!」


「僕のやり方だとバレイラがこれ以上伸びれないから教えを請うたんですってば」


「そりゃそうだ。リウマは力と速さと器用さが異常なだけで剣技は素人に毛が生えたようなもんだからな。っとと……軸が振れてる。バレイラ」 


 翌日、竜真、シン、ロイの三人が見守る中、早朝からバレイラはヨルにしごかれていた。ヨルは元々大国に仕えていた軍人で剣技をもってしてある程度出世したのだが、質の悪い貴族の令嬢に見初められ逃げ出して冒険者になった。 

 元々が強かった上、騎士として礼儀正しさもあり、ランクはあっという間に3rdまでになった。


「……よし。俺は店へ戻るから、バレイラ、素振り二千。シンとロイを借りるぞ」


 街中の時計塔からの金の音でヨルは指導を中断させる。


「ん。シン、ロイ、日当は高めにもらえよー」


 素振りを始めたバレイラから視線を移すことなくロイとシンに竜真が手を振る。

 シンとロイは肩を竦めながら顔を見合わせるとヨルについてその場から離れたのだった。


ヨル……女から逃げまくり

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