86.冒険にはつきものです
「ただいま」と夜更けのアリアの戸を潜れば、三人の給仕が花が開いたような笑顔で「おかえりなさい」と返事をする。ジャラハラと別れて鉱石を集めて帰ってきた竜真を出迎えたのは彼の養い子達だ。
「リウマ、おかえり。こいつら凄い使える! 一人俺にくれない?」
「寝言は寝ていても言わないほうが身のためですよ?」とナイフが一本、竜真の手の中にある。
「機転は効くし礼儀正しいし愛想いいし可愛いし」
「当たり前です。誰が育てていると思ってるんですか! 可愛いに決まってるでしょ! この子達がどれだけ努力しているか僕が知ってます」
素晴らしき竜真の親バカ発言にシンとロイは照れて薄ら笑いを浮かべて竜真から視線を外す。バレイラは絶賛感激中だ。
「うへ! 親バカだねぇー」
「ところでお昼の混雑は済んだようですが、この子達を引き上げてもいいですか?」
「おう。構わないぞ」
温度差ある師弟の会話に何を突っ込むことなく三人は竜真の傍に近寄ってきた。
「あのおっさんからの給料はふんだくっていいからね」等と半笑いに言っている竜真に「俺はけちじゃねぇよ」とヨルが食って掛かれば竜真が過去の話を持ち出す。
「誰でしたか?屋台の串肉を僕に盗られて隣町まで追い掛け回していたのは」
「当り前だ! 食いもんの恨みつーのは恐ろしいに決まってんだろ!」
大人気ないのはどちらだろうか?
戯れあう二人をとりあえずスルーすることに決めた三人はヨルの前に手を出した。
曰く「給料下さい」と。三人の報酬は日雇い扱いだ。
「ここシュミカには探険するにはちょうどいい洞窟が近場にある。駆除しても駆除しても何故かいつも魔物が出てくる不思議な洞窟でランク的にはDからAぐらいの魔物が居る。腕試しがてら遊びに行こうか?」
夜更けのアリアを出た四人。竜真の家に戻りがてら、竜真がこの提案をすると三人が嬉しそうに返事をし翌朝は行儀作法の練習せずに洞窟へと行くことが決定したのだった。
***
「洞窟や遺跡に入った時にはマッピングするのが大事だよ。僕はこの洞窟に何度も潜っているから何がどうとかは知り尽くしているけど、君らは初めてだから……技能的には盗賊のスキルだけど、全員で練習してみようか?マッピングと言っても書くわけじゃなく、頭の中に作り上げていくんだ。ざっくりとでもいいから歩いた所を頭に描く。歩いた歩数やかかった時間、距離なんかも補足情報として入れるとなおいい。マッピングが混乱してきたら手を挙げて教えてね。さぁ入るよ」
翌日の朝、三人を前に意気揚々と洞窟に入るための注意事項を述べた竜真。三人は初めての経験に少し戸惑い気味だ。
「まずはシン、バレイラ、ロイの順番かな。盗賊、剣士、魔術士のパーティーならオーソドックスな列の組み方だ。シンはこの一週間でアカイから少しは教わったんだろ?」
「は、はい」
「緊張してるね。ほら、三人ともその場でジャンプを十回ぐらいして首や手首を回してごらん。落ち着いて。僕が補佐するんだから安心すればいい」
背後を竜真が守ってくれるという絶対的安心感をシンは胸に抱き、洞窟内に足を踏み入れたのだった。三人が前向きになったことに竜真がこっそりほくそ笑んでいたことを三人は気付かなかった。
RPGでは王道の洞窟探検です。