85.ご褒美
シュミカに着いてから一週間目。午前中にひたすら行儀作法の練習をしている三人は午後は思い思いに過ごしている。今もそんな午後の一時。竜真はこの日シュミカかから一人離れて以前鍛冶屋の息子と来た湖の近く、竜の巣に来ていた。
「……ジャラハラおいで」
その一言だけで竜真の脇に一人の男が立つ。以前のように呪文はを唱えなくても召喚も可能だ。
「我が麗しの主……主?気配が……我らの王のような」
「君らの王?もしかしてマリシュテン?」
ジャラハラは竜真を見て目を見張る。
「僕はこの世界のただの人間から逸脱した存在になったからね。僕はヤシャルの息子なんだよ」
その告白にジャラハラは竜族の最高礼をもってかしずく。
「我ら竜族は王達の僕。主よ、我らが里にお出でくださいませんか?人間どもに王を封じられてより王より預けられた品をお返しすること叶いません」
「それなら大丈夫だ。僕が封印を全部解いてきたから神殿への行き来はできる。行っておいで」
「主、ありがとうございます」
そのまま反転してどこかに行きそうになるジャラハラを竜真が止める。今回の呼び出しの目的はジャラハラに褒美を与えることだった。ロドよりこっち、一人になる機会があっても面倒だと今までジャラハラへ褒美を与えていなかった。
「今回の呼び出しの目的はご褒美だよ」
「そんな褒美などと主君筋に当たる方から」と一歩退こうとして竜真に捕まえられる。
「だけど僕らはそういう契約だ。ほら手を出して」と竜真は手に五十センチメートル級の巨大な赤い魔力玉を作り上げるとジャラハラに押しつけた。
「……主……前に増して何と甘美か……」
竜真も以前と比べると巨大な魔力玉を作り上げても体の辛さがなくなったことに驚いている。以前は練り上げるのにも時間と体力がかかり面倒なことだったのだ。魔力玉を取り込んでいくジャラハラは恍惚と表情を緩めていた。
「マリシュテン様のお力も感じます……衰退してきた竜族にとってマリシュテン様のお力は甘露。ありがとうございます」
竜真は自身の魔力にマリシュテンの力を少し添えていたことにジャラハラは取り込み気付く。
「つきましてはしばらくお側を離れてもよろしいでしょうか?」
「なぜ?」
「この三千年の間にマリシュテン様のお力が弱まり竜族の弱体化と少子化が進んでおります。こうして新たにマリシュテン様のお力を授かりましたので子をなしてきたいのです。勿論お呼びとあらば直ぐに馳せ参じましょう」
竜真はそれを聞くとふと考えて自分の手にマリシュテンの力を抽出する。それを鞄から魔術の媒体になる水晶に詰め込んで袋にしまいジャラハラに渡した。
「マリシュテンの力を水晶に詰めたものを渡しておくよ」
「……ありがたき幸せ。では御前を失礼いたします」とジャラハラは人の身に翼だけ生やして西へと飛び去った。
竜真はジャラハラを見送ってから、ここまで来たついでに魔術の媒体である鉱石を拾い集めようと辺りを見渡したのだった。
竜真とジャラハラの間にびーえるな関係ないですからね?二十話近辺でのフラグ回収です。




