80.紅砂
「バレイラちゃ〜ん」
「アカイうざいです」
バレイラから鞭が放たれ、アカイの額にでこぴん並みの強さで当たる。ピンポイントで見事なコントロールにアカイはギャンと悲鳴を上げて蹲る。
「そうそう。バレイラ上手だよ」
竜真が自分の持つ技術をバレイラに教え込んでいた。バレイラだけに教えているわけではなく、もちろんシンやロイにも教えているのだが、バレイラには特に熱心に教えていた。
「いいかいバレイラ。自分に近寄ってきた変態は念入りに撃退しようね」
「アカイは変態?」
「バレイラにとっては変態だからボコボコにするんだよ」
「なんてこと教えているんですかぁ〜リウマ様ぁ〜」
バレイラが繰り広げる鞭による連続攻撃をひらひらと舞うように逃げながら竜真を非難するアカイにロイとシンからナイフが投げられる。
「お前の回避力はギリギリ人間の範囲ってぐらいには高いから、この子らを鍛えるために役立てようかと思ってね」
リユカ帝国を離れる前に三人を(アカイは用を言い付けて引き離していた)連れてヤシャルの神殿へ連れていって三人を紹介した竜真はそこでソーラー充電器と大容量の記録媒体、それから多機能電子辞書と予備の電池をゲットした。竜真は父に食料以外でたまに必要そうなものをこちらへ召喚するためのアイテムボックスに入れてくれるようにとお願いした。
今居るのはリユカ帝国とロベル王国の国境を越えて一日のんびりと歩いた場所だった。
休憩がてら訓練中だ。
竜真の用事を果たしたアカイはロベルとの国境に近いアラナビタと言う村に滞在して一行が来るのを待っていた。村で合流も竜真からの指示であったのだが、村にある唯一の宿の入り口で行ったり来たりを繰り返し、竜真を見た瞬間に架空の尻尾を最速で振っているような喜びにアカイは犬のようだとロイとシンに認定された。
「リウマさん、アオイさんとキイロイさんはどんな人ですか?」
シンに聞かれ、竜真はアカイを見る。
「アオイはレアンナでキイロイはゴージャだな。」
レアンナとゴージャはともにランクAの魔物である。レアンナは煌めく青鱗を持つ蛇のような魔物、ゴージャは黄金の美しい毛並みを持つ熊のような魔物。
「アカイはディーガだったかな」
竜真の半笑いにシン、ロイ、バレイラは首を傾げた。
ディーガは通称狼王の名を持つ巨狼で満月になると血のように赤い目になる。やはりランクAの魔物だ。
カイ、アオイ、キイロイは彼らが一般人に使わせる偽名で、ディーガ、レアンナ、ゴージャとは盗賊ギルド内で使われている名だった。現在、本名は竜真が命令を下す時だけに使われている。
紅砂のディーガと言えば、間延びした口調が特徴的だが、残虐性はギルドでもぴか一。一度暴走を始めたら満月のディーガのように血に飢え、とめられるのは今のところ三人だけだ。紅砂のレアンナと言えば、漏れる色気と情報網はギルドでも有数。紅砂のゴージャと言えば、その人となりの良さそうな外見に反する腹黒さに計略と交渉のプロ。
「組織はギルドでもかなり実力あるけど、僕の主義で基本的によい子が集まってるんだよね」
「お仕置きはギルドのどこよりも厳しいからねぇ〜。紅砂の会則破るとぉ〜、リウマ様によるすんげぇお仕置きぃ〜」
「会則……ですか?」
攻撃をひょいひょい避けるアカイにバレイラの息が切れてきた。
「ん、他の組にはあまりないかもね。僕のところはね、暗殺、強盗、強姦、弱者を狙う詐欺は原則禁止で遺跡の調査等の表の仕事は推奨。ただし紅砂に入れるのは冒険者ギルドのランクB、魔術師ギルドで導師並みの実力があることが条件になっている」
街道沿いの岩の上に寝そべりあくびをしてアカイに飛び掛かる三人の様子を眺める竜真。
「そろそろ出発しようか」
「ん〜。おしまいだよぉ〜」
アカイがバレイラの鞭を絡め取り引き寄せるとバレイラの体制が崩れる。シンのナイフを投げ返し、ロイの間近に迫ると腹へとキックが決まる。
シンはナイフを避け、ロイはくの字に体を曲げたがその場にとどまる。
「ロイ、耐えたね」
岩から降りると竜真はロイの頭を撫で、シン、バレイラの頭を撫でる。
竜真に頭を撫でられた後、三人は体が軽くなったのを感じて自分の体を眺めた。
「体が解れたね。次の村に着いたら依頼を受けるよ」
後ろを振り向きまだ驚きの最中にいる三人に竜真は言った。