78.別れと旅立ち
「ニャルマーちょっといいか?」
食事会は混沌のまま終わり、各自あてがわれた部屋に散らばった。ニャルマーは一人使用人棟の自分の部屋へ向かおうとしていたが、竜真に呼び止められ導かれるまま竜真の部屋に入った。
「そこに座ってくれる?」
竜真はすでにに座っていて、ニャルマーは指示された向かいの椅子に座った。
「ちょっと大事な話だから結界を張らせてもらうよ」
そう言うと竜真は手を打った。
「単刀直入に言うとニャルマーにはパーティーを離れてもらいたい」
ニャルマーは目の前が真っ暗になって竜真を茫然と見る。
「これには理由があるんだよ。ニャルマー」
「理由ですか?まさか私がそんなに嫌なのでしょうか?」
竜真は竜真で手になり足となりパーティーに居てくれたニャルマーはウザくても嫌いではない。むしろ居ないと三人との潤滑な関係が崩れるのではと思うほど重要な人間だ。ただニャルマーがものすごく喜びそうなので、折を見てニャルマーが挫折しそうになったときにミグにでもフォローに言わせようと心に留め置きながら、ハラハラと涙を流すニャルマーをどうやって落ち着けようか悩む。
「ニャルマーにはお願いしたいことがあるんだ。僕、奈美恵さんの事情を知っていて、シグルド様、そしてミグに関わりがあり、それなりに強い人はニャルマーしか居ないんだよね」
「確かに」
ニャルマーはボソりと呟く。竜真はそれを見てニャルマーにお願いできるだろうと安心する。
「この前、僕の事情は話したんだけど、僕と奈美恵さんの関係、そしてこれから僕が何をするかを君に話すから、それを聞いてから判断して欲しい」
そう前置きしてから竜真は静かに説明を始めた。
***
「そんな説明されたら断れないじゃないですか!」
立ち上がり怒るニャルマー。内容が内容だけに断れない。この仕事はニャルマーにしかできないとも分かってしまった。
「リウマ様……ズルすぎます……」
ニャルマーは力なく椅子に崩れた。竜真は確かにイエス以外言えないように話を持っていったことを自覚しているだけにズルいと言われて苦笑いするしかなかった。
「うん。ズルいね。ニャルマーの優しさに付け込んでいる自覚があるよ。でもニャルマー、断って付いてきても良いんだ。僕のギルドの部下をそこに当ててもいいんだから。シグルド様にも話は通してあるからニャルマーの好きにしていい。一晩考えておいで」
そう言うと竜真は手を打って結界を解いた。
「……わかりました。失礼します」
ニャルマーは竜真を見れずに席を離れるとドアの前まで歩き、取っ手に手をかけてあけた。
「リウマ様……わたくしは……いえ、ゆっくりとお休みくださいませ」
「おやすみニャルマー。選択は君の手の中だよ」
ゆっくりとドアが閉まり、ニャルマーの背が消えるのを竜真は見守った。
***
翌朝、シグルドの館の入り口には旅支度をした竜真、シン、ロイ、バレイラ、そして夕べの食事会に乱入したチャラい竜真の部下がいた。
「リウマ様、あなたのお願いを私が聞かない訳がないじゃないですか」
半分泣いて半分笑顔。そんな表情で朝一に竜真の前に立ったニャルマーは執事服を来ていてそう言った。
「ありがとう」
まだ覆面を付けていなかった竜真は会心の笑みでニャルマーの肩に手をやり揺すった。
結果……ニャルマーは竜真の笑みを見たことによってその場で気絶したのだった。
「竜真、ニャルマーを起こしてやらなくて良かったのか?」
「そうです。リウマ殿。ニャルマーが寝ているうちに行ってしまうなんて酷いのではないですか?」
ミグとシグルドに言われた竜真はクスっと笑う。
「ニャルマーとはさようならを言いたくないからいいんだよ。ミグ、奈美恵さんのことよろしくね」
竜真が腕を出すとミグも答えて腕を絡めて手をがっちりと握った。
「あぁ。竜真、それにシン、ロイ、バレイラ。気を付けて元気出な」
竜真から手を離すとミグは声をかけてくれた順番に三人の子ども達の頭をガシガシと撫でていく。
「はい。ミグさんも元気で。ニャルマーさんにも元気でって」
「リーシャさんとお幸せにね」
「ありがとうロイ」
「ミ……さん、あーと」
「バレイラ。声が出て良かった。君の幸せを祈っている」
「さてお別れ済んだかな。ニャルマーに見つかる前に出発だ」
ミグが三人と別れの挨拶をし終えたのを確認して竜真は出発の合図を出す。
そして四人は新たな旅路に新たな一名を加えて旅立ったのであった。
***
「リウマさん、僕達もニャルマーさんとお別れしたかったです」
シンが三人を代表して意見すると竜真はにやりと笑い答えた。
「ニャルマーにならしばらくしたら会える。だから、さようならは言わないのさ」
「それは言い訳でリウマ様はニャルマーさんの号泣が実はすんげぇ苦手ぇ〜」
チャラい竜真の部下が竜真をおちょくる。
「ところでリウマさん。この人誰?」
ロイが指を差すと男は自分を差しニィ〜と笑う。
「リウマ様の盗賊ギルドの中での側近の一人でぇ〜、『アカイ』って言うのぉ〜。因みに側近はオレとぉ、『アオイ』と『キイロイ』って三人ねぇ〜。本名は違うけど、『アカイ』って読んでねぇ〜」
竜真はアカイの話し方に頭痛いと頭に手をやる。
「アカイ、よーしくね」
「……うわぁ〜なにこのかわいーいきものぉ〜」
アカイはそう言ってバレイラに抱きついたのだった。