66.ランク戦(3)
生るぬい…生ぬるい戦闘描写あり
「試合始まっちゃってんのに、何で僕は足止め食らってんだろ…予想通りでやんなっちゃう」
竜真はとある村で暫く放置されていただろう数字持ちクエストを受けていたのだが、その敵は思いもよらぬ者だった。
「結局、対人型とか嫌だ、暇潰しで人間で遊ぶなよ。面倒くさい」
「我相手に無駄口を良くきけたもんだ」
「余裕だからに決まってるでしょ」
竜真の剣が一線を切る。
人型は竜真の様子に楽しく戦えそうだとニィっと笑った。
***
「全部で二十四チームによる勝ち抜き戦の後、残りの三チームでの総当たり戦になったようですよ」
「意外に多いよな」
「少ない方だと思うよ」
《六分の一ぐらいかなぁ?》
「それだけランク上に挑戦する奴らも多かったんだろうな。早くランクアップする数少ないチャンスでもあるんだ…どうだ?ここのご飯は」
「「美味しい」」
《おいしい》
「昨日に引き続き、おいしゅうございます」
戦いが終われば腹ごしらえがチームの方針。
すでにロイとバレイラでシン、ニャルマー、ミグの二倍程を腹に収めていた。
「ご飯の後は型と組み手と柔軟して身体を解しましょうね。最後は瞑想で今日はおしまいにしますから。明日は朝イチから試合になりましたので、早く眠ること。いいですね?」
「「はい」」
《はい》
ニャルマーが中心になり、パーティーは順調に成長しているのをミグは微笑ましく見ている。
――竜真の思い通りだな。
ミグは食後のお茶を啜りつつ、ビシャヌラの神殿からの帰り道に今後を話し合った時の竜真を思い返していた。
「ミグ、きっと僕はギルド戦に一緒に居られない」
「なぜ?」
「僕の予感はよく当たるんだよ。お仕事が来そうだ。だから、ここからは僕からの依頼だ。大会が終わるまで、彼らの引率をお願いしたい」
竜真はミグを真剣に見ている。
ミグはゆっくり頷いた。
「ただし、大まかなところだけをお願いしたい。細かいあれこれはニャルマーを中心にさせて、彼らに考えさせる」
「…親バカだな」
「ふふ、当たり前でしょ?大会が終わるまでに合流できなかった場合は都の見物にでも時間を充てて」
「そんなにかかるのか?」
「わからない時には保険をかけないとね?」
そう言って竜真は苦笑していたが、実際にその通りになっている。
「ミグさん、そろそろ行きたいのですが」
「あぁ、悪い。少し思い出していた。ところで、バレイラとロイは思う存分に食べたのか?」
ミグが話を変えるように二人を見れば、そこには一人につき、ミグの三倍量の皿が積み重なっていた。
「八分目にしておかないと、動けなくなりますから」
「それで八分目か」
《まだ食べれるけど、おしまいにしておくの》
ミグは苦笑して視線を移すと、シンはうっかり彼らに釣られてしまったようで、久しぶりに気持ち悪そうにしている。シンの前の皿を見ると、いつもよりかなり多い。
初めての試合での興奮が見誤らせたのだろう。
「シン…修行不足だな」
「無理…」
シンは机に俯せた。
***
「ニャルマーさんのくじ運凄いね」
「最初に戦っていれば、後は気楽だもんな」
二十四組を三分にし、三組になるまでの勝ち抜き戦。各組を勝ち抜いたもの達が次に総当たり戦をして勝ち数二のパーティーが優勝と言う形式になったようだ。
予選後、残ったものはクジを引き、ニャルマーは一のクジを引いた。つまりは一回戦の一番目の試合となる。
「《パダの狼》舞台へ」
舞台に上がったのは、ニャルマー達の予選に居たパーティーではない見知らぬ五人組の冒険者だった。
「はい。《1stを追う者》舞台へ」
このパーティー名を考え付いたのは意外にもシンだった。
実にニャルマーが考えそうな名であるのだが、事実、自分達は竜真に憧れ、いずれは竜真の様に第一線で戦う1stになりたいのだ。
1stを追う者。
シンはそうでありたいとニャルマー、ロイ、バレイラに告げたところ、この名に決まったのだった。
その名を背負い、四人は舞台に上がった。
「パダの狼、1stを追う者は四人組なので、代表四名を選出しなさい」
五人組の男達は、ギルドの審判員に言われた通りに話し合った。
***
パダの狼と言うことから、試合を見ていたミグはゴルゴダ国出身なのだと気が付く。
「あそこ出身なら、強い魔術使いが居るな…」
一人呟いていると、ミグは話し掛けられた。
「ミグじゃないか!暇か?試合見てるぐらいなら暇だよな!そーかそーか暇か!ならばカナガスタ様が仕事をやろう」
「待て、話を聞け。俺は依頼を引き受け中だ。お前に付き合うのはランク戦が終わってからだ」
ミグが反論する隙を与えずに仕事を押しつけようとしたのはカナガスタと言うリユカ帝国の宰相補佐官だった。
赤み掛かった茶色の髪を一括りにした外見的には硬派なのに中身は軟派でミグにとって疲れる相手である。
宰相オルレイア・ヴァルフレイアは石を通り越した岩人間との評判だが、カナガスタは軟派過ぎて正体がわからないと評判だった。
「何、あの子達になんかあんの?」
「あぁ、特別さ。俺の友人の子ども達だからな」
ミグの表情に何を見たのか、カナガスタはニヤリとする。
「何々、友人の子ども達とか言って、本当はミグの隠し子じゃね?」
「馬鹿たれ」
ミグは目下、始まった試合を竜真の代わりに一挙手一投足見逃さないようにカナガスタを無視したのだった。
***
「始め」
「はい」
「バレイラ、剣で行きましょうか。シンもね。ロイ、相手に沈黙、予選と同じ付加を身体に、全員の武器に風をエンチャント…ロイの魔術が終わり次第、突っ込みます。」
ニャルマーの指示に三人が頷くとやはり、相手チームにも魔術師が居たのか、同じように付加を付けているようだが、ロイの魔術の効果で付加が与えられない。結果、ロイの付加が先に終わり、四人がパダの狼に突っ込んだ。
態勢を立て直す暇を与えず、まず魔術師をバレイラが昏倒させると、シンがショートソードの男を倒した。
ロイが槍を杖術の要領で使い、相手を倒すと頭を槍の持ち手でスコーンと殴る。ロイの相手は気絶した。
ニャルマーが当たったのはパダの狼唯一のランクA、一番強かった。剣では勝てないとニャルマーは剣を捨てた。
その行動に相手が笑った瞬間、ニャルマーは小型のナイフを相手の手に投げつけた。ナイフは相手の剣を握る手に突き刺さる。
相手の男ははっとして手に突き刺さったナイフからニャルマーに視線を移すと、ニャルマーが上段蹴りの動作に移っていた。
次瞬間、男の頭部に蹴りが炸裂した。
「パダの狼、戦闘不能。1stを追う者の勝利」
一回戦、四人は無事に勝ち進んだ。
***
「だから余裕だと言ったでしょうに」
竜真が戦っていた人型はすでに塵と消えていた。
「でも、流石に疲れたかも。…皆は頑張ってるかな…」
激しい戦いの爪痕が残るとある山の頂きで、竜真は仰向けに寝そべり、空までの近さを堪能した。
エンチャント…魔法をかける
テーブルカードゲーム用語
パダに反応した人は流石に少ないだろうなぁ