64.ランク戦(1)
生ぬるい闘い描写あり
それはランクAの第五試合だった。十チーム、約七十人が舞台の上で犇めいていた。
これは今までの四試合もさほど変わりない状況だったのだが、試合状況もその四試合はランクが拮抗していたからか、第五試合程の見所もなく、乱戦からいかに自分のチームが一人生き残らせるかと言った内容だった。
しかし、第五試合は最初から違った。
まずは十代前半らしき少年、少女が居たのだ。
予選から試合を見に来ている観客も、その舞台の上に居る彼らも首をかしげていた。
ランクの低いメンバーを上げるために来ているため、幼い彼らを守るように展開していくのだなと観客は思う。舞台の上で少女と少年の傍に居る者は、彼らが一人で居ることを疑問に思っていた。
だが、それも試合開始の合図が始まる前までだった。
開始合図とともに舞台の四ヶ所で人が弾けた。
歓声が轟く。
それは誰もが予期していなかった展開なのだった。
***
「作戦を考えましょうか?」
「ハイハイ!個人戦にしたい」
受付後、ご飯を食べて、まったりとした空気の中、ニャルマーが口火を切った。
それにシンが飛び付いた。
「他には?」
ニャルマーはスルーした。
「皆でバラバラになって誰が一番多く倒したか、競争しませんか?」
しかし、そう問屋も卸さない。ロイも個人戦でヤル気満々である。
「他には?」
《私が一番》
三人の意気込みは十二分あるようだ。ニャルマーは長いため息と沈黙の後、確認を問う。
「………わかりました。しかし、全員が舞台の上で一回戦を終えれますか?」
「当たり前」
「負けるつもりはないです」
《私が一番》
ニャルマーが頭を抱えていると、そこまで黙っていたミグが聞く。
「ランクAの実力を知っているのか?」
「ミグさんより弱いのは確かだよ」
確かに俺よりは弱いが…とミグも頭を抱えた。
「シン、ロイ、バレイラ、俺としてはまとまった方がいいと思う。ランクAまで到達できたものは、ベテランが多いからな。しかも今回はBの奴らもお前ら同様に入ってきているはずだ。油断はけしてするな」
《じゃあ、意表をつくのは?》
「作戦があるのか?」
《最初は皆でバラバラ、それから敵をやっつけながら、真ん中に集まる。そしたら、いつもみたいにニャルマーさんの指示での団体戦ってどう?》
「…確かに、特にロイとバレイラがそんな動きを見せたら意表をつけるかもしれん…他には?」
やる気に満ちた目を見回して、ミグは満足そうに頷いた。
「なら、初戦だ。負けるなよ。」
「「「《はい》」」」
***
舞台の四分の一に突如水がかかる。
闘い開始直後なので、まさに寝耳に水だろう。更に電撃が走ったことにより、舞台右上四分の一に居た選手の内、約九割が気絶した。
そこから水色の小柄な少年が舞台中央に向かう。
それは少女の周りで突如起こった。
一人目二人目と戦闘不能に陥り、三人目四人目と大の男達が派手に吹っ飛ばされ、五人目六人目は肩肘手首の関節が外れ地べたで悶絶している。
そして赤が印象的な少女はその場から消えた。
一見黒に見える深い緑の服を着た、貴族の子弟のような身なりの良さの十代半ば程の少年が居た。
戦闘開始直後、少年の左右に居た男達が舞台に沈んでいた。
手刀とショートソードの柄を首に落としたらしい。
そのまま前へ突っ込み、魔術師の腹へ蹴りが入ると魔術師は舞台に崩れた。
その魔術師の仲間が大剣を少年目がけて振りかぶっていると少年は態勢を低くし、大剣を持った男の足を払い、腹に踵を落とし気絶させる。
若い少年らしい柔軟さで周りを翻弄していたが、少年は舞台中央に向かい走りだした。
少年に注意していた周りは呆気にとられていた。
一人の男が居た。
周りはその異様な出で立ちに、憂いの含まれた色気ある立ち振舞いをする優男に苛立ちを感じていた。
「なぜ私だけピンクだったのでしょうか…」
優男は薄紅色の服を着ていた。
一見なよっと見えるがイケメンなだけに周囲の殺気は増している
試合開始直後、周りの振りかぶられた剣が一斉に男に振り下ろされた。
次の瞬間、剣を振り下ろされた男達は悲鳴をあげた。
男達の手にはナイフが刺さっている。
優男はと言うと、振り下ろされた剣の中心に立っていた。
「私も大人である手前負けれませんからね」
回し蹴りに裏拳にと男達が落ちていく…が、周りの殺気は異様に高まる。
「イケメン許すまじ!」
「イケメンなんて沢山いるじゃないですか!」
「お前のその服が嫌味なんだよ!」
優男は舞台中央に向け逃げ出した…
あれ?ロイ君が竜真さんに見えてきました