62.コーディネート
ロイ君の飲酒シーンあり。
ファンタジーです。日本でもなければ実在しない国のお話ですよ。
「ところでリウマさんはいつ帰ってくるんですか?」
バレイラ、シン、ロイが竜真から接近戦の一つのやり方として教わった合気道の基本型と組み手、空手の型の練習を終え、ミグが待つ夕食の場へ向かう。
食卓につき、食事が始まり、シンはミグに聞いた。竜真が居なくなった翌日、二日後には都に向けて出立する予定だ。
「そのうち帰ってくるんじゃないか?とりあえず、竜真帰ってこようと来なかろうと都に行かなけれエントリー出来なくなるから」
ミグがミモー特製ひらっひらエプロンをしていようと誰一人突っ込むこともなく朝食はあっさりと過ぎていく。
《ミモーちゃんのエプロン、やっぱり可愛いね》
いや、一人気にしている人物が居たようだ。
ミモーに朝から全身コーディネートされているバレイラは毎食変わるミグのエプロンを気にしていた。
一緒に食事をしていたミモーがミグに聞いた。
「ミグおじさま。バレイラさんの衣装はどうかしら?本番前までに動きやすくて可愛らしい服を作りたいの」
「この服では防具は付けれないだろ?」
「父様に頼んで胸当ては一体型になっているわ。暗器使いであるバレイラさんだからこその袖のひらひらだし、腰回りも薄地の帷子を織りこんであるから、結構丈夫なの」
「重さは大丈夫なのか?」
胸当てが一体型で帷子が折り込まれているとなると、重いのではないかとミグが尋ねる。
《錬武を通しでしても平気だよ。ただ、このスカートだと蹴りにくいの。》
彼ら四人の訓練は厳しいものだ。それに耐えうるなら、大丈夫なのだろうが、バレイラは体術なら関節技と蹴りを得意としているため、蹴りがやりにくいのは大問題だ。
「………なら前に使った竜真の意匠で…………こんなのはどうだ?」
以前、竜真がデザインした物を見せれば、マモーミモー、そしてダイオンが目を輝かせる。
「なるほどな。こうすれば、裾に広がりが出来るから、足技が出しやすいのか、足はズボン…よりも形が出やすそうだが、品は悪くない。スカートの中は見えないな」
「タックをとると竜真は言っていたな。ただ、袖が微妙にバランスが悪い気がするから…こうして上着にしたらどうだ?いや、むしろ…」
ミグがデザインを書き終え渡せばリーリーの店員達の目が光る。
「ニャルマーさんにロイさん。シンさんもバレイラさんと似た意匠の色違いになるわけですね!………出立前までに仕上げます」
マモーミモーはそれから全速でご飯を食べ、ダイオンを急かし、リーリーへと走り去っていった。
「俺らがデザインした意匠を着た新米冒険者のギルド戦か…目立つな」
「………」
「ニャルマー、言いたいことがありそうだな」
バレイラとお揃いの意匠と聞いて、ニャルマー達の視線がミグに集中する。
きっと初日のことが根にあるのだろうと思うとミグは吹き出さずにはいられなかった。
「大丈夫。ちゃんと男物だ。それぞれの得手に合わせて意匠を作ったから安心しろ」
「さっき横から見たら、とても素敵でしたよ。きっとバレイラを守る騎士のように見えるわ」
リーシャが援護したが、それを聞いてバレイラがふふっと笑っている。
「体術で言ったら一番巧いかもしれないバレイラを守る騎士か…もっと鍛練しないとな」
バレイラは持ち前の器用さで関節技が巧みで、バレイラとの組み手は注意が必要だ。
組み手と言っても型を使ってのものなのだが、本気で戦えば近距離攻撃に暗器とかなり苦戦する相手である。
「そうだな。バレイラはスカートだが、暗器が納める場所が多く、体術に応じてスカートは広がりやすく、剣も使いやすくしてある。シンはショートソードと得手の足技と盗賊用ツールを隠し持てるように変えた。ニャルマーは暗器、弓、格闘と盗賊用ツール。ロイは魔術師とばれないようなものにしてある。結局槍を持つと決めたみたいだから、まず魔術師とは思われないだろうがな。色違いで同じ服を二着と礼装になるような同じ意匠の服を一着作ってやる。これが俺からの別れの贈り物だ。まだしばらく一緒だが、直にお別れだ」
「そうでした。すっかり忘れていましたが、あなたはリウマ様と依頼関係にあるのでしたね」
妙にしんみりとした空気が流れたが、それを打ち壊す声が響いた。
「ミぃグさぁーん」
「………ロイ?ダイオン?」
「え?ロイ?飲まされてる?」
《べろんべろんだね》
「昨日の私に引き続きですね…」
ダイオンが面白がってロイに飲ませていたようだ。
それに気がつかなかった各々はそれぞれに反省していた。
「さて、今夜はお開きとしましょうか…ロイ君は私が預かるとします」
ニャルマーがロイを担ぎ上げる。
シンはニャルマーに付き添い、ロイに飲ませる水を用意しに炊事場へ行く。
バレイラはダイオンにガンガン酒を注いでいた。
それをミグが笑いながら見ている。
「ダイオン。バレイラに飲ませるなよ?」
「ミグ、お前の差し金か!バレイラにそんなこと出来ん。」
「バレイラ、へべれけにしてやれ」
バレイラが頷き、ニコニコとダイオンに注ぎ続ける。
ダイオンが杯を空けねば、竜真直伝の笑顔でごり押し、空ければ即座に注ぐ。
こうして竜真留守の日の夜は過ぎていった。
改めて、口うるさく。ロイと同じ年の頃の方はお酒なんて呑んじゃいけませんよぉ〜。
お酒は現実の日本では20歳からですからねぇ〜。