61.守護神
ブジュルム王太子ザムンダとバナハスの名将ガルメッツが一つの席に着いていた…もとい、着かされていた。
脇に立つは1stのリウマ。
覆面の奥に隠された目が笑っている。
それを囲む総勢八千の兵はその異様な光景を息を呑み、見ていることしかできなかった。
「お二方ともギルドとの契約違反で冒険者ギルドが両国から撤退するがいいか、ブジュルムがマケロ鉱山を諦めて不可侵条約を結んだ上でバナハスがブジュルムに魔石の輸出を他国よりも譲歩するのがいいか、選んでください。」
「そんな一方的な」
「一介の冒険者が」
二人が竜真の理不尽を責めようとするが、竜真のポツリ呟いた言葉、ガルメッツには「サルムのシャインちゃんは可愛いですね」、王太子には「貴方の素晴らしいコレクション…国民感情を悪化させるでしょうね」と呟いたのに顔を青くしている。
「「な、何故それを…」」
異口同音に青ざめるのを竜真は鼻で笑う。
「1stのリウマについて知らないんですか?じゃあ気にしないで下さい…情報はどこからでも入ってくるですよ」
竜真の愉快そうな様子に臍を噛む二人は国に相談すると言い出した。
「その前に冒険者達の人質及び物質の返却をヨロシクね。…これはギルドへ対する契約違反だ。これを見過ごす代わりがさっきの講和の提案ってこと、忘れないで下さいね。さて…回答は明日の昼までに」
竜真は冒険者達に着いてくるように言って、その場を離れたのだった。
***
「う〜ん…滅ぼしちゃってもいいかな?ブジュルムもバナハスも」
竜真は鞭をしならせた。
結果から言えばブジュルムとバナハスはギルドの数字持ちとは言え、十人満たない数しかいないことから口封じしてしまえと夜半に冒険者達に攻撃を仕掛けてたのだ。
「不殺で生き残ってね」
ランクAの冒険者達は竜真の付けた不殺の条件に口を引きつらせたが、それぞれに武器を取り出している。
3rd達は頷き、各々の武器を構える。
そして…竜真はいきなり巨大な水の塊を二十発程にぶっ放し、混乱状態が発生すると、水の塊が当たった辺りに次々と雷撃を飛ばす。
その後は鞭を使い、包囲していた敵兵を倒していく。
「なぁ…俺らいらなくね?」
「強すぎる…」
ランクA達の動揺を苦笑して3rd達が剣を構えなおす。
「おい。お前ら良く見ておけよ?あれが1stだ。2ndの戦いは見たことあるが本当に格違いだな…」
目の先には吹き飛ぶ人の群れ。
竜真を中心とした10メートル以内に誰一人近付けない。
それどころか弓隊は魔術で迎撃される上、魔術攻撃は完全防御されている。
「俺達も少しぐらい働かないと後で怒られそうだぞ」
「あぁ。そうだな。行くぞ」
3rd、Aランク達も包囲陣突破に駆け出したのだった。
その間も竜真は動き続ける。
紅い風となり、敵陣を翻弄し続けた。
***
目の前に片膝を付く男に竜真は命令する。
「ここにブジュルム、バナハスからの冒険者ギルドの完全撤退を宣言する。闇羽、ハイマスター連合に連絡してください。」
戦いが始まり一時間。
八千人で出来た包囲網は冒険者達を残して誰一人として起きている者は居なかった。
竜真以外の八人は汗だくに疲労で立っているのもやっとだが、竜真は精力的に動いている。鞄から通信玉を取出し、火の賢者アサムへと繋ぐ。
「通信玉………こっちだ…《アサム様、夜分申し訳ありません。リウマです。ブジュルムとバナハスから冒険者ギルドが撤退します。盗賊ギルドも動かしますので、魔術師ギルドの対応をお願いします。………いやですね。ギルド撤退はブジュルムとバナハスによる契約違反が原因ですよ。僕、基本的に最悪にはならないように機会はあげますから、契約違反と僕の善意の踏み躙りでお仕置きです。………えぇ。ハイマスター連合の命令で動いてます。………はい。では》」
通信玉をしまうと、竜真は指をパチっと鳴らす。
どこから現われたのか、竜真の足元に男が現れ片膝をつく。
「影、大首領会へ連絡。冒険者ギルドはブジュルム、バナハスから撤退した。庶民に手を出さないように。ただし期間は一週間に限る」
闇羽はハイマスターの手足。
今回はハイマスター連合と竜真の間に入り連絡役をしている。
影とは盗賊ギルドでの竜真の部下達のことだ。
今回は保険として盗賊ギルドの部下を連れてきていた。
誰一人として死ぬことなかった戦場で竜真の声が静かに通る。
これからブジュルムとバナハスはツケを払うことになる。
ツケの中に王族、貴族の血が交ざることがあるかもしれない。
***
「ちとやり過ぎではないかの?」
「まさか…せっかく見逃してやろうとしたのに僕を侮って闇討ちしようなんて思うからいけないのですよ。僕ら1stは冒険者達が自由を謳歌するための守護神。1stは国を滅ぼす。それを実証しただけです」
ハイマスター連合への報告のため、竜真はギルドの総本部に来ていた。
覆面をとり、ゆったりと椅子に座っている竜真にハイマスターの一人がからかうように問えば、当然のことと答える。
「八千対九人か」
「実質五千対一、三千対八と言ったところじゃないのか?」
「少しだけ骨が折られましたよ。時間も長かったし。それにあいつら国に僕が出した案件を持ち帰りもしなかったからには本国には多少の配慮しました。ちゃんと期間付けたんですから、いいじゃないですか。冒険者ギルドとしてはギルド撤退。僕の個人的なお仕置きは盗賊ギルドを使っての蹂躙。まぁ、魔術師ギルドは一応傍観って形で我関せずですし…まぁ、三日の後次第では国が潰れる可能性はありますが、善政を敷けていれば、潰れないでしょう。それだけの話です」
竜真が五千対一を少しだけ骨が折られましたとだけいい、にこりと笑えば、ハイマスター達はニヤニヤとして笑いあう。
「1stに逆らう云々よりも緋色のリウマに逆らってはいけないのかもしれないな」
「僕に逆らってもいいですけど、僕よりも納得できる理由を持って逆らってもらいたいですね」
竜真はにやり笑えば、会議場全体の空気が緩む。
「リウマの顔は本当に鑑賞に値する」
「あはは。ありがとうございます」
「そう言えば養子を三人迎えたらしな」
「可愛い子達ですよ。ギルドの試合に出そうと思います。Cの試合とも思いましたが、Bの試合に出してみるつもりです」
「ほぉ〜優秀らしい」
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しばらく竜真とハイマスター達の歓談は続いたが、竜真が席を辞して、この会議は終わり、ハイマスター達の一人が呟いた。
「楽しい1stがいるおかげで退屈しないですみますわ」
会議場に残っていたハイマスター達は異口同音に言う。
「史上最高の1stをこれから鑑賞していこうではないか」と…
なんか竜真さんの権力が強すぎ……
やりすぎです。