60.命令違反の理由
おちょくり:戦い=8:2ですが、軽く戦い描写ありです。
「うわぁ!」
その男は悲鳴を突如として上げた。
周りに居る人々、ブジュルムの兵士達も動揺している。
「安定感が悪いからじっとしていてくれる?」
そう楽しそうに言うのは全体を様々な赤でコーディネートした覆面の男だった。
ただし立っている場所が大問題だ。
なんとブジュルムの兵士達の総指揮しているブジュルム王太子ザムンダ王子の頭の上に立っているのだ。
「さて、ブジュルムに組している冒険者を呼び出してもらえるかな?」
その異様な光景に周囲は混乱している。
しばらくしていると、二人の男が近くまでやってきた。
「まさか…」
うち一人の男は覆面の男を見て、心当たりがあるのか、途中から速度を上げて近寄ってくる。
「はいはーい。そのまさかだよ!心当たりあんでしょーに!ちゃんと命令聞かないから僕が出張ってくる羽目なんのさ。ブロスのが良かったかもしれないけど、僕で我慢してね?」
蒼騎士の方が一国の王子として育ってきた経緯があるため、緋色のリウマよりは公平で公正だと言われている。
「さてさて、君らがギルド命令を背いた理由を………あっちの物影で教えてくれるかな?」
次の瞬間、竜真が消えた。
ただし竜真が上に乗っていた王子も一緒に…
***
「君は母親、で、君は嫁さんが人質なわけだ。やだなぁ〜ブジュルム…契約違反じゃん」
軽薄な言葉遣いだが、契約違反を唱える声はゾッとする程に冷気を含んでいる。
3rdのムサフはお決まりでブジュルムの都に住む病気の母親が捕らえられていた。
もう一人、3rdのアダは都で薬屋を営む妻を人質に取られていた。
「さて、王子様。戦に撤退令の出ている冒険者を人質とって使うのはギルドとの契約違反だ。…ブジュルムからギルドは撤退する。この意味…王子様なら分かってるよね?」
冒険者ギルドが国から消える。
つまりは流れてくる外貨が消える他、冒険者に関わる仕事をしてきた者の仕事が失われる。
さらに冒険者ギルドに仕事を妨害されなくなれば盗賊ギルドの力が増す…
国が混乱することは間違いない。
「さて…3rd諸君。1stが協力を求めたら?」
「…ご足労をおかけしました。どうぞ、思う存分にお使い下さい」
「非常時の1stは絶対です」
膝をつく二人に竜真はこれまた楽しそうに言った。
「バナハスの総大将も拉致ってくるんで、これをヨロシクね。ここから西にある両軍の間の村においでね。お先に」
これ…とは勿論ブジュルムの王子である。
3rdらはブジュルムの王子に刃を突き付けてブジュルム兵に囲まれながら竜真の指定した村を目指したのだった。
***
バナハスでは六人の冒険者が密談していた。
彼らはそれぞれが小隊長格で働いていたが、故郷も違えば、バナハスに忠誠を誓ってるわけでも、定住しているわけでもない。
共通点があるとすれば、宿に女を連れ込んで、寝ている隙にギルド証を盗まれた、ちょっと残念な人達と言うところだ。
「…俺、別件の依頼途中なんだよなぁ〜違約金発生しそうだよ」
「いや、それを言うなら俺だって…」
「なぁ、ギルドから撤退令出たからには来るよな?」
「…俺ら死ぬかもな」
「一か八かギルド証を取り戻しに行くか?やっぱダメだ、自由がないのなら生きてる実感しねぇ」
「そんなことしたら、あいつらの命もねぇ」
ボソボソと話している彼らは小隊長と言えど、戦用の兵器でしかない。
彼らが逃げ出さぬ様に、ギルド証を取り上げ、見張りを立てている。
見張りと言ってもこちらには関心もなく立っているだけだ。
ただし、見張りは彼らだけでなく彼らの小隊にもついていて、反抗すれば自分の部下も人質にされてしまう大変な厄介な目に合っていた。
誰とて自分のために命を簡単には捨てさせられない。
「ふ〜ん、ギルド証を取り上げられて、物質があるから参戦するしかないんだぁ〜…」
「だ、誰だ?」
自分達に関心のない見張りにしか囲まれていないはずなのに、いきなり真後ろから声が上がり、六人の冒険者はギョっとして戦闘態勢に入る。
それは闇から突如現れた暗い炎。
戦場で尚且つ緊張状態のランクAに気配を察知させず近寄れて、さらに覆面をした赤を纏うのはただ一人。
1stのリウマ。緋色のリウマが断罪に来たと冒険者達は悟ったのだった。
「冒険者がギルド証を取られるなんて、きっとどうしようもなく間抜けな理由だろうけど、あいつらの命って誰を人質にされてるの?」
確かに間抜けな原因だが、ギルド証を盗みだそうと思えば出来ないわけではないが、自分達が原因で何の関係のない奴が死ぬのはいただけない。
「俺らは小隊長格にされているが、反抗すれば部下にされた奴らの命をもらうと言われている」
「うわぁ〜下劣ぅ〜!ブジュルムも馬鹿たれだけど、バナハスもお馬鹿ちゃんだ。…なんせ、僕を動かしたんだから」
竜真の笑みを含んだ声にある刺と冷気で、バナハスで身動きが取れなくなっていた六人は恐怖に固まった。
「じゃあ、お馬鹿ちゃんの総大将を拉致に行くから、あそこに見えるブジュルムとバナハスの間にある村においで」
竜真がまるで街中を歩くように離れていく。
ただ常人には見えない速度ではある。優雅だが細かく蠢く手の先でしなる鞭に半径五メートル以内の全てが一瞬にして薙ぎ倒されていく。全く気配がしないため、気が付いたら倒されている兵も少なくはない。
時折聞こえる呻き声にバナハス軍は混乱に落ちた。
「無双発動ってね」
竜真はバナハスの陣を見事に真っ二つにして、尚且つ、殺さずにその兵力を八割も減らしてみせた。
こうして竜真は総大将であるバナハスの名将ガルメッツを六人から離れてからたった十分で見事に拉致してしまったのだった。
サブタイを拉致、無双、理由のどれにしようか迷いました。
不殺ですが竜真さん無双です。
そーいや、竜真さん、剣を抜かないなぁ〜
戦闘描写(?)何日ぶりだろ?
基本的にはほのぼの系旅日記を目指しています。