59.念のため
久々の一人行動…
シャロルを発ち、三日目の昼間、戦況を見た後、竜真は戦場地に一番近い村に居た。
戦場は生き物のように活発に息づく場所を変化させる。
そのため、竜真が着いた先の村人達は、いつその天災以上の人災が自分達に降り掛かるのか、息を潜め、戦々恐々としていた。
そこへやってきた覆面の竜真を村人達は自分達に何かするつもりではないかと怯えて戸内に潜り込む。
「…仕方ないか…でも…冒険者ギルドから来ました。村の代表者はいらっしゃいませんか?」
竜真はため息とともに村人らの様子にぽつり呟くと、思い切り息を吸い、声を大きくし、家に籠もった村人らに聞こえるように叫んだ。
しばらく待っていると初老の男性と野良仕事で鍛えただろう体格の良い若者が来た。
「1stのリウマです。冒険者ギルドハイマスター連合から、この村の村長に協力を請い、また、周辺の村に戦火を飛ばすなと命令を受けております。朝、戦場に近い町や村を見てきましたが、この村に来る確率が一番高いようです」
竜真の説明に初老の男性は頭を軽く横に振る。
「わしらはこの村から離れん。離れたところで生きてはいけんのじゃよ」
「………早くて今夜、バナハスがこちらに来ます。明け方にはブジュルムがこちらに来る。その前に戦闘を止めてみせましょう。しかし、万一があるといけないので、村の方々の避難所を作りたいと思います。協力いただけますか?」
村人らが諦めていようと、竜真のやることは変わらない。
ハイマスター連合からは冒険者達の立ち退きが依頼だが、日本人として、戦争について学んできた人生が村人を見過ごせないのだ。
ここに来る前に立ち寄った村にはこうした避難所を作り上げてきた。
避難所位置を部外者が知ってしまえば無意味かもしれないが、それでも今回の戦については戦災を免れる可能性を少しでもあげられたら、それで良いと思っている。
竜真は有無を言わさず村長を自分の家に案内させた。
家に入ると、床板の一部を外し地面を露出させる。
「さて…村長さん。村の総人口と男女の割合を教えて下さい」
「今は戦に人手をとられとるから…四十六名、男が十三名、女が三十三名じゃよ」
「五十人ぐらいが目安か…」
竜真は地面に手を当てて、場に居る村人には聞こえないように詠唱する。
次の瞬間、深い縦穴が竜真の手のひらの下に開いた。
村人達の動揺を余所に、「まだ近づかないでくださいね。」と、注意してから竜真はその中に飛び込んだ。
村人が何も言えず、その行動を見守っていると、何度も地面が揺れ、穴から土煙が上がる。
近づくなと言われている手前、村人達は近付くことができない。
しばらくしていると、地下から声が聞こえてきた。
「ロープを垂らしてくれますか?」
村の若い男が長いロープを持ちに行き、大黒柱に括ると、ロープを穴に垂らした。
竜真は穴から出ると、その長いロープに数ヶ所に瘤を作り、再びロープを穴に戻した。
「これをロープではなく、縄梯子に変えて下さい。ここに掛ける場所を作り、そこに作った縄梯子をかけて下さい。このままだと探索にかかった場合に見つかります。それから、村長と代表者…三名程付いてきてください」
ロープに瘤を作ったのは、村人が降りやすくするためのようだ。
竜真が降りた後、村長は縄梯子作りを残る者に命じたのだった。
***
「これは…」
「大きさ的には五十名が横になって入れます。区切りもあるので、男性と女性を分けることも出来ます。」
そこには巨大な地下空洞があった。
所々に壁があり、強度を保っているようだ。
村長を含めた四人が絶句している。
また天井を見れば拳大の穴が散らばってあり、光線が下へと伸びていた。
「縄梯子が出来しだい、身を隠してください」
「………重ね重ね、ありがとうございます」
「僕の目の前でうろうろされると、気が散って戦えない。だから、隠れていてください」
竜真の業は派手なものが多く、地形的にこの場所で戦いたくとも、村人が居ると、行動に支障が出るのだ。
「ありがたがれる筋合いはないのですよ。仕事ですから。もしかすると、明日の朝にはここが焼け野原になっているかもしれないですよ」
「命さえあれば、何とかなる。あなた様のお好きなように動かれるとええ」
竜真の表情は覆面で見えずとも、その声や態度からは村人達への労りが隠れている。
村長は竜真にありがとうと礼を言ったのだった。
***
ありったけの食料を持って村人達が地下に潜った後、竜真は村を一望出来る丘の上に居た。
「全く、ギルド命令には従って欲しいよねぇ〜…まずはブジュルムの3rdからって言いたいけど…僕を動かした罪…ブジュルムとバナハス、両方に償っていただきましょうかね」
覆面の緋色の布が闇夜になびいた。
今回は土竜真でした。
さてさて竜真さんたら、村人さん達に対してツンぽいですね…なぁに考えてんだか…