58.リウマ旅立つ
「ミグ、凄いじゃないか!この人、1stのリウマだって?」
食事会にようやくたどり着いたミグをバシバシ叩く凸凹夫婦にミグはため息をつく。
「いくら物理防御魔術をかけといても無駄そうだね」
竜真は実に楽しそうだった。
ピンっと指を弾く度にミグが叩かれている部分が鈍く光っている。
「やっぱり絶対物理防御は難しいなぁ」
「………竜真、俺で遊ぶな」
ミグはすっかり脱力してしまった。
「かなり呑んだな?」
「ふふっ。美味しい料理には美味しいお酒は大人の嗜みでしょ?ね?ニャルマー」
見ればニャルマーはミグに助けを求めるように手を伸ばし、首をナマケモノ並みのゆっくりさで振っていた。
早く振ったら一発で昇天するだろう。
その背中をシンが擦り、ロイが水を差し出している。
《火酒の樽をあけたよ。》
バレイラの説明にミグは再びため息をつく。
「火酒…」
「ニャルマーなんかコップ五杯しか呑んでないのに」
「五杯はよく呑んだほうだ!」
「まだ呑める〜」
「シン、ロイ、バレイラ、竜真を止めろ!三人なら手荒なことはされん」
ニャルマーにジョッキを持たせようとしている竜真を三人に止めさせた。
空になっている樽を見てミグはゾッとする。
酒に弱いなら一口、強いと自負するものでもジョッキ三杯で昏倒する代物を一人で樽ほぼ全部呑んでも昏倒しない。
「それにしても…笑い上戸の絡み酒だったんだな」
初めて見る竜真の酔った姿にミグは呆れたのだった。
***
ニャルマーをダイオンが担ぎ、ミグの居住部分へと向かう。
居住部分は二階には外階段と繋がる玄関があり、台所、食堂や書庫、書斎があり、服屋と飯屋の事務所があり、双方が内階段で繋がっている。
三階が主寝室や客間だった。
凹凸夫婦らは別に家があるが、ミグが長期留守になるときには、たまに泊まるように客間の一つが凸凹夫婦とその家族用になっていた。
「ほら入った」
ミグが鍵を開け、まずダイオンを入れた。続いて、リーシャ、バレイラ、ロイが入り、シンが入ろうとしたときだった。
シンの後ろから玄関を覗き込もうとしていた竜真の更に後ろから声がかかる。
「1stのリウマ様ですね?」
昼間、ミグの家に来る前に寄った冒険者ギルドの受付にいた青年だった。
「ん〜?そうだよ?」
「ブジュルム王国とバナハス王国の間で開戦しました。ギルドからの撤退要望にも関わらず、3rdがブジュルムで二名。ランクAが六人バナハスに組していることが判明しました」
サナラン半島でマケロ鉱山を巡るバナハス王国とブジュルム王国の戦いは最悪の道を辿ったようだ。
「お仕置きに行ってほしい〜?」
竜真の目が怪しく光る。
「ギルドの規定により、ギルド命令無視への制裁をギルドハイマスター連合より通達いたします。」
青年は一礼すると階段を降りていく。竜真は肩を落とした。
「ミグん家入りたかったけど、ハイマスター達の通達かぁ〜…ミグ、予定通り宜しくしていい〜?」
「仕方ないな」
ミグのその一言が切り替えになり、竜真が手摺りからまま一階に飛び降りる。
「後、お願い」
竜真が駆け出す。
紅い火の塊はシャロルの出口に向け、目に求まらぬ早さで闇に消えたのだった。
「ニャルマーには…明日の朝は無理だろうから明日の夜にでも話すか…シンも入りきって扉を閉めろ。話は明日になってからだ。部屋割りはバレイラは一人で使え。ロイとシンは同じ部屋で構わないな?さぁ、今夜は遅いから寝ろ」
「私は?」
心細そうにリーシャがミグを見上げているとシンがにやけ、「もちろんミグさんとこですよねぇ〜」とリーシャの背中を押し、ミグに押しつける。
そんなシンにミグがニヤリと返すと、リーシャを抱き上げた。
「当たり前だ…リーシャ、もう待ったはなしだからな」
ミグは当たり前だとシンに返し、後はリーシャの耳元で囁く。リーシャは困惑しながらミグの腕に納まっていたのだった。
***
それは紅い風だった。
人も魔も僅かなものしか認識できない。
紅い風が戦乱の地へ駆けていく。
「ギルドの命令無視の代償は…怖いよ」
風は小さく呟いたのだった。
竜真さんお宅拝見ならず…
ミグ…お預けだったんだね?