56.ミグ宅
「今日はうちに泊まっていけ」
ミグに案内されて帝都リユリタに近い街シャロルのミグの家に来ていた。
シャロルのリユリタ側の出入口に近い場所にあるその家はシャロルで二番目に大きく3階建てで、その一階部分には食堂と服屋が入っていた。
「ミグらしいね。」
竜真はその一言で終わらされたが、他の皆は寝耳に水状態だ。
何せミグ宅の一階にある食堂は帝国一うまいと評判で誰もが食べてみたいと噂する店リーシャライルの本店。
そして服屋リーリーと言う貴族のご婦人ご用達の人気店。
シン、ロイ、バレイラは何のことだか分かっていないが、その事に気が付いたのはニャルマーとリーシャである。
ちなみに竜真は知っていた。
「ミグ、ちゃんと甲斐性あるって言ってたでしょ?ミグは3rdで城に職を持って趣味からお店まで経営してるんだ。そこらの貴族なんかより財力あったりしてね。あくまでも趣味からのお店だから、お店の方は職業と思ってないみたい」
収入力は実は竜真と並ぶ程にあるミグに他者は唖然とするのみだ。
「ミグさんの料理美味しかったし、可愛らしい服を作ってたりするけど…」
「まさかですねぇ」
《ミグさん、凄いんだね》
竜真の説明の途中から、リーシャの顔色が悪くなっていく。
シンがニャルマーがバレイラが誉めて行った。
リーシャは目を見開き建物を見てから、ミグを見る。
「…どうした?リーシャ?」
次の瞬間、リーシャが反転し逃げ出した。
「「「あ」」」
周りが短く声をあげたが、リーシャ以外の一行から見たらその逃げ足は遅い。
あっと言う間に竜真に掴まった。
そこはミグが捕まえるんじゃないのかと思われそうだが、竜真はミグに目配せして動くなと指示していた。
「ミグ。リーシャさん借りるよ」
リーシャの足をすくい、あっと言う間にお姫様抱っこの形に抱き上げ、瞬時に消えた。
ミグは竜真の走り去った方を不安そうに見つめた。
***
「少しは落ち着いた?」
竜真はリーシャを座らせ、宥め、様子を見てから隣に座る。
「…弟が立派に育ってたのに驚いた?」
リーシャは顔を背けたまま、小さく座っている。
「自分とは釣り合わないと思った?」
「ミグにはもっと可愛らしく見合う彼女ができると思ってる?」
小さく震えるリーシャの背中を撫で、竜真は続けた。
「シャロルのミグ。3rdのミグ。冒険者ギルドでの二つ名はリユカの追究者。リユカ帝国の資料室の管理者。リユカ帝国の歴史について彼以上に詳しい者は居ないかもしれない。つまりは帝国にとって見過ごせない人物なんだ。だから、彼はシュミカに居を構えさせられている。
食堂と服屋については食堂と服屋はミグの昔のパーティー仲間が頭に座ってる。店に名前についてはリーシャからとったらしい。
歴代の彼女は二人。
髪と瞳はリーシャと同じ色。
結局振られていて、今は完全なる独り身…
えっとぉ〜他には…そうだそうだ。マイヤー侯の次女、エバンゼリン・マイヤー嬢に口説かれてるらしいが、眼中になし…」
竜真がいきなり始めたミグの経歴説明にリーシャは竜真を見つめる。
竜真が何を考えているのか分からなかった。
「女の子って地位や財力ある男が溺愛するとなると、逃げるのが一般的なんだよね。ペラペラ喋ってきたけど、つまり、何が言いたいかと言われたら、ミグはイイ男だから愛してくれているままに愛されなさいってこと。人間、言いたくない過去、知られたくない過去なんて、ざらにあるんだ。特にリーシャは選ぶ道なく春を売っていた。でもそこから助けだしたのは誰?僕でしょ?その場にミグも居た。でもミグの想いは変わらなかった。リーシャと言う人間が好き。身分違いなんて嘆かないでね。僕もミグも貴族でも王族でもない、しがない一般人なんだから」
こんなしがない一般人が居たら、他の者は何になるやら。
竜真のおどけた言い様にリーシャは吹き出してしまった。
「そうそう。リーシャさんは華やかに笑っているのが良く似合う。ミグなんか顔が少し良くて手が器用で背が高い好青年ってだけなんだから、何にも気にしないでミグにしっかりと抱きついてなさいって」
次の瞬間、リーシャは身体が浮いて驚きに固まっていると、ままに投げられた。
「竜真、投げるな!」
気が付くとリーシャはミグの厚い胸板に頼りがいのある腕に包まれていた。
「ミグ?」
「リーシャ…何を気にすることなく、その身一つで嫁に来てくれ。」
「…本当に私でいいの?中央にも私の客が何人も居たわよ?」
「気にするな。これからは俺とずって一緒なんだ。何か言われたら…実力を持って潰してやる。俺はリユカの歴史研究者…王家転覆並みの黒歴史も…3rdを舐めるなよ?…まぁ竜真には負けるが…」
ミグとリーシャの傍に来ていた竜真に最後の言葉を言えば、ミグしか見ていなかったリーシャは近くまで来ていた竜真にビクッとした。
「ふふっ。僕が本気で何かしたら世界がおかしくなるから」
ふふっじゃないって…
リーシャはアハハとだけ笑って済ませることにした。
***
竜真、リーシャ、ミグが戻ってきた時、そこは混沌としていた。
「…忘れていた」
ミグが遠い目をしていて、ポツリと呟いたので、竜真とリーシャが不思議そうに見つめる。
「うちの従業員は…好みが俺と似ている」
…つまりは…竜真は回れ右したが、ミグに掴まった。
「…わかった。逃げない。それにしても」
見事に可愛らしく飾られたバレイラ。
それに対になる格好で可愛らしい女の子にされてしまってるのはロイ。
若草物語のジョーのみたいだ。と、竜真が笑うのは勝ち気な少女にされてしまっているシン。
そして、しくしく泣く姿が儚さを演出してしまい、妙に色気ある美人にされてしまっているニャルマー。
「「てんちょー、オーナーがきたよぉ〜」」
同じ意匠で対に作ってある白い服の少年と黒い服の少女が、同じ顔をして店の奥に声をかけた。
「お!ミグ、帰ったか」
ミグ以上の身長は初めてかもと、竜真は苦笑した。
てんちょーと言われた男はミグを越える長身で、アフロでちょび髭の樽の様な男だった。
「ダイオン、帰った。ところで…これは一体…」
「マモーとミモーの仕業だが…俺にも何故女装させたかは分からない。まぁ、飾りたてがいのあるやつを家の前に放置した奴が悪い」
―どんな理屈だよ…ツッコミは心の端に追いやり、リーシャを見れば、リーシャは既に着替えさせられ済みだった。
―変態の巣に来たようだ…竜真は足を一歩下げた。
瞬間に竜真の両腕に絡み付く物体どもを…竜真はミグと樽…もといダイオン目がけ投げたのだった。
マーモー!ミーモー!って分かる人いるのか?
リーシャに逃げられ、結局お宅拝見できませんでした…