54.2人で…
竜真とミグはビシャヌラの前に立った。
白金の狼の状態でお座りをして尻尾を左右に振って2人の前に居たビシャヌラは竜真の姿を見ると腹を見せた。
「…ミグ、これは何?」
「降参か撫でろか…」
「違う!ヤシャルの匂いを嗅ぐとこうなってしまうのだ」
ビシャヌラはマリシュテンに興奮し、ヤシャルには服従してしまうらしいとわかると竜真はクスクス笑った。
「依頼通り、全部の神殿に行ってきたよ」
「楽しませてもらった。そして、これが通信玉で、ここが最後だ。全部で5つが繋がっているが、ヤシャルは繋がらないかもしれないな。彼はこの世界に居ない場合がある」
ミグから人型になったビシャヌラは通信玉を受け取り、首をかしげた。
「この世界に居ない?」
「ヤシャルは異世界、リユカリルリユーラの創った世界から外れた場所で結婚して家庭を持ったんだよね。まぁ今までは1000年に1度帰ってたみたいだよ。これからはちょくちょく来るみたいだし、連絡取れるでしょ。やってみる?」
次々と驚くことが竜真の口からポンポンと飛び出てビシャヌラは目が回りそうになったが、竜真が通信玉を出したのを手の平を前に出して止めた。
「その前にいいか?ヤシャルが結婚して家庭?まさかダーリンがヤシャルの子か?」
「誰がダーリンだ!」
「そわそわする。俺を撫でろ!」
ビシャヌラは犬型…もとい狼型をとり、竜真に擦り寄る。
「なんでだ!」
撫でろ、嫌だの応酬が続き、一人暇になったミグは壁画を眺めては作業に没頭する。
そのうち疲れたか、面倒になったのか、ビシャヌラと竜真は言い争いを止め、ミグの背中を視線で追い始めたのだが、ミグは熱中しているようだった。
「ビシャヌラ、壁面の字は君が書いたの?マリシュテンは壁を日記扱いしてたけど…」
「いや、ここは元々皆で住んでいて、皆で書いた。あの辺り」
天井の隅を差し、ビシャヌラは半笑いに言った。
「ヤシャルの猥談が書いてある。女にモテるにはとか…あっちは」
別の隅をビシャヌラが差し、竜真が顔をそちらに向ける。
「マリシュテンが私の悪口を書いていった。で、そっちが、ヤシャルが書いていった料理のレシピだ。」
「…父さん」
父親が猥談を壁に書いていたことに若気の至りだろうと想像がついたが、それでもビミョーと竜真は虚ろになる。
「…帰ろうかな…今ならゆっくりナユタまで歩いても予定日の朝には着くだろうし…ビシャヌラ、僕帰るからミグが正気に戻ったら帰るように言っといてね。」
竜真はふらふらふら〜っと脱力のままに部屋から出た。
ミグがそれに気が付いたのは数時間後、竜真が担当するはずだった通信玉の使い方説明をミグがしてシャヌラに通信玉の実験を手解きした後、慌てて竜真の後を追ったのだった。
残されたビシャヌラは通信玉でなぜかマリシュテンに怒られていた。
***
「ミグ、お疲れぇ」
「竜真、何故声をかけてかないんだ。」
「あまりにも熱中してたし、僕もちょっと衝撃で一人になりたかったから」
ヤシャルの猥談はやはりいただけない竜真だった。
ともあれ、ナユタにはそろそろ着く位置まで来ていたところ、目を疑う事件が発生した。
道をふらふら歩くニャルマーを発見したと思ったら、まさかのニャルマー拉致事件が発生したのだ。
ニャルマーを連れ去ったのは、ちょっと厄介な2ndのシェナビア。
かつて竜真が数字持ちの試験をした際の試験官だった。
厄介なと付くには相応の理由が付くわけだが、その厄介に竜真が巻き込まれたことは一度もなかった。
「ニャルマーって確かに僕の熱狂的ファンじゃなかったら、ただのイケメンだもんね。」
竜真は本日二度目の虚ろな目をニャルマーが消えた方角に向けたのだった。
ヤシャルってばお茶目さんと思いつつも、マリシュテンの方にはツッコミ入れたい