53.1人で…(ニャルマーの場合)
*ニャルマーの場合
ニャルマーはナユタに居残った。
それもこれも待ち合わせ場所を離れたくないその一心である。
さっさと竜真の命令通りにランクを上げるべく、ギルドに向かった。
知る由はないが、他の3人と同じくギルドに入って、まずは掲示板の前に立った所で1人に冒険者に声をかけられた。
華やかなと言う形容詞がよく似合う茶色い髪の若い女性である。
ニャルマーは邪魔するなと眉を潜めつつも、対応した。
「あの、すいません。」
「何かご用でしょうか?」
「私と結婚してもらえませんか?」
顔を真っ赤に染めながら言った女性にニャルマーは空いた口が塞がらない。
「え………っと?もう一度言っていただけますか?」
当惑し、相手の正気を確かめつつ、ニャルマーは女性を見つめると、女性はポッと頬を赤く染め、ニャルマーを見つめ返す。
「あぁ、素敵。私と結婚してください。」
「なぜ、そうなるんですか!」
ニャルマーの背中に冷や汗が流れる。
女性は目を潤ませてニャルマーを見つめ続ける。
「あなたの子どもを産みたい…」
ニャルマーは、浮かれ、逆上せた女性の呟きが耳に入った途端、一歩ずつ後退し…そのまま脱兎のごとく逃げ出した。
その際、ニャルマーの「ご遠慮させていただきますぅ〜」と言う情けない声が響いたのは言う迄もない。
***
「撒けたでしょうか…」
ナユタから逃亡して数時間、森に林に川に山、洞窟に街中、逃げ隠れしてきたが、何故か追い付いてきた女性にニャルマーは心底うんざりしていた。
「このままではランクを上げられません。」
暮れていく日に途方にくれる。
息を潜め、気配を消し、周りに気配を配る。
そのまま、夜が来て、朝が来て、日が上り、夜が来て、朝が来た。
「ナユタに帰らなければ…ランクを上げることなく3日経ってしまいました…」
息を潜め隠れ続けたニャルマーの頬はげっそりと痩け、気を張り詰めすぎたせいか、目が虚ろになっている。
綺麗な顔が憔悴していて、憂い顔の貴公子のようで色っぽい。
彼を追い掛けている女性に見つかったら、そのまま連れ去られ既成事実まっしぐらに違いなかったが、耳に入ってきたその声に、ニャルマーは天の采配に感謝した。
「ねぇ、ミグ、あそこでよろよろとしてるのはニャルマーかなぁ?」
「多分そうだろう、やつれてるのが気になるが…」
「………リウマ様…ミグさん…助かりました。」
ニャルマーが竜真とミグの声に反応して振り向き駆け出したその時だった。
「ダーリンみっーけ!」
弾けた女の声が聞こえたと思ったら、ニャルマーの姿が掻き消えた。
「………ニャルマー居たよね?」
「居たな。」
「今の2ndの魔物使いシェナビアだったんだけど…」
「ダーリンとか言ってたな。」
「助かったって言ってたね。」
「「………ニャルマー!」」
竜真とミグはシェナビアに拉致されたニャルマーを追い掛けたのだった。
予定通りニャルマーですが…ニャルマー誘拐事件発生!
攫ったのは過去に名前のみ登場の彼女ですが…
ニャルマーの貞操はいかに?