52.1人で…(バレイラの場合)
*バレイラの場合
バレイラはナユタから東に半日走った場所に居た。
真っ直ぐにギルドに向かい、まず依頼掲示板に直行した。
そんなバレイラの様子をギルドの受付をしていた男が見ていた。
《この依頼受ける。》
バレイラは黒板に文字を書いて、それを受付の男に見せながら、選んだ依頼書を男に見せた。
「あら、お嬢ちゃん、喋れないの?」
筋肉のついた体から出るのはダミ声だが、その口調は柔らかい。
バレイラはこくんと頷いたのをみると、男はにっこりと微笑んだ。
その微笑みにバレイラの後ろからは呻く声がいくつか立つ。
「あたし、ダーラって言うの。あたし見て表情を変えなかったの久しぶりだから、サービスしちゃうわ。」
ダーラの自己紹介にギルド職員が呻く。
《私、急ぎたい。3日でランクを2つ上げます。》
「…あら、分かったわ。頑張ってちょうだい。応援するわよ。」
周りが引いてる中、ダーラは可愛らしく?笑いながら2つの大きな拳を2つに割れた顎の下に置き首を傾げた。
《ダーラ、可愛いね。》
「……バレイラちゃん!」
受付越しにも関わらずダーラによってバレイラは力一杯抱きしめられた。
「ダグ、そろそろ止め」
「…何だって?」
止めに入ったギルド職員がダーラの地を這うような低く恐ろしい声に止められて、カッチカッチに固まってしまった。
「あたしはダーラよ。ダグ…って何て言おうとしたのかしら?」
まさに固まったギルド職員は冷や汗をだらだらと流している。
「ダーラ、デルタで遊ぶな。そろそろ譲ちゃんが苦しそうだ。」
苦笑して現れたのはギルド長のベジタだ。
バレイラを抱え込み、デルタと言うギルド職員を威嚇しているダーラに注意する。
「あら、ごめんなさいね。さぁ、頑張っていってらっしゃい。可愛いお嬢さん。」
バレイラは3歩程よろけてから、高速で飛び出していった。
***
「あら、早いわね。2ランク上の依頼を日暮れ前に終わらせて帰ってくるとは思わなかったわ。…今日中にもう1件終わらせたい。凄いわ。」
バレイラの最初の依頼書を処理しているダーラはバレイラの黒板に書かれた言葉を読んで処理速度を上げる。
「次の依頼行っていいわよ。」
《ありがとう。》
素早く掲示に近寄り、依頼書を取るとバレイラは直ぐ受付に戻り、ダーラはその依頼書を処理してバレイラに渡す。
2回目の依頼にバレイラは早々に出かけた。
そして、バレイラが戻ってきたのはギルドの受付が閉められる直前だった。
何事もなかった様に涼しげな顔で現れた少女にダーラの顔が輝く。
「バレイラちゃん!お帰りなさい。」
《ただいまです。》
「待ってたわぁ〜」
バレイラが提出した依頼書の処理をダーラが手早く済ませると、ダーラはバレイラの手を見た目のごつさとは反対の繊細さでソッと掴んだ。
「バレイラちゃん、今日のお宿は?」
《野宿上等》
「い…意外とワイルド路線なのね。じゃなくて、バレイラちゃん、今夜は家へいらっしゃい。女の子1人野宿は危険よ。」
「ま、待てよ、ダグラ」
昼間、ダーラに余計な一言を言ってシメられたデルタと言う青年が再び口が滑らせシメられる。
「だから何つった?」
どすの利いた地獄の一丁目の様な声にデルタはおののく。
「…聞いてよバレイラちゃん。俺とこいつな、ずっとパーティー組んでやってきたんだわ。そろそろ体力も無くなってきたし、ギルド職員にでも転職しよかって話になったんだよね。そしたらな、こいつ…!本当はダグラスグェハっ!」
ダーラの本当の名を語ろうとした時、ダーラの力一杯のアッパーがデルタの顎を直撃する。
デルタは天井とキスをした。
《ダーラって素敵でかっこいい》
やはりどこかがズレている感が否めないバレイラだ。
***
「食べてちょうだい。」
バレイラの前に広がる大量な料理に目を輝かせていた。
ヒラヒラのレースがふんだんに使われたエプロンをしたダーラがふむふむと頷いている。
料理が魅力的なのをダーラと組んできて知っているデルタがご飯食べたさについてきていた。
デルタはエプロンを視界から外しつつ、料理に先に手を出そうとしてシバかれている。
《美味しそう》
「美味しいわよ。さぁ食べて。」
《ダーラさん、ありがとうございます。いただきます。》
そのバレイラのスルー力についついデルタがダーラに失礼なことを聞いた。
「なぁ、なんでお前、こいつに突っ込まねぇの?」
《私のいるパーティー、いろんな人居る。》
ダーラをスリー出来る人間が集まったパーティーって?とデルタは興味深そうだ。
《あまりに美少女顔過ぎて覆面じゃないと表を歩けない男の人とか、その人に心酔し過ぎて生活を捨てた男の人、毒舌な美少年にお母さんの様に気が利いてしまう男の人とその奥さん、まわりに振り回され過ぎちゃう少年と私》
「…濃い人に囲まれて」
「美少女顔過ぎて覆面じゃないと表を歩けない男の人?男の人?」
引きつるデルタとときめくダーラ、そんな2人を余所にバレイラは書き足す。
《養い親が無駄に顔がいいパーティーだって言ってた。》
「……その場合、誰が養い親?」
バレイラが書き出した中で子どもの養い親と言えるのは、お母さんの様に気が利いてしまうと言うダーラと似たり寄ったりそうなスキルを持っていそうな男とその奥さん。
奥さんと言う辺りで全うな男のようだ。
デルタは興味津々にバレイラが黒板に書いている。
《美少女顔過ぎて覆面じゃないと表を歩けない男の人》
想像外の人物が掛かれていてデルタは目を見張り、ダーラは何故かきゃあきゃあと騒ぎ立てる。
「美少女顔過ぎるってどうなの?勿論バレイラちゃんは顔を見たことあるのよね?」
《神秘的なまでに艶々しい髪、少し猫目みたいだけど、すっと通った鼻筋に色白の肌。唇は薄く色付いていて、あまりの美しさに群衆が遠巻きに見守り、押し倒そうとするもの、拝み倒そうとするもの数知れず…な25歳の成人男性》
「何?それ?美少女顔過ぎるってマジ男なわけ?」
《拝み倒されそうなら逃げ出し、襲ってくるなら性格矯正して撃退するの。強くて綺麗で可愛い格好いい人です。》
「うわぁ、想像できねぇ〜」
デルタが頭を抱えているとダーラはデルタの頭を叩いた。
「ほら、まずはバレイラちゃんにご飯食べさせてあげて。あんたが話し掛けてばっかだと、ご飯食べれないでしょ!バレイラちゃん、ご飯食べてね。腕によりをかけたんだから。」
ダーラは叩いた拳でデルタの頭をグリグリとめり込ましている
デルタは目の端に涙を浮かべてイタタタタタタタと悲鳴を上げていたのだった。
***
「もう行ってしまうの?」
号泣のダーラの大きな手をバレイラが小さな手で包む。
《Cランクになった。そろそろ待ち合わせの時間になるから、ナユタまで急ぐ。》
「ナ、ナユタですって?」
バレイラのメッセージを読んだダーラが目を見張る。
《走れば半日》
「半日?うそでしょ?あそこまで馬で半日じゃない!」
《養い親直伝の馬以上の走りできる。ダーラの涙止まった。良かった良かった。じゃね!ご飯と宿をありがとう。デルタと仲良くね!》
バレイラは手を振ると、ダーラが引き止める間もなく、全速力で走っていってしまった。
その早さにダーラはただただ唖然とするだけだった。
「デルタと仲良くねってあたし達は夫婦じゃないわよ。」
呟きと共に苦笑するとダーラはギルドの中に入った。
ダーラの悲しい気持ちはバレイラにバッサリ斬られたように爽やかになっていたのだった。
濃い…何?この濃い人…
今年最後の更新です。
不定期なお休みをいただいてしまい、すみませんでした。
さて皆様お気づきでしょう!
来年はニャルマー始まりです。
主役差し置いて(笑)
竜真さんはいつ戻るやら
皆様良いお年を