51.1人で…(ロイの場合)
*ロイの場合
ロイはナユタから西に半日走った場所にいた。
「ニャルマーさんにナユタ取られたからなぁ。まったくバレイラ譲ってあげれば良かったのに」
ニャルマーが大人気なくナユタのギルドに入り込んだのをロイが呟いたのに対してバレイラは《リウマさん命だから、優しく見守って上げよう。》と書いていた。
「バレイラは優しいね。」
そんな会話をしてからシンとバレイラと別れてきたのだった。
「ギルド…うわぁっ!」
ギルドの前で佇まいを見ていると後ろからどつかれて、ロイは壁にぶつかりそうになった。
柄が悪い3人組がロイをどかしてさっさとギルドに入っていく。
それをムッとした顔で見送って、ロイもギルドに入った。
ロイがギルドに入ると、数人の冒険者が居た。
うち、何人かはパーティーを組んでいるのだろう。
ロイは何人かの視線を感じつつもランクCの掲示板に行き、見繕った1枚依頼書を取ると、受付にすっと行く。
「君、ランクEじゃないの?」
受付の青年はロイを見て聞くが、ロイは微笑みを浮かべて青年に聞いた。
「実力がある、ないし、違約金が払えるなら、2ランク上の依頼を受けても良いとなっているはずですが。」
「…そう、分かっての行動なら止めないよ。名前は?」
「ロイです。3日だけお世話になります。」
口調は可愛らしくないが、可愛らしくほほえむ少年ことロイにバルジャンだと名乗り、受付の青年も微笑む。
「おい、ここは小僧がくるところじゃねぇ」
そこに割って入るダミ声の男、先程、ロイを押し退けた3人組の1人だ。
「自分の意志が表示できる年齢であれば入会できる。ギルドで仕事は出来ます。」
一見貴族の子弟に見えなくもないロイに冷静にいなされて、男はいきり立った。
「お前みたいなチビが何の依頼を受けるつーんだ。あ?」
「あまり時間を失いたくないので、ご用件は手短に。因縁をつけるつもりなら、別の人を相手にしてください。」
ロイが冷静であればあるほど、男の怒りのボルテージが上がるようだった。
「くそガキがぁ、可愛くねぇガキが俺はでぇきれぇだ。」
「僕は別にあなたに嫌われようが気にしませんが」
ロイの脇を剛拳が走り、棚に男の手がめり込む。
「危ないじゃないですか。」
「うるせぇ」
男の拳が再びロイに向かう。
まだ少年としか言いようがないロイが男に殴り飛ばされると周囲に緊張が走った。
しかし、その緊張が走る原因になるような音より派手な音が立ち、周囲が目を見張る。
「強さは見かけでは判断してはいけない。あなたは冒険者として勉強してこなかったのですか?」
ロイは涼しい顔して立ち、怒り狂っていた男は気を失い床に沈んでいた。
「…ロイ少年強いなぁ。」
それまで黙っていたバルジャンが暢気に手を叩いて受付で笑っている。
「カウンター外の冒険者同士のもめ事は個人裁量だからねぇ。さぁ、依頼受付再開。」
「はい。よろしくお願いします。」
何事もなかったようにしている2人を遠巻きに冒険者は呆気に取られていた。
「依頼を受けた後、僕に追い付けなかったから帰ってくるのをギルド前で待ってて、しかも結果ボコボコにされたと。」
涼しい顔した少年は倒れている3人組を見下ろしていた。
「これで実は体術は専門外で魔術が本業とか言ったら嫌がられるかなぁ?」
それを聞いた途端、男達は青い顔をして悲鳴を上げて逃げていった。
「ひどいなぁ。」とだけ呟いて、ギルドの中へ入っていく。
その日、ロイは依頼を2件こなし、1日目を終えた。
***
「でねぇ〜、エリーちゃん…」
「バルジャン?ほら、待ってるわよ。」
2日目、ロイが最初の依頼からギルドに帰ってみるとバルジャンは女性冒険者と親しそうに話をしていた。
「これを」
「ホント美少年だわぁ。」
依頼書を出したロイをまじまじと見た女性冒険者が目をぱちぱちとまばたきさせた。
「でしょ?腕っぷしも強いし、顔は可愛いし、中々でしょ?」
バルジャンは机越しにロイの頭に手をやり撫でまわす。
「バルジャンさん!」
「いや〜うちで飼ってるビナルの子どもみたいでさぁ〜、ちょ〜かぁいいんだけど、ロイみたくツンツンしちゃうのが可愛すぎて」
ビナルとは猫の様な生き物で自分の機嫌が良くなければ、どんなに慕っている主人だろうと、ツーンと外方向くが、機嫌が良ければ、甘えてくれる愛玩動物。
ロイはわしゃわしゃと髪を撫でくりまわすバルジャンを無視して、依頼書を突き出した。
くぉ〜たまんねぇ〜と言いながらもバルジャンはロイの依頼書の処理をする。
「皆はどうしてるかな…」
悶える気持ち悪いバルジャンを視界から外しつつ、ロイは遠くを見た。
***
バルジャンがあまりに悲壮な顔なので、ロイは口元を引く尽かせていた。
「俺のロイが」
「誰があんたのだ!」
ビナルのように毛を逆立ててバルジャンを拒否するロイにギルドの職員がゲラゲラ笑っている。
「濃い3日だったな。」
バルジャンの肩にギルド長の爆笑しているアーサーの手が掛かる。
「アーサーさん、お世話になりました。」
「こちらも驚いた。2ランクアップは久しぶりに見たよ。」
「Bランクまであげるつもりだったので残念です。…邪魔がなければ…」
邪魔が…のところでロイがちらりとバルジャンを見たことにバルジャンはホロリと涙を流す素振りを見せて、ロイの顔をしかめさせていた。
「君を見ていると1stのリウマを見ているようだよ。君は数字持ちになれるだけの素養がありそうだからね。楽しみにしているよ。」
「ありがとうございます。」
可愛らしく微笑み、挨拶するロイに職員、場にいた冒険者らともどもが可愛いと声を上げる。
「では待ち合わせの時間ですので、失礼します。」
「ロイ、頑張れよぉ。」
バルジャンの声を背にロイは去っていった。