50.1人で…(シンの場合)
区切りのいい話数になるとバラける気がする…
*シンの場合
シンは1人、ナユタから北に3つ程行った街にいた。
「アルダに到着だな。ギルド、ギルド…お!あったあった。」
シンはギルドの扉を潜る。
迷わずに依頼掲示板まで行くと、ランクCの依頼書を取り、受付まで向かう。
受付では赤毛の狐目の女性が待機していた。
「…あなたランクEよね?」
「3日でランクCにならないといけないんです。依頼を果たす実力がある、ないし、違約金が払えるなら格上の依頼を受けてもいいんですよね?」
受付に居た制服のお姉さんに怪訝な顔をされ、シンは苦笑気味に答えた。
「わかってるならいいけど…」
しぶしぶながら受付の女性は印を押し、依頼書をシンに戻した。
「気を付けてね。無理だと思ったら、引くのも大事よ。そうそう、私はメイレン。3日ってことはここであげるのかしら?」
「ご忠告、ありがとうございます。シンと言います。少しの間ですが、よろしくお願いします。」
「頑張ってね、シン。」
事務的に依頼を受けるとシンはそのまま出ていく。
受付の女性は心配そうにその後ろ姿を見ていた。
「あら?」
「はい、依頼を完了しました。」
メイレンがその少年を見かけたのは昼過ぎだった。
少年は掲示板をじっと見て、1枚剥がしてから受付に来た。
「………久しぶりの大型ルーキーね。」
依頼人からの終了印を確認して、メイレンは依頼書をしまう。
「で、次はこれをお願いします。」
「確かにランク2つ上まで自由に取れるならCをこなせば、少しの依頼で早くランクがあがるわ。とはいえ…いいえ、気にしないで。あの依頼をこれだけの時間で終えれるなら、実力はあるのね。」
依頼書を見て目を見張る。
シンをしばらく見つめてから、印を押して、依頼書をシンに返した。
「気を付けてね。」
「ありがとう。」
シンは再びギルドを出た。
「おめでとう。Dランクよ。」
依頼書を回収してメイレンはシンのランク上げの書類を処理し、ギルド証を預かるとDランクの処理をした。
「これでランクBの依頼が受けられますね?」
「そうね。できるわ。」
シンは依頼掲示板の前に行き見るとBランクの依頼書は多くなかった。
「…ブルハスの角を3頭分…これにするか…」
シンは己が楽だと思う依頼書を持ってメイレンの前まで行くと、依頼書を差し出した。
「あらあら、早速ね。ブルハスはランクBの象徴だけど、大丈夫かしら。」
「大丈夫ですよ。ブルハス退治は慣れましたから。」
Eランクが慣れるほどブルハスを退治していることに、職業上、ランクを上げるのにどれだけかかるかの平均を知っているだけにメイレンは驚く。
「…今までギルドランクを上げてこなかったのが不思議だわ。」
「育ての親の方針で…他にも一緒に引き取られた奴らがいるんですが、一応、年長者だからには2ランクアップどころか、3ランクアップしたいなぁ〜と…俺一番才能なさそうだし…」
ニャルマーは別てしてロイとバレイラには負けたくないのが本心だ。
「3日で3ランクアップ?」
それは無謀とメイレンはシンに忠告する。
「やれるだけやります。」
「応援するわ。シン。じゃあ、頑張ってきてね。」
こうしてシンの1日目最後の依頼に駆け出していった。
*
「まさかここまでやるとは…掲示板の依頼がD以下しかないなんて…」
シンが持ち去ったランクA最後の仕事を持ち去った後、C、B、Aの依頼掲示板が板だけになったのを感心しながら見ていた。
3日目の朝に最後の依頼が持ち出され、他に冒険者が居なかったことに安堵のため息をつく。
3日前の朝、このギルドに着いたEランクの少年が今やBランク目前である。
この依頼を終えて返ってきたら、Bランク昇格だ。
こんな大型ルーキーをメイレンは初めて見た。
メイレンも冒険者としてAランクではある。地味に地道に上げてきたが、自分の実力に限界を感じてギルドに転職したのだった。
メイレンは数字持ちの卵とはこういった存在なのだろうかと感嘆した。
「メイレンさん戻りました。」
「シン、お帰りなさい。」
煤けた顔をさせてシンが戻ってきた。
「あらあら」
メイレンはハンカチを取り出すと、シンに渡した。
「処理が終わるまで、拭いていて。顔が真っ黒よ。」
「ありがとうございます。」
「ふふふ、ダルコニアに灰を掛けられたのね。」
「火炎攻撃かと思ったら、ぼふって…しかも足早いし」
ダルコニアは弱いものの。その逃げ足の早さでランクAの魔物だ。ダルコニアの灰は火傷の薬として珍重されているのだが、その足早さでレア度を上げている。
しかし、竜真に追い掛けられて修行をしたシンには何のこともなかった。
話している間にも、メイレンは書類処理をし、シンにランク証を返す。
「ランクBよ、おめでとう。」
「ありがとうございます。あ、ハンカチもありがとうございました。」
ランク証とハンカチの受け渡しが終わる。
「もう行くのかしら?」
「はい。約束の日付なので。」
メイレンは受付を出て、足をドアに向けたシンを追う。
外に出て、シンがお世話になりましたと、さわやかに言うのを気持ち良く送った。
「シン、気をつけてね。」
「はい。お世話になりました。」
そのまま風のように走り去ったシンにメイレンは感嘆した。
「ダルコニアなんか遅いわね。」
メイレンはギルドの扉をくぐると、掲示板を見て一言、これはしばらく暇だわ。と呟いた。
シンはトントン拍子にランクを3つ上げました。