49.そう言えば
ナユタの宿屋につき、部屋だけは全員分リザーブしておき、リーシャを残して宿から出ると、竜真は財布から金貨を取出し、子ども組に与えた。
「とりあえず皆に金貨1枚ずつね。」
「リウマ様…私には…」
1人スルーされたニャルマーが哀しげだ。
「ニャルマーは大人だし、給料もらってるし………」
「ニャルマーさん、誰から給料もらってるの?」
事情を知らない3人が首をかしげ、代表でロイが質問する。
「リユカ帝国フェブカ領、領主シグルド=マナタナル=フェブカ様。あれ?話したことなかったっけ?」
ナイナイと、シン、ロイ、バレイラが首を振る。
竜真はあれ〜?とだけ思った後に楽しそうに言う。
「ニャルマーはね、僕の顔に一目惚れしちゃった挙げ句、追い掛けてこようとしたんだけど、主人たるシグルド様が優しい人でね、そのままやめさせることなく、見聞を広げる仕事をしてくれってニャルマーが僕に振られても生きていけるように仕事にしてくれたんだ。つまり、ニャルマーはこうして旅に出ているけど、実はシグルド様の召使でもあるってこと。」
「間諜みたいだね。ニャルマーさん。」
シンがぼそっとお人好しな貴族もいるんだなと呟いた。
竜真はそれを頭の片隅に入れておく。
きっと過去に貴族に対する意見が固まるようなことがあっただろうことは想像についたが、ニャルマーが情けない声でロイに反論するのにシリアスな雰囲気から飛び出たと苦笑する。
「私が間諜などと、あるわけないですよ。」
「似たようなものだね。さて、皆頑張ってきてねぇ。」
やると言ったらやるのが竜真だ。つまりは、頑張ってきてねぇ。と言われたら、さっさと行けと同義語なので、3人はさっさと、1人はしぶしぶに一行から離脱した。
***
4人の姿が見えなくなると、竜真はミグを見上げた。
「…ミグ。僕らも仕事しようか。」
そういう竜真の口調は少し寂しげだった。
ビシャヌラで一巡りとなる今回の旅路、帝都でのギルドの試合が終われば、そう遭遇することない竜真とミグなのだ。
「竜真、…帝都まではまだ暫くある上に政局が不安定な場所もある。ヨルさんのところまで行って預けられないなら、うちで4人をあずかってもいい。」
良い人であるミグの言葉に竜真は目を細めた。
「ふふ…ミグ、ありがとう。リユカには下僕しか居なかったんだけど、やっと友人ができたよ。」
「………下僕?」
竜真の口から出た不穏な言葉にミグの口元は引きつっている。
次の竜真の言葉にそのままミグは凍り付いた。
「オルレイア・ヴァルフレイア」
「っ!宰相閣下じゃないか!」
ミグは竜真の両肩に手を当てて、覆面の目の中を覗き込むようにして見つめると、竜真の目は楽しそうに輝いている。
「彼…僕にめろめろだからなぁ〜。ミグ、僕と旅をしたなんて彼に言ったら、泣かれるよ、号泣だよ。きっと資料室に立てこもられて僕についてグジグジ言われるよぉ〜。」
「宰相閣下がか?あの?石(意志)を通り越して岩人間とか?鉄壁とか言われてるあの?」
「彼、犬みたいだよ?僕を見ると尻尾ふりふり、可愛いんだよ。」
リユカ帝国の宰相、オルレイア・ヴァルフレイアは壮年の生真面目そうなで誠実、ストイックな中に男らしい色気も見れる、男が選ぶいい男である。
その仕事ぶりは外面がそのままに表れていて、生真面目に厳しい。ミグが言ったように岩人間と言うが相応しい。
竜真が言うような印象が全くない、見受けられない、ありえない。
勿論、ミグが知る宰相が号泣とかグジグジとか犬のようとか想像するだに…想像できな…したくないミグの顔色が悪くなっている。
「なんてね。蒼騎士には王弟と言う地位があり、僕には下僕希望者が大国にいるってこと。1stは怖いね。大会かぁ〜オルレイアに会えるかなぁ?」
竜真が固まるミグの手を下ろすと、ふふっと笑い、ビシャヌラの神殿へと歩きだした。
***
「そう言えば、ヤシャル、父さんに力と知識をもらったから、僕、ビシャヌラからの報酬が無意味になっちゃったんだよね。」
道中、ふと気が付いたと竜真がぽつり呟く。
ミグもそう言えばとそんな報酬だったと思い出していた。自分に対してはその報酬はままでいいが、竜真には無意味かもしれなかった。
「う〜ん、あの変態から何か報酬もらえるものあるかなぁ?」
「竜真…」
スケールの大きすぎるところもあれば細かいところもある。
そんな竜真の魅力にミグは魅せられているのは否定できないなぁと苦笑するのだった。
オルレイア・ヴァルフレイア…って誰よ?な49話です。
竜真さん…下僕ってなんでしょう?
作者泣かせにもほどが…
いえいえ、なんでもありません。
ありませんよ。
ありませんってば。
会えるかなぁってことは会いたいってことですよね?はい、アポは取っておきます。頑張ります。




